Netflix の広告付きプランに対する5つの疑問:業界関係者たちが抱く、もっとも切実な疑問は?

DIGIDAY

もしNetflixがパラマウント(Paramount)を買収したら、いったいどうなるだろうか?

Netflixは4月19日、新たに広告付きプランを加えることを計画していると発表した。これを受けて米DIGIDAYが行った取材のなかで、あるエージェンシー幹部が投げかけたのが、上記の疑問だった(同じ週にTVおよびストリーミングサービス広告業界の幹部たちが議論すべきことが、このほかに何かあっただろうか?)。

Netflixによるパラマウントの買収は憶測の域を出るものではない(この幹部はこれを、Netflixが既存の広告事業に付け足すのにちょうどいい戦略として挙げた。もしそうなれば、Netflixは既存の広告主との取引関係やアドテクインフラ、NFLをはじめとする広告付きのプレミアム番組などを手中に収めることになるだろう)。しかしそれは、広告ビジネスの立ち上げをめざすNetflixをめぐって交わされる話題の象徴でもある。

業界の幹部たちがNetflixの構想について抱く疑問は、これだけにとどまらない。4月下旬、筆者はエージェンシー幹部たちに、Netflixが抱く広告への野望についての疑問を求めた。そのなかには、4月21日に米DIGIDAYが開催した「Business of TV Forum」の会場で聞き出したものも含まれている。そのなかから、もっとも切実な疑問をいくつか紹介したい。なお、率直な意見を聞き出すため、一部の関係者については名前を伏せている。

疑問その1:Netflixの広告販売を監督するのは誰なのか?

Netflix広告販売部門のトップという仕事は、営業に携わる者なら誰もが就きたがるポストのひとつといえるだろうと、2人目のエージェンシー幹部はいう。「何年も前から、クライアントからNetflixでの機会についての問い合わせを受けてきた。Netflixの広告部門のトップが広告主の確保に苦労することはまずないだろう」と、同氏は語る。

また、同社が広告付きサブスクリプションの戦略を練り始めたばかりであることを踏まえると、次期広告営業責任者は広告主の需要が高まっていることを利用して、他社と差別化された広告商品ポートフォリオをじっくり考えることができるだろう。TVおよびストリーミングサービスの広告費の獲得に向けて幸先のいいスタートを切っている競合他社を引き離すチャンスとなる。。

誰がこのポストに就くのかに関しては、エージェンシー幹部たちの口からは当然のごとく、ディズニー(Disney)のリタ・フェロー氏、NBCユニバーサル(NBCUniversal)のリンダ・ヤカリノ氏、パラマウントのジョー・アン・ロス氏といった、大手のTVおよびストリーミングサービスの広告事業をすでに率いている多彩な顔ぶれの名前が飛び出した。そんななか、一部から熱烈な支持を集めたのが、スナップ(Snap)の広告販売幹部であるピーター・ネイラー氏だった。元NBCユニバーサル幹部の同氏は、2014~20年にかけて、フールー(Hulu)の広告販売部門を率い、同社を広告界の主要プレイヤーへと育て上げた。その手腕により、同社はアップフロント(TV広告枠の先行販売)でもTVネットワーク各社と対等に渡り合えるところにまで登りつめた。

ネイラー氏は、ストリーミングサービスにおける広告プロダクトの成功法を実質的に確立した人物と目されている。インタラクティブ広告やプログラマティックバイイングオプション、ポーズ(一時停止)広告といった新たなフォーマットの導入など、その手法は多岐にわたり、のちに他社もこれらの手法を取り入れるようになった。

3人目のエージェンシー幹部も、ネイラー氏の引き抜きを確信するなかのひとりだった。同氏の確信は揺るぎなく、引き抜きの可能性について尋ねると間髪入れずにこんな答えが返ってきた。「あなたはどう思う? 彼ら(Netflix)はそんなに賢いのか?」。

疑問その2:Netflixはどんな広告フォーマット売るのか? どうやって売るのか?

