オフィス復帰(returns to the office、以下RTO)において、どの会社にも合う万能なアプローチは存在しない。会社はおろか、社内のチームについても然りだ。チーム別に異なる方針を採り入れているパブリッシャーもいるが、これはオフィス復帰の柔軟な形を促進する一方、さまざまな問題を生む恐れもある。
従業員のオフィス復帰の日程を決めるもコロナ禍の高波がぶり返し、日程が延長されたり、計画を一旦キャンセルせざるを得ない日々が永遠に続くかにも思われたが、ここに来て、一部のパブリッシャーは、社員に対しての全社的なアプローチを諦めたようである。その代わり、ドットダッシュ・メレディス(Dotdash Meredith)、ダウ・ジョーンズ(Dow Jones)、スキム(theSkimm)、NBCニュース(NBC News)といった企業は、出社と在宅勤務を混合するハイブリッド方式の舵取りを各々のチームリーダーに任せることにした。
個々のチームに最適なハイブリッド方式を決める決定権を各マネージャーに与えたことで、柔軟な働き方ができるようになった。だが裏を返せば、上司の部下に対する姿勢にばらつきにより社内のチーム間における相違が生まれ、従業員の不満に繋がる恐れもある。
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「全社的なアプローチではなく、マネージャーが各チームの働き方を選択させるやり方は、問題を引き起こす可能性がある。つまり、現実と印象のいずれにおいても不公平が生じ、よくも悪くもマイクロカルチャーが生まれるような職場環境になってしまう」と、マネジメントコンサルティング会社、ユナイテッド・マインズ(United Minds)のCEOケイト・ブリンガー氏は、米DIGIDAYの取材にeメールで指摘した。
メディア企業各社のチーム別方針
スキムは従業員に月3回の出社を要求しているが、具体的な日にちについては各マネージャーの裁量に委ねている。
ダウ・ジョーンズでは、「RTO計画はまだ企画段階にある」と、広報が4月にDIGIDAYに語っている。ただ、同社は「各チームのリーダー主導のアプローチで、ハイブリッド勤務がもたらす柔軟性およびオフィス使用が各ビジネスユニットに与える効果や意義を精査している」という。
ドットダッシュ・メレディスでは、従業員に週3日の出社を促しているが、「個人およびグループごとに異なる姿勢を認める」と、CEOニール・ヴォーゲル氏は3月、社員にeメールで伝えた。
ドットダッシュ・メレディスのある従業員は、現在、出社の頻度について上司が「一切気にしない」という「極めて恵まれた状況」に置かれていると、DIGIDAYに語った。ただ、これは「自分を含め、チームのメンバーにある程度の自由をくれている」一方、会社的には「かなり大きな問題」でもあると、同この人物は本記事に登場するほかの従業員と同じく、匿名を条件に忌憚なく語った。「社員としての特権の享受にばらつきが生じている。私のような者はあくまでもたまたま、ほかの従業員よりも柔軟な上司に恵まれているからだ。これはほかの従業員らにしてみれば理不尽でしかなく、理想的な状況とは到底言えない」。
NBCニュースのデジタルニュースに携わる従業員を代表する労働組合NBCギルド(NBC Guild、米ジャーナリストの労働組合ニュースギルド・オブ・ニューヨーク[NewsGuild of New York]の支部)のある組合員がDIGIDAYに語ったところによれば、社義務はなく、必要に応じて自主的にオフィスに行けるという。
一方、NBCニュースの非組合員である別の社員は、上司の定めた方針に従い、週に2日、個々に選んだ日に出社していると、DIGIDAYに語った。
「上司に出社しろと言われれば、行くしかない」と同氏は明かした。「異議は唱えたいが、自分には勇気もないし、周囲の支援があるとも思えない。上司たちはとにかくルールに従わせたがるし、もしも私が『出社することに対して少々不安がある』などと言えば、反抗的だと受け取られかねない」。
チーム主導型RTOの利点
チーム主導型RTOの利点は、従業員が上司と話し合い、各チームにとって最適な仕事の進め方を調整できることだと、企業のオフィス復帰方針の策定を支援するコンサルティング会社PwCのジョイントグローバルピープル&オーガニゼーション部門リーダー、バシェイン・セティ氏は指摘する。
マネージャーは部下各人の懸念や、各々の状況に応じた然るべき対応策(たとえば、社員が介護者の場合、免疫不全者の場合、あるいは昨今立て続けに起きた地下鉄発砲事件を受けて、自らの身の安全に不安を抱えている場合など)について、個別に協議できる。
「個々のマネージャーが、自分の率いるチームに最適な方法を採択できる」と同氏は語る。もっとも、ハイブリッド式勤務日程の作成を現場のマネージャーの手に委ねるのは、「そのマネージャーが公平、包摂的、共感的である場合においては、素晴らしい。ただし、そうでない場合は、困難が生じうる」。
チーム主導型RTOの欠点
課題はマネージャーの希望と部下の希望との摺り合わせだと、セティ氏は話す。
「たとえばマネージャーが、共同作業やイノベーションが不可欠だと考える場合や、新入社員がいる場合はとりわけ部下に同一日の出社を命じる可能性は非常に高い」。ただ、チームには通勤に1時間かかる人も、小さな子どもの世話をしなければいけない人もいるかもしれないし、そうなるとチーム内に軋轢が生じる恐れもあると、同氏は指摘する。
また、同氏によると、社内のチームごとに方針が異なる状態も問題を引き起こす原因になるという。「同じ社内のチーム間におけるそうした不均一は、大きな損害に繋がりかねない。理由は単純、人は喋るからだ」。
「不平等を拡大しない」ことが重要
では、メディア企業はこうした問題をどうしたら緩和できるのか? 答えはコミュニケーションと柔軟性にある。また、データ収集も解決の鍵になるといい、出社する人数および頻度の調査と、異なるチーム内での従業員動向の同定は重要であり、そうすれば特定のチームが出社しているのか、それとも避けているのかを明確にできると、同氏は説明する(それが、一部パブリッシャーが従業員のオフィス使用を確認できるよう、ホテリングソフトウェアを採り入れている理由のひとつでもある)。
ただ、チーム主導型RTOは確かに、柔軟度が高く、自身の労働環境に対する主体性および選択の自由を社員に供するものではあるが、それにより社内での「不平等を拡大しない」ことも重要だと、同氏は指摘する。
「昇給はどうなる? 海外カンファレンスへの出席といった機会はどうなる? もしも、それらが出社している人にしか与えられないとなったら? その場合、そこには機会バイアスが働いていることになる。つまり、管理職側には非常に高い透明性を維持し、社員個々のデータを子細に分析し、必要であればすぐさま是正措置を取ることが求められる」。
[原文:The pluses and pitfalls of team-led return to office approaches]
Sara Guaglione(翻訳:SI Japan、編集:黒田千聖)