ナイキ のダイレクト販売担当副社長が語る、デジタル事業を支える3つの原動力:「規模、体験、メンバーシップ」

DIGIDAY

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数字で見ると、ナイキ(Nike)のD2Cビジネスは年々堅調に推移している。

現在、同社は8000の実店舗、5つのグローバルストアコンセプト(Nike Rise[ナイキライズ]、Nike House of Innovation[ナイキ・ハウスオブイノベーション]、Nike Live[ナイキライブ]、Nike Style[ナイキスタイル]、Nike Unite[ナイキユナイト])、4つのモバイルアプリ(Nike、Nike Run Club[ナイキランクラブ]、SNKRS、Nike Training Club[ナイキトレーニングクラブ])を運営している。また、Netflix(ネットフリックス)に何百ものトレーニングセッションをアップロードし(ヨガから10分間のワークアウトまでをカバーしている)、Roblox(ロブロックス)での体験を開始し、ブロックチェーンを活用した新しいプラットフォームであるSWOOSH(スウッシュ)でバーチャルスニーカーの販売を開始した。

ここ数年、ナイキはD2C分野の成長に磨きをかけてきた。ナイキは現在も、卸売業者との関係や、3万カ所の流通拠点を有しているが、自社店舗、ウェブサイト、アプリでの販売に重点を移している。そして、この戦略は功を奏しているようだ。ナイキの2022年度のD2C売上高は187億ドルで、報告ベースで14%増加した。2月28日に終了した直近の四半期のダイレクト販売は、報告ベースで17%増の53億ドルだった。

「ナイキは、ほかの多くの小売業者と同様、パンデミックの初期にデジタル事業に目を向けた」と、ナイキダイレクト(Nike Direct)の担当副社長であるダニエル・ヒーフ氏は米モダンリテールに語る。ナイキの店舗は現在、営業を再開しているが、デジタル事業は、「信じられないほど急速に成長し」、現在も成長を続けていると、ヒーフ氏は述べる。また、「我々の競争力の分岐は、ほかの企業が伸び悩むなか、成長を続けてきたことにある」と説明した。

米モダンリテールは、ニューヨークにあるナイキのS23デジタルスタジオでヒーフ氏にインタビューを行い、D2Cに関するあらゆることを話し合った。以下のインタビューは、長さと明瞭さのために編集を加えた。

――ナイキのデジタル事業は、この2年間で2倍以上になったと聞いた。その理由は何か?

デジタルの成長の中心は、メンバーシップだと思う。メンバーシップは、非常に小さな取り組みから始まり、今では会社のエンドツーエンドとして考えるようになった。デジタルの成長の2つめの要素は、規模だ。デジタルの世界で競争力を発揮するためには、本当に大きなスケールで事業を展開する必要がある。そこで我々は、ナイキのアプリとウェブサイトを、可能な限り多くの国で展開するために、熟考を重ね、多大な時間を費やしてきた。最近、ヨーロッパの約15の市場でナイキアプリを開始した。4月には韓国でもナイキのアプリをリリースし、まもなくSNKRSアプリもリリースする予定だ。このように、まだ展開していない巨大市場もある。

3つめの要素は、それ自体が体験になったことだと思う。消費者は、ナイキのアプリとナイキのウェブサイトを発見した。素晴らしいサービス、品揃え、そしてストーリー性を発見した。そして、それを気に入り、また訪れてくれる。つまり、規模、体験、メンバーシップによるパーソナライゼーションの組み合わせが、我々ののデジタル事業を支える3つの大きな原動力だと考えている。

――メンバーシップの面を見ると、ナイキの会員数は1億6千万人だ。アクティブな会員を維持しながら、どのようにその数を増やしたいと考えているのか?

素晴らしい質問だ。それは、1年単位で考えることではなく、毎週、毎月、毎シーズン考えることだと思う。今、我々がどのようにビジネスを計画しているかというと、今いるメンバーについて考え、獲得したいメンバーについて考え、個々のメンバーがライフサイクルの中で、どの位置にいるのかを考えている。

たとえば、新しい製品カテゴリーで新規会員を獲得するために、特定の種類の発売や、特定の種類のメディアを選択することがある。つまり、「ナイキ・モティバ(Motiva)のような靴の消費者は、何人いるのだろう? その消費者すべてに提供するだけの在庫は揃っているのか? それとも、新しい会員を獲得する必要があるのか?」といった具合だ。そうすることで、我々がすでに知っている消費者を再び獲得する必要がなくなるので、会員やマーケティング費用を非常に効率的に活用することができる。

