Amazon、eコマース鈍化のなかローカル広告テコ入れ:ファーストパーティーデータ強みに中小企業を囲い込む

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eコマースの成長が鈍化するなかで、Amazonは収益増加のため、ローカル広告ビジネスなどの新しい広告商品を重視している。

Amazonは4月、自社の中核業務であるeコマース部門の成長が、3月末までの四半期に3%低下したことを報告した。しかしAmazonは、広告部門からの利益は23%増加し、78億ドル(約1兆500億円)に達したことも報告した。これは、同じ期間におけるAmazonの総収益の成長率である7%を大幅に上回っている。

ローカル広告でのエグゼクティブ採用

これに対応して、同社は広告ビジネスを成長させる新しい方法を模索している。ビジネスインサイダー(Business Insider)は6月8日、シアトルを拠点とする巨大企業であるAmazonが、自社のローカル広告部門について野心的な雇用計画を立てていると報じた。同社は新しい職位を発表し、ローカル広告エグゼクティブの役割を「Amazon Ads内の新興ビジネスに参加し、ローカル広告(Local Ads)の将来を築くため戦略的な役割を果たせる稀有な機会」と説明した。この職務の発表では、Amazonのローカル広告商品に何が含まれるのか詳しくは明かされていないが、中核業務の成長の鈍化とインフレの拡大のなかで、Amazonが何を優先しているかを示している。すなわち、新しい広告商品を推進することで、収益の増加を促進し、GoogleやFacebookなどの競合他社に対する優位を維持することだ。

AmazonのCFOを務めるブライアン・オルサブスキー氏は、第1四半期の決算発表で「当社は依然として、広告チームの業績や広告が、当社の顧客ベースと、顧客が購入を検討している段階で接触するため、広告を使用する出品者やベンダーなどによって高く評価されていることに十分満足し、歓迎している」と述べている。しかし、同氏はAmazonが「出品者が広告を管理し、マーケティングへの投資の回収を当社とともに分析し、計算する能力を強化できるよう、新商品を引き続き運用開始していく」とも付け加えている。

インサイダーインテリジェンス(Insider Intelligence)のプリンシパル・アナリストを務めるアンドリュー・リプスマン氏は次のように述べている。「Amazonは、FacebookやGoogleの保有するものを欲している。これらの企業は、非常に良質なビジネスをすでに築き上げているが、これは自社の可能性のごく一部にすぎない」。

中小企業を囲い込む

ローカル広告の推進は、巨大テック企業であるAppleとGoogleがプライバシー設定を一新し、Facebookのような競合他社に対して、利用者の行動を追跡する機能を制限する計画があることも背景としている。Facebookは、AppleのApp Tracking Transparency機能により、同社は2022年に100億ドル(約1兆3500億円)の損失を受けるとしている。

GoogleとFacebookは従来から、中小企業が広告を行うためにまっ先に検討する場所だった。2021年のドイツ銀行(Deutsche Bank)のレポートによると、Facebookの広告収益のうち75%は小規模ビジネスから得られたものだ。そのため、Facebookの広告収益が減少するにつれ、Amazonなどの企業にとって、中小企業がローカルな顧客と接触するために役立つ広告商品を作り出す可能性が生まれることになる。

ピュブリシス(Publicis)の最高コマース戦略責任者を務めるジェイソン・ゴールドバーグ氏は次のように述べている。「この新しいプライバシー重視の環境において、独自のファーストパーティーデータを保有し、それらのプライバシーポリシーに依存していないプラットフォームは大きな優位を持ち、これはAmazonが真に傑出している分野のひとつだ。同社には購入の行動について膨大なファーストパーティーデータが存在し、広告主にとって特に貴重なものだ」。

同氏は、Amazonがこれまでのところ「自社のファーストパーティーデータをうまく活用してきた」とし、「Amazonが自社のファーストパーティーデータを完全に活用する能力について考えるなら、今はまだ野球でいえば一回表にすぎないといえるだろう」と付け加えている。

デジタル広告の新時代

Amazonが広告を試験しはじめたのは2012年のことだ。同社の広告を最初に購入したのは小規模や中規模の企業だったと、リプスマン氏は語る。過去10年間に、シアトルを拠点とする巨大テック企業である同社は、Facebook、Googleに続いて米国で3番目に大きなデジタル広告プラットフォームとなった。

