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ヨニ・リースマン氏は2019年9月に、プレミアムカクテルの体験を缶詰で効率的に提供することを目標に、新興企業であるティップトップ・カクテルズ(Tip Top Cocktails)を設立した。同社はアトランタを拠点としていたことから、卸売顧客の候補として、デルタ航空(Delta Airlines)に注目していた。
しかし、同社との話が動き出したのは、パンデミックの最中にデルタ航空が機内での飲料サービスを再開してからだった。そしてデルタは2021年4月、ティップトップの缶入りのオールドファッションやマルガリータを、国内便の機内で提供しはじめた。
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航空会社の影響力
ティップトップは、デルタがパンデミック時代に規制を受けたのち、2021年に機内サービスを再開した際に提供しはじめた、食料や飲料のブランドの新興企業のひとつだった。国内最大の航空会社のひとつと提携することで、ブランドへの認知を広め、より多くのスタッフを採用して、既存のビジネスを活気づけることができたと、創業者たちは語っている。
リースマン氏によると、最近の顧客調査で、ティップトップの顧客の20%はデルタでのフライト中に同ブランドのことを知ったことが示されているという。アウトキャスト(Outkast)のビッグ・ボーイ氏や、シェフのケビン・ギレスピー氏も、フライトで見たブランド名をソーシャルメディアで広めた。
「デルタで提供されていることで、ティップトップの存在を多くの人々に知ってもらうことができる」とリースマン氏は述べている。
デルタは、特に社会的地位の低い層の人々や、意識的なアプローチでビジネスを展開する企業との提携に力を注いでいる。新興企業もあれば、老舗企業もある。オンボードサービスオペレーションズ(Onboard Services Operations)のマネージングディレクターであるマイク・ヘニー氏は、同社が新しい商品を検討しているとき、デルタは小規模で、独自の商品を持ち、価値観の一致したブランドを探し求めていたと、米モダンリテールにメールで語った。
「我々は最高の顧客体験を提供することに加えて、有意義な関係を築くことを真に望んでいる」と、ヘニー氏は述べている。
急速な規模拡大
しかし、オーダーメイドのブランドと、世界最大級の航空会社のひとつとの提携は、一夜で実現したものではない。デルタは毎日4000便以上を運航し、年間で約2億人の顧客にサービスを提供している。このため、ブランドは自社の生産規模を拡大する必要に迫られた。
ティップトップの場合、同社はジョージアで操業していた。しかしデルタとの契約では、商品を適時飛行機に届けるため、急速な規模の拡大が要求されることになった。
「当社は、デルタの大量の荷積み市場への配達を急いで実現する必要があった」とリースマン氏は述べている。
しかし、同社にとってこの挑戦はチャンスでもあった。生産が増強されたことで、同社は市場でのリーチを広げ、新しい配送契約を結ぶ必要があったと、同氏は述べている。そして、すでに拡大がはじまっている。ティップトップはこの夏から、国際便でも提供されることになった。
デルタとの契約で規模拡大を実現したブランドに、2011年にワイオミングで設立されたケイトズ・リアルフード(Kate’s Real Food)もある。同ブランドは認定済みのオーガニックでグルテンフリーなコーシャスナックを販売しており、同社のダークチョコレート・チェリーとアーモンドのバーは約3カ月にわたってデルタの航空機で提供されてきた。この夏の後半には、提供される品目がレモンココナッツバーに切り替わる。
販売ディレクターを務めるマイケル・リチャードソン氏は次のように述べている。「当社の商品が大勢の目に留まるようにする絶好の機会だった。人々は変わったもの、自分たちが普段買い物に行く店では扱っていないような商品を試すことができる」。
しかし、この機会を獲得するのと引き換えに、物流上の問題も発生した。ケイトズは最近、ペンシルバニアのベッドフォードに新たな製造施設を開設した。これにより同社は、デルタからの需要を満たすために十分な量のバーを製造できるようになった。さらに、従来よりも注文量が大幅に増加したため、配送のための大型トラックを用意する必要があった。
スピリッツビジネスの復活
2020年夏、クリス・モンタナ氏は、妻のシャネルとともに過去7年間にわたって築き上げてきたビジネスのほとんどを失っていた。パンデミックにより同氏たちの蒸留酒製造ビジネスであるデュノルド・ソーシャルスピリッツ(Du Nord Social Spirits)は操業を停止しており、収益の60%が消失していた。ミネアポリスをゆるがしたジョージ・フロイド事件の抗議デモにより、同氏の資産は文字通り燃え尽きてしまった。
デルタが同氏に取ろうとしていることを知ったのは、そんな時だった。この航空会社は、全米初の黒人所有の蒸留所であるデュノルドの商品を、自社のフライトで提供することを希望していた。当初、同氏は積極的でなかった。同氏の工場には、国際便航空路線で必要な数百万本ものミニボトルを提供する能力がなかったためだ。
「当時は、デルタやほかの会社とも取引できる可能性はゼロだった。当社の優先事項は別の場所にあった」と同氏は述べている。