すべての番組・映画にプレロール/ミッドロール広告が入る公算が高い。いま言えるのはこのくらいだ。しかし、こんなシンプルな答えでも、そこから感じ取れるニュアンスに好奇心が掻き立てられる。

コネリー・パートナーズ(Connelly Partners)のパートナーで、メディアサービス担当ディレクターのミッシェル・カパッソ氏は、Business of TV Forumで次のように語り、Netflixの番組ライブラリーとオーディエンスを広告主はどのくらい利用できるようになるのかに関して、そこから派生するさらに大きな疑問を2つ投げかけた。「何が広告付きで、何が広告付きではないのか? そして、それはNetflixが持つ巨大な基盤のどの部分なのか? 我々はしっかりと目を凝らして、それがどの程度影響するのかを見極めていかなければならない」。

インベントリに関する疑問はほかにもある。「広告は1時間につき何分間流れるのか?」もそのひとつだ。NBCユニバーサルのピーコック(Peacock)やワーナー・ブラザース・ディスカバリー(Warner Bros. Discovery)のHBOマックス(HBO Max)などの、広告付きプランを展開する大手の競合他社は、5分のラインで落ち着いている。「Netflixがプレロールやミッドロールといった標準的な広告フォーマットで満足するのか?」「一部の番組・映画に関してスポンサーシップ販売をめざしていくのか? ブランドのコスト負担で制作される番組への進出も視野に入れているのか?」といった疑問もある。

Netflixは番組のプロモーションと引き換えに、企業各社と「ストレンジャー・シングス 未知の世界」などのオリジナル番組に製品を差し込む共同マーケティング契約を結んできたが、これを足場にして、プロダクトプレイスメントの販売を本格的に開始する可能性もある。

また、「Netflixの広告インベントリーがどのような形で販売されるのか?」という疑問もある。ともかく、この点について疑問は尽きない。

電通のUSナショナルビデオイノベーション部門でシニアバイスプレジデントを務めるブラッド・ストックトン氏は、Business of TV Forumにおいて「しっかり理解しておくべき重要なポイントは、そのアドテク設定がどのようなかたちになるのかという点だ」と語った。具体的には、広告主が利用できる購入方法に関して、「完全にインサーションオーダーで管理するサービスになるのか? そこにプログラマティックの実行はあるのか?」と、同氏は疑問を投げかけた。

疑問その3:Netflixはターゲティング広告を販売するのか?

答えは「イエス」のようだ。だが、ここにもまた「ニュアンス」が顔をのぞかせる。

広告主がNetflixの見通しに楽観的である理由のひとつは、2億2160万人という同社の有料会員数だ。それが提供する相当量の決定論的データセットは、ターゲティング広告を実施するのに十分だと考えられる。サードパーティCookieが消えつつあるいま、アプリ内トラッキングには制限が課され、IPアドレスも絶滅の危機に瀕している。ファーストパーティデータこそが重要であり、Netflixはそれを保持しているように考えられている。しかしながら、そのデータを掘り出して金に変えるには、同社は外部の企業に門戸を開く必要が出てくるだろう。

確かに、Netflixは数億人分のメールアドレスやクレジットカード番号などの情報を保有している。しかし、はたしてNetflixが自社のオーディエンスのことをどこまで知っているのかとなると、GoogleやFacebook、Amazonが数十億ドル規模の広告ビジネスの基盤としている行動、サイコグラフィック、コマースに関する同社のインサイトは、十分とは言い難いレベルだ。Netflixは、どんなタイプのコンテンツが人々に支持されるかについては熟知している。これはコンテクスチュアル広告を中心に据えた広告ビジネスの構築には非常に重要だが、熟知しているだけではどうにもならない。

