ソーシャルファースト なゲームディアFSGのコンテンツ戦略:「ゲーミングをメディアのトップカテゴリーに押し上げる」

DIGIDAY

メディアブランド、フル・スクアッド・ゲーミング(Full Squad Gaming、以下FSG)はYouTubeやTikTokといったプラットフォームで配信するゲーマー主体の動画コンテンツにフォーカスするべく、2020年後半に創業した。以来、同社は急速な拡大を遂げ、ゲーミングインフルエンサーのジェイク・ラッキーといった人気者を雇用してコンテンツ制作にあたらせるととともに、2022年5月には、複数の米州を巡る販促バスツアーに(文字どおり)出発した。

ゲーミング/eスポーツジャーナリズムに対する、FSGのソーシャルファーストな、インフルエンサー主導型の姿勢は、ゲーミングオーディエンスの移り変わる嗜好を反映したものだが、そこには独自の現実的および倫理的課題もある。

FSGを所有するのはハード・キャリー・ゲーミング(Hard Carry Gaming)、つまり主要eスポーツ組織NRGイースポーツ(NRG Esports)の親会社だ。そのため、FSGはロサンゼルスのNRG本社内にスタジオを有するが、共同創業者/COOベンジ・ギャラガー氏は、同社は自立した企業であり、「より大きな組織であるNRGから、完全に独立している」と強調する。

FSGの編集面における独立性を示す一例が、上記のバスツアー中に見られた。それはFSGが元NBAスター選手、シャキール・オニール氏に取材した(そしてその会話がTikTokでバズッた)ときのことだった。オニール氏はNRGの主要投資家のひとりだ。だが、取材を取り付ける際、ギャラガー氏はNRGに手を回してもらわず、あえて直接、オニール氏のエージェントを介して連絡した。「クリエイティブ面は、すべて我々の主導だ」とFSGのマネージングエディター、ブランドン・ブラスウェイト氏は話す。「NRGからたとえば、『これとこれを絶対に取り上げろ』などと言われることはない」。

FSGの構想

  • ソーシャルファースト
  • インフルエンサー主導
  • eスポーツに留まらない守備範囲
  • ゲーミングとポップカルチャー全体との連動
  • Twitch的コンテンツでゲーミングオーディエンスにアピール

FGSのインフルエンサー主導戦略

FSGの守備範囲は実際、eスポーツの枠に留まらない。「我々は第一級のゲーミングメディア企業だと自負している。だからこそ、我々の目は双方に向いている――つまり、米ラッパーのポスト・マローンがゲーミングインフルエンサーのティミーと共にエーペックスレジェンズ(Apex Legends)をプレイする様子も取り上げるし、昨晩はコール・オブ・デューティ(Call of Duty)のプロ、クレイスター氏が社に来てくれて、彼の経歴や半生について語り合った」とギャラガー氏は話す。「FGSの使命はゲーミングをより重要なサブカルチャーとして扱い、メディアのトップカテゴリーの座に押し上げることだ」。

ゲーミングとポップカルチャー全体との連動を重視する、ゲームに特化したメディア企業は、ほかにもある。FSGをそれら同業他社と一線を画す存在にしているのが、あからさまなまでのインフルエンサー主導戦略だ。現在、FSGのいわゆる顔はラッキー氏であり、同氏は同じくゲームに特化したメディア、イースポーツ・トーク(Esports Talk)でeスポーツニュース動画制作のいろはを学んだとはいえ、ジャーナリストというより、コンテンツクリエイターとして知られている。

3月にラッキー氏と契約した際、FSGは同氏に社のパーシャルオーナーの座を供しており、これについてギャラガー氏は、「彼が現時点でこのコミュニティ内に有する価値を反映したもの」と表現している。一方、eスポーツメディアの観測筋らは、より現実的な見方をする。「ジェイク・ラッキー氏は膨大な数のフォロワーを築き、ただのインフルエンサーに留まらない存在へと成長しつつある」と、ゲーミングに特化したパブリッシャー、デゼルト(Dexerto)のビジネスデベロプメント部門トップ、マイク・マーフィー・オーライリー氏は指摘する。「そしてもちろんそうした人々の雇用には、人はいつか辞めるかもしれない、というリスクが常に付いて回る」。社の所有権を与えることには、ラッキー氏の目が他社に向かないようにする狙いもあったのではないかと、氏は言い添える。この取引に関する具体的な金額は、いずれの側も明かしていない。