しかし、ミーティングは毎週のように続いた。そして、デュノルドの経営は軌道に乗った。1年以上を要したものの、計画は形になり、配送契約や、テネシーのリンチバーグにあるジャックダニエル(Jack Daniel)の施設を確保して、デュノルドのファウンデーション(Foundation)ウォッカの50mlボトルを数百万本を充填するなどの計画が具体化された。
創設者自身によるわずか6万ドル(約810万円)の投資により開始された企業にとって、これは途方もない規模の拡大だった。デュノルドのミニボトルは10月から機内で提供開始され、その契約からすでに新しい可能性が拓かれた。デュノルドの商品は現在、デルタの本社が存在するアトランタでも販売されている。
「大勢の人が『これが実現するのをぜひ見たい』と言ってくれた」と、同氏は述べている。
モンタナ氏にとって、同氏のビジネスは単に商品を提供するものではなく、伝統的に白人と男性に占められていた蒸留酒製造の部門に多様性をもたらすことが重要なのだ。デルタとの契約により、同氏はより多くのスタッフを雇用できるようになった。モンタナ氏と2人の従業員だけで運用されていたデュノルドは9人に増員し、業界に新規参入者を呼び込むことに力を注いでいる。
同氏は次のように述べている。「これは単にボトル詰めされた酒についての話ではなく、我々のコミュニティと次世代の起業家への投資は十分に価値を持つと考えている。我々は、それが自分たちに反映されるのに慣れていないが、ここでそれが起きたのだ」。
ブランドのリーチを広げる
パンデミック以前の小売の新興企業は、自社商品を顧客の目に触れさせる独自の方法として、旅行分野でのパートナーシップをますます求めるようになっていた。たとえばコッパーカウコーヒー(Copper Cow Coffee)はヒルトンホテル(Hilton Hotels)と、特定の場所で自社商品を扱う契約を結んだ。一方、サラダなどの食事を自動販売機で販売しているファーマーズフリッジ(Farmer’s Fridge)は空港に目を向けた。
しかし、これらの取り組みの多くは、パンデミックによって大部分が中断されることになった。現在、多くの新興企業は旅行分野でのパートナーシップの再開を求めている。国際航空運送協会(The International Air Transport Association)は6月、需要が急速にCovid前の水準に戻りつつあり、2021年4月と比べて需要は78.7%増加し、その多くは海外旅行の需要に支えられていると報告した。
旅行かばんの新興企業であるアウェイ(Away)も、このような例のひとつだ。同社は長距離の国際路線や大陸横断路線のプレミアムキャビンの乗客を対象として、6月にユナイテッド(United)で新しいアメニティキットの提供を開始した。ユナイテッドのマーケティングおよびロイヤルティ担当バイスプレジデントで、マイレージプラス(MileagePlus)のプレジデントも務めているリュック・ボンダル氏は、この契約が旅行への需要が高まるなかで「快適性と品質」を提供するよう意図されたものであると、プレスリリースで語った。
ビジネス成長を後押しする存在に
ケーソン・クレイン氏が2020年にエクスプローラー・コールドブリュー(Explorer Cold Brew)を発足したとき、この商品は旅行を念頭にデザインされたものだと同氏は語った。エクスプローラーの水出しコーヒーは32オンス(約946ml)のボトルと、1回分の2オンス(約59ml)のボトルで提供される。
同氏は次のように述べている。「柔軟性や持ち運びやすさのため、1回分のボトルを好む顧客も一部存在する。しかしその時点でも、航空会社が、機内で当社の商品を提供したいとは思うとは考えていなかった」。
そのあと、2021年の春にデルタが接触してきた。同社はエクスプローラーの濃縮液のことを自然と知り、同社がはじめてフライト中に提供する水出しコーヒーとしてエクスプローラーを採用可能かどうか知ろうとした。
これは絶好のタイミングだった。デルタとの契約を満たすため月間生産量を2倍にする必要があり、クレイン氏はプリシードのベンチャーキャピタル資金調達で150万ドル(約2億300万円)を別に確保した。2022年6月の時点で、エクスプローラーの一回分の2オンス濃縮液は一部の大陸横断とハワイのフライトで提供されている。
同氏は次のように述べている。「我々はTwitterやRedditでのメンションを追跡している。航空機で高品質な高級水出しコーヒーを味わえることに対して人々がどれだけ興奮しているかを目にして、活気づけられる。反応は驚異的なものだった」。
デルタと提携したほかのブランドは、最初からB2B手法が目標だった。ズライブ・ファーミング・インターナショナル(Thrive Farming International)は自社のイングリッシュ・ブレックファスト(English Breakfast)紅茶をデルタのフライトで提供しているが、約1カ月前にこの提携を提案された。同社は2011年に設立された認定済みBコーポレーションであり、コーヒー豆や茶葉を育てる農家に商品の売上の一部を与えることで、さらにインクルーシブで公正なサプライチェーンを構築することをめざしていた。
同社のプレジデントを務めるトム・マッテセン氏は次のように述べている。「当社は、農業コミュニティに与える影響を測定しているが、一度にそこに到達するのは困難だ。そのため、このような種類のパートナーシップは極めて重要なものだ」。
[原文:As travel rebounds, Delta is bringing more food and beverage startups on board]
Melissa Daniels(翻訳:ジェスコーポレーション、編集:黒田千聖)