景気後退のたび、直接取引に傾く広告主とパブリッシャーたち:より恣意的になる「直接」の定義

DIGIDAY

景気後退のたびに、まるで時計のように規則正しく、パブリッシャーたちはマーケターの説得を試みる。広告を買うなら、メディアから直接、あるいは少なくとも可能な限り直接買い付けるほうが賢明だと。彼らの売り文句はこうだ。「広告予算が縮小しているいまこそ、メディアで直接広告費を使いませんか。少なくとも直接買い付けなら、何を買っているのか一目瞭然ですよ」。

今年も同じだ。ただしひとつだけ、いつもと違う傾向が見られる。広告の直接購入を勧める理由として、ジャーナリズムへの支援という理想を語らず、むしろ商売上のメリットに重点を置いている点だ。

この傾向は特にプログラマティック広告に顕著で、パブリッシャーたちは自分たちの裁量幅が大きい取引に、より多くの広告予算を引き込むことに成功しているようだ。エビクイティ(Ebiquity)の調べによると、今年上半期、PMPとプログラマティックギャランティード(予約型プログラマティック広告)は、全世界で使われたプログラマティック広告費の35%を占めていた。前年は31%だった。常のことだが、需要は価格を左右する。今年上半期を見る限り、プレミアム在庫をキュレーション(厳選してパッケージ化)した広告取引のCPMは、オープンエクスチェンジのCPMよりも240%高かった。前年は188%だった。

質と規模への逃避

メディア管理サービスを支援するエビクイティのニック・ウォーターズ最高経営責任者(CEO)は、「一部の広告主のあいだでは、オープンウェブで購入するよりも、プレミアムパブリッシャーから直接買い付けるほうがよいという認識が高まっている」と述べている。それどころか、ファーストパーティデータで武装したパブリッシャーたちは、自分たちの広告商品をより魅力的に提示して、広告予算をつかみ取るのに有利な立ち位置にあるという。

数字による裏付けはないが、パブリッシャーたちの話を聞く限り、彼らの有利はどうやら本物のようだ。アスレティック(The Athletic)とミニトメディア(Minute Media)の商務担当役員によると、両メディアでは、独立系のアドテクベンダーを介さず、広告の直接取引に力を入れているという。広告主が直接取引にまったくの無関心なら、このような動きは見られるはずもない。パブリッシャーアライアンスも同様だ。メディアへの直接投資は確かに増えている。Googleなどで使う予定だった予算を、メディアとの直接取引に回すケースもあるようだ。

「アライアンスあてに組まれる予算の規模は2年前とは大きく異なる。現在のそれはプラットフォームなみだ」。そう話すのは、ガーディアン(Guardian)やスタイリスト(Stylist)などが参加する英国のコンソーシアム、オゾンプロジェクト(Ozone Project)で最高収益責任者を務めるクレイグ・タック氏だ。「それを証明することはできない。だがコンソーシアムに入る金額は確かに増えており、マーケターたちの話を聞く限り、その一部は本来、プラットフォームやアドテクベンダーあてに支出されるはずの予算だという」。

とはいえ、直接取引への予算の流れは想定内だ。市場が混乱するときには常に、質と規模への逃避が起こる。ふたつともプレミアムパブリッシャーならではの要素であり、おかげでメディアのアライアンスが集団的に提供するリーチ(あるいはオーディエンス)の価値も高くなる。

デジタル広告のアライアンスであるトラストエックス(Trustx)は、デジタルコンテンツネクスト(Digital Content Next:DCN)に参加するメディアの広告在庫を販売している。同連合の広報担当者も、「信頼できるパブリッシャーを相手に、責任あるメディアバイイングをおこなう努力が拡大している」と話す。「トラストエックスは今年、非常に力強い成長を遂げている。DCNからもプレミアムパブリッシャーとの直接取引が大きく伸びていると聞いている」。

勝ち組が掴んだ貴重な広告費

この推移が何であれ、変革と呼ぶべきものではない。低迷するパブリッシャーの広告事業を好転させるには、幸運だけではどうにもならない。直接取引で業績を伸ばしているパブリッシャーはあくまでも例外であり、一般的ではない。彼らはどんなときも、広告主に対して、自分たちとの取引が「プレミアム」な投資であると明確に説明することのできる、むしろ希有な存在だ。しかし、規模の時代、大量のトラフィックでジャーナリズムを支えるビジネスモデルが終焉を迎えたいま、そうすることはますます難しくなっている。

