Amazon TAMの値上げが引き起こす「誰がコストを払うのか」問題

DIGIDAY

広告王国の新星といえば、Amazon広告だ。そう言って、ほぼ差し支えないだろう。Amazon広告のAmazonパブリッシャー・サービス(Amazon Publisher Services:以下、APS)は、この業界のセルサイドのマネタイズオプションとして市場を支配する、現王者のGoogleに挑める資格を十分に備えている。

しかし、5月1日に実施された、APSの魅力的なバイヤー需要へのアクセスを支援するサービス「トランスペアレント・アド・マーケットプレイス(Transparent Ad Marketplace:以下、TAM)」の値上げが、そのオプションと「誰が料金を払うべきか?」という古くからの難題について秤にかけるメディアオーナーも出てくるかもしれない。

もしそうなれば、関係者のあいだで議論が白熱するのは必至だ。

コストはパブリッシャー負担に?

APSの担当者たちは数週間ほど前から、SSPや、パブリッシャーを広告主とつなぐアドテク企業各社との接触を開始し、差し迫るTAMの値上げを関係者に伝えていた。事前にAmazonから米DIGIDAY宛に送られてきた声明よると、TAMの入札システムは5月1日に変更されるとされていた。

パブリッシャーサイドの情報筋(匿名希望)が見せてくれたAPSからのメールにも、「2023年5月1日付で、APSはTAMのバイヤー手数料の変更を実施する」と書かれている。「現行の、ペイドインプレッションに対する0.01ドルのCPM手数料は、パブリッシャーが受け取る純売上高に対する2.5%の手数に置き換えられる。オークションの仕組みには変更はなく、Amazonに対して純額での入札を行う契約上の義務がバイヤーには課される」。

Amazonの広報担当者に回答を求めたが、公表を前提としたコメントは得られなかった。この声明には続きがあり、「オークション後のパブリッシャーへの料金請求は、APSとのバイヤー契約に違反する」と述べられている点を、複数の関係者が指摘している。

セルサイドにいる関係者たちは、この言い回しにジレンマを感じている。SSPはこれまで、APSのかつての料金モデルの下で、CPM手数料を肩代わりしてきた。起こり得る直感的な反応では、こうした値上げはサプライチェーンへと回され、パブリッシャーが(最終的には)料金を支払うことになるだろう。

プレビッド? それともTAM?

しかし、上記の表現が示唆するのは、こうした動きはシナリオ外のことであり、これによって今後どのような対応をとるべきかといった議論になる。選択肢のひとつは、TAMからPreBidへの切り替えだ。オープンソースソフトウェアであるプレビッドを利用すれば、パブリッシャーは、大手テック系プラットフォームにありがちな手数料を支払うことなく、オープンな独立系SSPからデマンドを調達できる。

一方、インデックス・エクスチェンジ(Index Exchange)で南北アメリカ地域・グローバルパブリッシュング部門のシニアバイスプレジデントを務めるマット・バラシュ氏によれば、5月の1カ月間、APSバイヤーが支払う手数料の増額分を同氏のオフィスが肩代わりするという。「厳しい経済状況の下では、マージンが重要だ。プレビッドの代替策は、統合を望むパブリッシャーに高い費用対効果をもたらし、長期的に投資を回収することができる」と、同氏は語る。「オプションに対する理解をバイヤーに深めてもらうためにも、初月はインデックス・エクスチェンジが手数料を支払うつもりだ」。

パブリッシャー向けセルサイドサービス、トラステックス(TrustX)のCEO、デビッド・コール氏はDIGIDAYに対し、「見識のあるパブリッシャー」なら、この業界の悪名高き「テック税」を最小限に抑えられるサプライパスを選ぶだろうと話す。しかしながら、そのデマンドの大部分をAmazon DSPが生み出しているため、別のプラットフォームへ移れば、TAM関連の売上が減少する可能性もあると、別の情報筋は述べている。

「パブリッシャーがいまやるべきことは、収益を最適化して、他のソースからデマンド・予算を獲得できるかを確かめることだ。しかし、ほとんどがそうではないと、私個人は思っている」と、ある情報筋は語る(勤務先のPRポリシーにより匿名)。「つまりこれは、広告主がAmazon DSPから撤退しないかぎり、ほぼ強制的に支払わなければならない手数料だということだ。ただし、もしそんなことをすれば、彼らはAmazonオーディエンス・ターゲティング(Amazon Audience Targeting)を利用できなくなる」。

上がり続けるコスト

パブリッシャーコンサルティングサービス、ビーラー.テック(Beeler.Tech)の創業者でCEOのロブ・ビーラー氏は、パブリッシャーが自社のプログラマティック設定を最適化する能力が、これによって悪影響を受けるおそれがあると指摘する。「AmazonやSSPは、(TAM経由で)集められる入札や売上に関する正確なデータをパブリッシャーが入手できるように、問題の解決に取り組むべきだ」と、同氏は語る。「そこには必ず相違が生まれるはずだ。非常にいかがわしい」。

コンサルタンシーサービス、ジャウンス(Jounce)のCEO、クリス・ケイン氏は、ここ最近の一連の動向を「アドテクベンダーが他のアドテクベンダーを除外しようとする、あからさまな動き」と表現する。そしてその一方で、何がどうなろうと、パブリッシャーは今後も「アドテク税」の増税に直面することになるに違いないと述べる。

同氏はこう語る。「パブリッシャーは一致して、『効果的なアドテクにかかる手数料は上がっているが、押し返すだけの力がない』と、言っているような印象を受ける」。

[原文:Amazon’s pending price hike stirs debate among media owners

Ronan Shields and Seb Joseph(翻訳:ガリレオ、編集:分島翔平)

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