Netflixにとって幸運なのは、 広告業界が「データクリーンルーム」の時代に突入したということだ。このデータクリーンルームのなかでは、広告バイヤーとセラーが各自のファーストパーティデータセットをプライバシーに配慮しながら相互参照して、ターゲティング広告の出稿を容易化できる。Netflixはこれを、より細やかなターゲティング広告の実現への道と見なしているようだ。これが実現すれば、大雑把なターゲティングを上回る売上が見込めるようになるだろう。

4月19日に開かれたNetflixの2022年第1四半期決算報告で、同社の共同CEO、リード・ヘイスティングス氏は次のように語った。「オンライン広告市場が進化を遂げたいま、かつてのようにユーザーに関するあらゆる情報を組み入れる必要はなくなった。Netflixは純然たるパブリッシャーとして、マッチングやユーザーに関するデータの統合をすべて他社に任せられるようになった」。

疑問その4:Netflixはサードパーティの測定プロバイダーに門戸を解放するのか?

Netflixが外部の測定プロバイダーへの門戸開放を嫌がっていることはよく知られている。制作会社がNetflixに対して抱く主なフラストレーションのひとつは、自社が制作した番組なり映画なりを何人の視聴者が見たのかを正確に知る手立てがないことだ。これが広告主となると、こうした「不透明化」を受け入れる見込みは少ないだろう。

具体的には、広告主はNetflixに対して、従来型TVやほかのストリーミングサービスで流れる広告と同様に、自社広告の視聴者数の追跡をサードパーティの測定プロバイダー(ニールセン[Nielsen]やコムスコア[Comscore]、iSpot.tvなど)に許可するように求める流れになっていくだろう。またNetflixも、ディズニーやNBCユニバーサル、パラマウント、ワーナー・ブラザース・ディスカバリー、さらにはAmazonやRoku(ロク)、YouTubeといった主要プレイヤーたちが広告市場で繰り広げる競争がいっそう激化する昨今、こうした測定を提供すれば、一定の広告収入を維持できるという金銭的なインセンティブが得られる。

ピュブリシス・メディア(Publicis Media)でアドバンストTVおよびクライアントサクセス部門のエグゼクティブバイスプレジデントを務めるニコル・ホワイトセル氏は、Business of TV Forumで次のように語った。「そのウォールドガーデンがどのように見えようとも、Netflixの広告インベントリーに対する需要はあるだろう。その需要の規模はどのくらいなのか? その需要はどのくらい持続するのか? もしNetflixに費やす広告費とその他の費用を広告主が比較できないなら、そのハードルは時間の経過とともに上がっていくかもしれないが。結局のところ、いま我々が抱えている最大の疑問のひとつがこれなのだ」

疑問その5:Netflixの広告付きプランは、オーディエンス間の社会経済的なアンバランスを助長するのか?

確かにこれは非常に頭の痛い問題だ。しかし同時に、これは重要な疑問でもある。この疑問をBusiness of TV Forumで投げかけたのは、グループエム(GroupM)で調査および投資分析部門のエグゼクティブディレクターを務めるバラード・ラメッシュ氏だった。そしてこれはNetflixだけでなく、主要ストリーミングサービス全体についてもいえることでもある。Netflixとディズニー+(Disney+)が広告付きオプションを導入すると、オーディエンスは料金を払って広告を拒否する層と、そうしない層に分かれることになる。

「人口の30%を占める富裕層が広告を完全にオプトアウトしたら、どうなるのか?」と、ラメッシュ氏は問いかけた。もしそうなれば、広告は「料金を払う余裕がない人々に対する一種の税金」になり、「いわゆる『望ましい』オーディエンス、『都会暮らしの若くて裕福な』オーディエンス」へのリーチを試みる広告主もさまざまな障害にぶつかることになると、同氏は述べた。

Netflixが広告付きプランを発表した直後に湧きあがったすべての疑問のなかで、いちばん答えるのが難しく、いちばん重要なのは、おそらくこれだろう。

[原文:Future of TV Briefing: 5 questions about Netflix’s ad-supported plans

Tim Peterson(翻訳:ガリレオ、編集:分島翔平)

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