当面、彼ら勝ち組のパブリッシャーは、広告予算の再配分が進むなか、その事実をテコに売上を伸ばすことに注力している。アスレティックの決断も、オープンウェブでのプログラマティック取引ではなく、広告主との直接取引で広告を販売しようというものだ。

アスレティックの最高商務責任者を務めるセバスチャン・トミッチ氏はこう話す。「上位層のマーケターたちがプログラマティックから手を引き、我々と直接取引する理由は、コンシューマプロダクトとしての我々の価値と差別化にある」。

確かに、このような広告費は市場のごく一部を占めるにすぎないとトミッチ氏は続ける。それでも、貴重な広告費であることに変わりはなく、しかもプレミアムなスポーツメディアであるアスレティックにとって、獲得できない金額ではない。結局のところ、長文のコンテンツに金を払ってくれる何十万人というスポーツファンにリーチできる場所はごく限られている。いずれにせよ、それは賭けだ。

デンマークの大手ニュースメディアであるエクストラブラデット(Ekstra Bladet)でセールスおよびアドテクの責任者を務めるトーマス・ルー・リッツェン氏によると、「インサーションオーダーベースの広告売買(インプレッション保証付き、プレロールなど)が増えている」という。「プログラマティック取引はおおむね安定している。一方、エージェンシーのマーケットプレイス(オムニコムゼロ[Omnicom Zero]やエムサプライ[MSupply]など)はやや後れを取っている。むしろ最近は、オープンマーケットがわずかながら増えている。一部のエージェンシーは、直接取引もしくはエージェンシーのマーケットプレイスとオープンマーケットを組み合わせて使う戦略を取っているようだ」。

これはつまり、少なくともプレミアム在庫を購入する余裕のある広告主は、経済が厳しくなっても、ただちに広告予算を削らないということだ。彼らは予算の支出先も合理的に決めている。たとえば、より安全で、文脈的にも適切な、マニュアルでパッケージ化されたインプレッションを買い付けるなどだ。その有効性は歴史が繰り返し証明している。それどころか、景気後退というこの危機は、一部のパブリッシャーにとってはある種のチャンス、もっというならインセンティブにさえなっている。広告予算の再配分が今後いっそう進むことを見越して、広告を進化させ、実験するチャンスだ。

「中間業者」を排除できるパブリッシャーは多くない

「直接取引」の定義が恣意的になるのは避けられない。パブリッシャーごとにその意味が異なるのはいつものことだ。アスレティックのように、中間業者のアドテク企業を完全に排除できる、余裕のあるメディアは多くない。ルー・リッツェン氏が語る事業の近況からもそれは十二分に読み取れる。

なかには直接(っぽい)取引もあり、これは単にクッキーの瓶に手を突っ込む人の数が少ないだけのケースだ。確かに、直接的な取引をおこなうために、アドテク企業に頼るプレミアムメディアはいまも少なくない。これは中間業者が少なく、直接に近いというだけの話だ。このような中間業者は、エージェンシーや広告主に、在庫の作成はエクスチェンジに任せた方がよいと「認めさせる」ことに成功したアドテク企業だ。アドエクスチェンジは、広告在庫のキュレーションという仕事を、DSPのような広告主に代わって実際にインプレッションの買い付けをおこなうアドテク企業から奪取するため、広範な取り組みを展開している。

SSPのインデックスエクスチェンジ(Index Exchange)で最高顧客責任者を務めるジェシカ・ブレスラヴ氏はこう話す。「直接取引はエコシステムの両側から関心を集めている。特に、メディア側に見られる直接取引の増加は際立っている。このような取引は貴重だ。というのも、バイヤーが購買力を行使して価格や優先度を交渉できるうえ、広告主にとってもっとも適切な条件でオーディエンスのターゲティングを実行できるからだ」。

「逆に、メディア企業は、戦略的なバイヤーと在庫、コンテンツ、ターゲティングなどの要件を事前に取り決め、この契約を通じて広告在庫の価値を最大限に高めることができる」。

[原文:As the economy wobbles, advertisers and publishers at the top end of the market go more and more direct

Seb Joseph(翻訳:英じゅんこ、編集:分島翔平)

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