コカ・コーラの インハウス化 計画、2年目の現状は?:「かつてないほどインハウスの形が多種多様になっている」

DIGIDAY

どこよりも評判の高い最大手の広告主でも、マーケティングのインハウス化には苦労する。コカ・コーラ(Coca-Cola)がその好例であり、インハウス化計画2年目にしていまだ道半ばである。

しかし、それは必ずしも悪いことではない。多くの点で、意図的にゆっくりと進めているのだ。マーケターが、広告に対するコントロールをより強めようとする際に意識しなければならない細かなニュアンスが、あまりに多いからだ。たとえば、隠れたコスト、計画遂行上の物理的なハードル、政治的な火種。実際に、こうした課題への対応を急いだがためにインハウス化が完全に頓挫してしまった事例を証言できるマーケターは少なからずいる。

コカ・コーラとしては当然、同じ過ちは避けたい。

このため、コカ・コーラでは最初から大きな変革を狙うのではなく、社内チームがあることで徐々に得られるであろうメリットに的を絞っている。同社のグローバルオーディエンス&アドレサブルメディアマネージャーのジェームズ・ドノバン氏が2022年5月第4週にロンドンで開催されたプログラマティックパイオニア(Programmatic Pioneers)の檀上で語ったところによると、こうすることで手に負えない状況になってしまう事態を避けられるという。

ドノバン氏は「多くの点でまだ始まったばかりだ」と続けた。「2020年に大きな組織再編を行ったが、その一環としてマーケティングとメディアサービス部門を立ち上げた」。この部門には、社内外のマーケティングとメディアのエキスパートたちが集められている。「目的は、すべてのプロセス、キャンペーン、データ利用の効率を可能な限り向上させること。その一環としてオーナーシップを持ちコントロールの掌握を図ることになった」とドノバン氏はいう。

コカ・コーラ、インハウス化のポイント

  • 狙うのは大きな変革ではなく、これから徐々に得られるであろうメリット。
  • プロセス、キャンペーン、データ利用の効率化。
  • 専門的人材をひとつの部門に集中。
  • エージェンシーとの関係の合理化。鍵は人材採用。

同社独自のインハウス化

コカ・コーラのような広告主にとって、これは特に新しい試みではない。むしろ、デザインやクリエイティブ、メディア管理まで、コカ・コーラのマーケティングにおいてこれまでインハウス化されていなかったものを探すほうが難しいだろう。今回がこれまでと違うのは、マーケティングなど多くの専門的人材をひとつの部門に集中させている点だ。彼らの専門知識を直接利用することで得られるオペレーション上・戦略上の利益を実現しようとしている。

「ありとあらゆるものをインハウス化するわけではないという点で、当社のインハウス化は多くの人がイメージするものとは違う」とドノバン氏は語った。

この発言の裏には、コカ・コーラがインハウス化のトピックに関して機転を利かせようとしているという。インハウス化というと、エージェンシーの損失につながるかのように語られることが多い。実際にはそうではないことが証明されているにもかかわらず、である。現実的には多くの広告主が、エージェンシーを社内チームに置き換えた後もエージェンシーの利用を続けている。

コカ・コーラも同じだ。どこからどう見ても同社のアプローチはハイブリッド型で、エージェンシーが社内チームにとって実質的にある種の相談役の役割を果たしている、という見方もできる。

「社内チームは、200カ国以上で事業を展開する会社の10人強のチーム。自分たちだけで対応するのは不可能なので、エージェンシーやパートナーに頼ることになる」とドノバン氏は話す。「社内チーム、ハイブリッドモデルなど呼び方はどうあれ、最終的にはエージェンシーやパートナーと一緒に仕事をしなくては成り立たない」。

エージェンシーとの新たな関係性

たとえばアドテクを例に見てみよう。コカ・コーラは複数のアドテクベンダーと直接契約しており、どの契約についても、コカ・コーラの社内メディアチーム内に席を置くデジタルエキスパートの担当者がいる。それでも、社内チームが常に把握することが難しいアドテクの最新トレンドの専門知識となると、エージェンシーの出番となる。

「エージェンシーとの会話は多くの場合、当社のマーケターがエージェンシーの仲間に『このようなことを始めたのだが、どう思う?』と投げかけて、彼らから率直な答えが返ってくる、といったようなものだ」とドノバン氏は話した。「エージェンシー側が案内役となってくれる信頼感がある」。

そもそもエージェンシーを使うモデルは想定されておらず、後からモデル変更を強いられているマーケターの多くが、社内外のバランスを探ろうと苦労している。コカ・コーラの場合は、全体的な体制見直しのなかでメディア予算を4つのエージェンシーグループから2つに絞るのと並行してインハウス化戦略が作成されたため、このような問題は発生していない。彼らのエージェンシーモデルは、最初から社内チームとの共存を想定して設計されていたのだ。

ドノバン氏によれば「全体的なエージェンシーの見直しにあたって、まず一度エージェンシーとの関係をリセットした」そうだ。現在、メディア予算のうち約90%がWPPに投じられ、残りは電通で占められるとドノバン氏は続けた。つまり、コカ・コーラとエージェンシーとのあいだには、シンプルで合理化された関係がある。

「インハウス化のトレンドによって、コカ・コーラとWPPとの協力関係が強化された」とドノバン氏は話す。「当社はエージェンシー幹部に物申すことができるし、彼らも当社に対して同じことができる。そのため、両社のあいだに健全な対話がある。たいていの人が直感的に想像する関係とは正反対だ」。

鍵となるのは人材採用

そして、鍵となるのが人材採用だった。多くの企業が必要な人材を探すのに苦労する傍らで、コカ・コーラは早い段階から人材採用において成功を収めていた。しかし、困難がなかったわけではない。ドノバン氏は次のように説明する。「社内チームづくりは一夜漬けでできることではない」。それができない理由としては、社内の風潮に合った人材かどうかの確認、旧式の人事システム、一部の沿岸都市以外でも人材を見つけることまでさまざまある、とドノバン氏は続けた。

こうした問題を回避するため、コカ・コーラは募集人材に何を求めていて何を求めていないのかを明確に記述するようになった。その結果、マインドシェア(Mindshare)、コンデナスト(Condé Nast)、タパッド(Tapad)などの元幹部を含む、多種多様な人材のプールからチームを編成することができた。

「人材採用のやり方を変える必要があった」とドノバン氏は述べる。「メディアのエキスパートを探す、というやり方ではなく、たとえばデータ分析を理解していて体系的に分類ができると同時にDSPのニュアンスを理解できる人、というふうに、広告運用の経験のある人を探す必要があった」。

インハウスの多種多様化

結局、インハウス化は、エージェンシーモデルにとって一部のオブザーバーが主張するような死の宣告ではなかったということである。当然、エージェンシーはそれに合わせて提案を変えていかなくてはならないが、それもある程度まででしかない。最終的に、インハウス化モデルはエージェンシーモデルを置き換えるものではなく、付加的なものなのだ。

「エージェンシーは、明らかにインハウス化に合わせて自社のモデルを進化させている。昨今のセールストークは、社内チームを補完するために構築し、社内の方針変更に合わせて変更できる柔軟性を持ったオーダーメイドのチームとテクノロジーが提供できるという話に終始している」とデジタルメディアコンサルティング会社TPAの英国責任者であるダン・ラーデン氏は話す。「いま、かつてないほどインハウスの形が多種多様になっている」。

[原文:‘Still getting started’: Coca-Cola’s candid progress report on its in-house plan

Seb Joseph(翻訳:SI Japan、編集:黒田千聖)

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