そして、自分たちのチャネルの中で、消費者の購買頻度をゼロから1に、1から2に、2から3にするための戦術を考える。そして、それがここ数年の大きな成功例となっている。3、4年前まで、ナイキダイレクトのビジネスの大半は、新規会員によるものだった。現在は、ナイキダイレクト、特にデジタルチャネルにおける需要の大部分は、既存の会員からもたらされるものだ。つまり、我々が築き上げたのは、複数のタッチポイントで、より頻繁に我々と関わる、より忠実でより価値のある会員ベースだ。

――ナイキと卸売業者とのコネクション・メンバーシップについて、もう少し詳しく教えてほしい。ディックススポーティンググッズ(Dick’s Sporting Goods、DSG)が加入しているのは知っているのだが、現時点で加入している小売店はほかにもあるか?

アスリートの声に耳を傾けることで、洞察を得ることができる。これは、製品について言えることだが、広く市場にも言えることだ。消費者は、「ナイキダイレクトの会員体験や会員特典は素晴らしい。だが、マルチブランドの中から買いたいのに、同じような報酬や待遇を受けていないと感じることがある」と言っているのだ。そのような消費者のインサイトから生まれたものだ。我々は、消費者が、いつでも、どこでも、どのような方法でも、我々と一緒に買い物をしたいと思うようなサービスを提供したいと考えている。我々はチャネルにとらわれず、ただその道に身を置き、消費者と関わりたいと考えている。それが、我々にとって本当に大切なことなのだ。

そこで、DSGとのコネクテッド・メンバーシップを開始した。また、EMEA地域では、JDスポーツとの連携も強化している。彼らは、我々がDSGパートナーが得ている恩恵と同じ恩恵をから見たのと同じ利益を見ている。DSGと連携したアカウントを持つナイキ会員は、連携していない会員よりも、価値が高く、忠実で、買い物の頻度も高いということだ。毎週、毎月、このプログラムの価値を高めるとともに、新しいパートナーを獲得していくプロセスだ。

――2023年にデジタル事業の規模を拡大し続けるための戦略は?

私はいつも、高いレベルで我々のビジネスを本当に動かしているのは、プロダクトとブランドであると自分に言い聞かせている。だから、自信がある。あまり詳しくは言えないが、フットウェアやアパレルの製品ポートフォリオを見て、我々が見ることになる成長を本当に信じることができる。そして、それが明らかに、デジタルビジネスの原動力になっている。素晴らしいアプリを持つことが素晴らしいビジネスを推進すると信じている人もいると思う。しかし、私の考えでは、その上流にあるのは製品とブランドだ。そのため、製品ポートフォリオ全体を見て、多面的に素晴らしい成長のチャンスがあると感じる。

もちろん、今後も規模を拡大し続けなければならない市場はある。ナイキの素晴らしいところは、消費者にどのようなサービスを提供できるかを長期的に考えていることだ。O2O事業のオペレーションを完全にスケールさせるにはどうしたらいいのか? 3年後のナイキアプリのストーリーテリングはどうなっているのか? といったことだ。

我々が満足できるものは何もない。そして、フロントエンドとバックエンドの両方で、常に改善すべき点を見出すことができる。

――ナイキはどのようにして顧客の来店を継続させているのか? 拡大計画とはどのようなものなのか?

我々は一貫して、2つの理由から、店舗を持つことを信じてきた。1つは、ナイキの流通とタッチポイントを拡大することであり、特にスポーツの優先分野と呼んでいる分野での拡大だ。我々は、プレミアム価格帯の女性用フィットネスウェアの流通を増やす必要があることを知っており、女性たちが、そうした市場で垂直的な買い物をするのが好きだということも知っている。そのため、それを実現するために店舗数を増やしたいと考えるのは自然なことだ。これは、ナイキの漸進的な成長を意味する。

2つ目のポイントは、我々がオープンする店舗は、エコシステム全体に貢献するものだということだ。ドアを開けると、景観全体でナイキの売上が上がっている。我々のデジタルプラットフォームでのナイキの売上が増加している。そして、我々の直営店でのナイキの売上も上がっている。つまり、1+1+1=4というようなものだ。これは、すべての船を上昇させる素晴らしい方法だ。

消費者はリアルな体験をすることができる。物理的な取引とデジタルな取引を結びつけることができる。ナイキの店舗では、多くのランニングクラブやフィットネスアクティビティが開催され、コミュニティが形成されている。店舗は、取引する場所であると同時に、スポーツとつながる場所でもある。

[原文:‘What truly drives our business at the high level is product and brand’: Nike’s vp of Direct on its DTC playbook, membership strategy & ‘three big drivers’ behind digital sales]

Julia Waldow(翻訳・編集:戸田美子)

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