Twitch配信を見ている気にさせるニュース

FSGのコンテンツを見ていると、日々消費されるジャーナリズムというよりもむしろ、典型的なTwitch配信を見ている気になる。たとえば、ラッキーが深刻なニュースを伝えたかと思えば、次の瞬間にはゲームトレーラーに熱い反応を示す、という姿はよく見られる。従来のジャーナリストはあるいは、こうした姿勢に眉をひそめるかもしれないが、ゲーミングオーディエンスからは絶大な支持を受けており、彼らの関心(および支出)は実際、強力なインフルエンサーたちになおいっそう支配されている。FSGが取り上げるゲーミング/eスポーツ関連ニュースは、ゲームに特化しているか否かにかかわらず、他メディアのそれとまったく同じものだが、FSGはそれをドクター・ディスレスペクト(Dr Disrespect)やエックスキューシー(xQc)といった人気ストリーマーの配信に慣れ親しんでいるゲーマーに受け入れられやすい手法で伝えている。

「自分のなかでは、eスポーツとゲーミングカルチャー関連のコンテンツに対する見方が革新的に変わった。これまではたいてい、『さあ、記事を書かないと。誰が、何を、どこで、なぜ、を網羅しなければ』と考えていた」と、ブラスウェイト氏。「そしてそのせいで結果的に、TikTokやTwitter、インスタグラムといった特定のプラットフォームを使う人々と真の会話を持てる機会を失ってしまうことも少なくなかった」。

FSGはインフルエンサー重視の姿勢をとることで、Dexerto(デクセルト)にまた一歩近づいている。Dexertoはゲーミングコミュニティのインフルエンサー側へのフォーカスを、そしてブランドコンサルタンシーといった収益源の確保を通じて高収益を実現する、業界では数少ないジャーナリズム企業に成長した。(ギャラガー氏は、FSGも「独自のメディアビジネスモデルを通じ、独立した企業として採算が取れている」と話したが、同社の具体的な収益源については、明かさなかった。ちなみに2021年、NRGのトップ、ブレット・ラウテンバック氏はスポーツ・ビジネス・ジャーナル[Sports Business Journal]に、同社は当初、広告販売とスポンサー料に依存していたと、語っている)。

近年、動画分野に著しい進出を見せてはいるが、Dexertoの主力プロダクトは依然、自社ウェブサイトで息づく文章コンテンツだ。同社CEOジョシュ・ニーノ氏によれば、そうした文章コンテンツは閲覧率とエンゲージメントのいずれにおいても、サードパーティプラットフォーム上のそれよりも潜在的に安定感をもたらしてくれるという。「YouTubeがGoogleと同じく気まぐれなのはよくわかっている。今日、すべてを手にしていても、一夜にしてゼロになることだってありえる、アルゴリズムが変われば、それでおしまいだ。それはサステナブルなのか? 動画ジャーナリズムで中核事業は成り立つのか? 個人的な見解は、まだだ。一足飛び、というわけにはいかない」。

倫理的な問題もある。ラッキー氏は以前、文脈を無視したスクリーンショットの投稿や扇情的なニュースの取り上げ方を激しく非難された。実際、FSGの半分コンテンツクリエイター、半分ジャーナリストという立ち位置は、注目を集めやすい反面、より社会批評的または冷静な視点で記事に臨む従来の記者にとっては、不満の種にもなりうる。2022年3月、FSGがベテランeスポーツジャーナリスト、ブラスウェイト氏をマネージングエディターとして雇い入れたのは、正真正銘のジャーナリスティックな経験の注入という、同社がどうしても欲しかったものを手に入れるための動きにほかならない。

「ゲーミングはフォーカスのひとつ」

ただ、こうした課題はあるものの、FSGが飛躍的な成長を遂げているのは間違いない(少なくとも、同社の発表によればそうだ)。同社の内部資料によると、FSG全体で、閲覧/視聴数は前年比71%増を記録しており、FSGだけで1カ月の閲覧/視聴数が平均で1億500万回を越えた。TwitterにおけるFSGブランドへのリーチ数は772%の伸びを見せており、プラットフォームをまたいでの総ソーシャルフォロワー数は630万人に上る。この成長が続けば、FSGのソーシャルファーストモデルは、ゲーミング/eスポーツジャーナリズム界の新たな標準になりうる。

「我々はライフスタイルブランドに近い存在であり、ゲーミングはフォーカスのひとつだと考えている」とギャラガー氏は話す。「したがって、ゆくゆくはすべてを網羅できると確信している、あくまでもゲーマーの視点を通して、そうできると」。

[原文:How Full Squad Gaming’s influencer-powered approach reflects the future of gaming and esports media

Alexander Lee(翻訳:SI Japan、編集:分島翔平)

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