同社は消費者からの検索クエリを使用して、自社ウェブサイトで広告のターゲットを設定する。同社の広告収益の多くは、フラッグシップである小売サイトからのもので、eコマースアナリティクス企業のセリックス(Sellics)が最近行った調査によると、各社はここで、検索結果の先頭に表示される「スポンサープロダクト」として記載されるために料金を払っている。

Amazonはビデオコマーシャル、AmazonのFire TVの広告に加えて、Amazonの配達用段ボール箱での広告も提供している。また同社は各ブランドに対して、自社保有でないサイトでのオンライン広告の支援も行っている。若年層へのアピールを希望するブランドに対して、同社はプライムビデオ(Prime Video)、Fire TV、Kindle、アレクサ(Alexa)、自社のエコー(Echo)デバイス、ツイッチ(Twitch)を含む幅広いチャネルをビジネス成長のために提供している。

マーケットプレイスパルス(Marketplace Pulse)の創設者でCEOを務めるジョーザス・カジウケナス氏は、「Amazonの広告への野心は、同社の多くの部分を広告スペースに変えるといったものではなく、それを大きく超えるものだ。その部分でローカル広告などの取り組みが役割を果たすと、私は考えている」と述べている。

Amazonにとって、自社ビジネスをローカル広告以外に成長させる、短期的な機会はほかにも存在する。今年の秋に同社は、自社のストリーミングサービスであるプライムビデオでナショナルフットボールリーグ(National Football League)のゲームをストリーミングすることにより、テレビと類似した広告にはじめて大規模に参入する。

「この広告は、全国の大手広告主を、これまでになかったような方法で引き寄せるだろう。同時に、特定の地域限定でない広告主も間違いなくAmazonに引き寄せられるだろう」と、リプスマン氏は説明する。

Amazonの新しい実店舗であるAmazonフレッシュ(Amazon Fresh)食料品店や、同社が新たに開設したファッションストアなどにも、広告主向けのスペースが用意される可能性がある。

同社は前回のパンデミックで最大の勝利を達成した企業のひとつだったと、業界誌のリテールテクノロジー(Retail Technology)でディレクターとパブリッシャーを務めるミヤ・ナイツ氏は指摘している。同氏は、Amazonが自社のeコマースの影響力を広告と統合することで利益を得られるだろうと付け加えている。

「私は、FacebookやGoogleから何かをワンクリックで購入できるような接続は保有していない。Amazonは自社のリーチと、GoogleやFacebookよりもトランザクション式ビジネスに近接しているという事実を間違いなく活用できるだろう。自社の広告へのプレゼンスを、顧客のジャーニーにおける最初のステップにして、トランザクションまで結び付け、その全体をシームレスにするわけだ」とナイツ氏は付け加えている。

AmazonにはないFacebook、Googleの特異性

しかし、ソーシャルネットワーキングの大手企業であるFacebookには、ローカルな観点から見て、単に売るものがあるという業者より、より広範囲かつ多様な広告主ベースが存在する。

「Amazonはこの意味で、Facebookの市場シェアの一部を追い求めることになるが、Amazonがレジャー、ホスピタリティ、チャリティーなど、Facebookに完全に依存しているローカルな中小企業すべてを引きつけられるかという点、そしてFacebookが付加価値として提供しているコミュニティの観点から見れば、それだけでは十分とは思えない」と、ナイツ氏は説明する。

Amazonのローカル広告チームも、Googleが提供するような地理的な利点のいくつかを欠いている可能性がある。「Amazonの新しいローカル広告ビジネスには、Googleのものと比べていくつかの欠点がある。Googleの検索エンジンにはすでに、多くの地理的な検索用語があり、Amazonにはそれが欠けている」と、ゴールドバーグ氏は語る。

それでもAmazonは従来から、参入するあらゆる市場にとって非常に大きな脅威となってきた。

「Amazonの進化の初期段階において、人々は同社が書籍を売るのは得意だと知っていたが、電子機器の販売でも同じように成功するとは考えていなかったし、アパレルの販売まで行えるとはまったく考えていなかった」とゴールドバーグ氏は述べている。「Amazonがこれまで参入したすべてのビジネスにおいて、自社が固有の利点を持っており、Amazonは的確に対応できないだろうと考えていた既存の業者が存在した。しかし、Amazonはそれが誤りだと示してきた」。

[原文:Amazon is pushing for growth in local advertising as online shopping slows]

Vidhi Choudhary(翻訳:ジェスコーポレーション、編集:戸田美子)

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