Q&A:「 ホテリングソフトウェア 」とは? – デスクスペースを予約できるプラットフォーム

DIGIDAY

昔々、企業で働く人々は、月曜から金曜までの毎朝、それぞれの職場に通い、自分の名札の付いたデスクに座ってパソコンを立ち上げ、ログインして仕事を始めたものです。デスクは通常、チームごとに配置されるので、隣に座るのは同じチームで働く同僚でした。

ですが、多くの企業にとって、そのような日々はとうの昔に過ぎ去りました。一部の企業はオフィス勤務を解禁しましたが、決められたデスクで週5日働く日々は遠のいたままです。多くは段階的なオフィス復帰を選び、週に数日出社して、残りは在宅勤務というハイブリッド方式を採用しています。

では、このばらばらに出社する従業員たちを、企業はどう管理すればよいのでしょう。たとえば、300人の従業員が働く企業で、火曜日に20人、水曜日に50人が出社し、金曜日には誰も来ないとしたら、300人全員に毎日決められた座席を割り当てるのは、もはや意味をなしません。誰がいつ、どのくらいの頻度で出社するのか(あるいはしないのか)を管理するのは、経営者にとっては頭の痛い問題です。

そこに登場したのが、エンボイ(Envoy)、コンデコ(Condeco)、ティーム(Teem)、ロビン(Robin)、オフィストゥギャザー(OfficeTogether)、オフィススペース(OfficeSpace)ら、職場の運用管理を支援するソフトウェア企業。いずれも「ホテリング」と呼ばれるサービスを提供しているのです。いつものQ&Aシリーズで解説していきます。

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――「ホテリング」ソフトウェアとは、ひと言で表すと?

「ホテリングソフトウェア」とは、ちょうどホテルの部屋を予約するように、企業の従業員がデスクスペースを予約できるプラットフォームのことを指します。ホテリング(またはホットデスキング)は、本来、コワーキングスペースの利用者や異なる顧客のオフィスに出向いて仕事をするコンサルタントたちなど、働くためのスペースを必要とする人々のために発案されました。以来、コロナ禍を背景に、ハイブリッド型の働き方を管理するために導入する企業が増えています。

「ホテリング」という言葉は「ホットデスキング」と同じ意味で使われることがあり、これがしばしば混乱を生みます。ワークスペースの管理ソフトに携わる人々は、「ホットデスキング」はオフィス内の空席を予約する(先着順で空いているデスクを物理的に割り当てる)ものであり、一方、「ホテリング」は特定のデスクを予約する機能だと説明しています。こうしたワークスペースの管理運用ソフトのほとんどは、どちらも選択できるようになっていますね。

――なるほど。では、ホテリングソフトウェアは、どのように機能するのでしょう?

ホテリングソフトウェアの機能は提供する企業によってさまざまですが、要は、出社したい従業員が自分のスマートフォンにアプリをダウンロードするか、あるいはウェブサイトにアクセスして、デスクスペースや会議室を予約できるということです。

たとえば、エンボイはオフィススペースを予約するためのモバイルアプリとウェブ版のダッシュボードを提供。エンボイが自動で従業員にデスクを割り当てることもできるし、従業員が自分で特定のデスクを選択することもできます。さらに、バーチャルマップ機能を活用すれば、特定の日に、どの従業員がどこのデスクで仕事をしているのか確認することも可能です。

企業側で条件を設定することもできます。たとえば、オフィス内のある区画を特定のチームに割り当て、このチームのメンバーは専用エリア内のデスクのみ予約可能としたり。また、予約の時期も、かなり前から予約可能としたり、出社の数日前に限定したりもできます。エンボイを含む一部のプラットフォームでは、一度に複数日の予約を許可することもできますね。

従業員はホテリングソフトウェアを活用して、自分のチームの同僚が同じ日時に出勤することを確認できます。多くの従業員にとって、出社することの意義とは、同僚と顔を合わせ、従業員同士の共同作業を円滑に進めることです。いっしょに仕事をする同僚と日時を合わせて出社できれば、共同作業ははるかに容易となります。自分の出社日にチームの同僚の多くがオフィスに来ないなら、わざわざその日に出社するよりも、多くの同僚が集まる日に振り替えたほうが良いですよね。その逆のケースも考えられます。新型コロナウイルスへの感染を懸念する人(あるいは、単に自宅や喫茶店以外の仕事場を求めている人)は、人の少ない日を選んで出社したがるかもしれません。

たとえば、BuzzFeedはエンボイを活用して従業員のチェックインやデスク予約をおこなっています。クォーツ(Quartz)も、昨年夏に出社を希望する従業員にオフィスを開放したのに合わせてエンボイを導入しました。また、NBCユニバーサルとメディアエージェンシーの電通は、コンデコを活用してオフィススペースの管理運用をおこなっています。

――なぜ企業はホテリングソフトを使うのでしょう?

ひと言で答えるなら、「従業員がオフィス内のデスクスペースを簡単に予約できるから」です。

もう少し長く答えるなら、「データ」の活用でしょう。経営陣は分析機能を活用して、従業員の出勤を追跡管理できるのです。一方、従業員は、ある特定の日に出社している人数、誰がオフィスにいて、どこの席についているのか確認できます。出社のスケジュールを調整するために、同僚同士で何度も電子メールをやりとりするよりずっと効率的でしょう。

企業の経営陣は、ホテリングソフトウェアを活用して、従業員によるオフィスの使用頻度を確認できます。それは、今後企業がオフィスの役割を再考するうえで、重要な指標ともなる情報です。たとえば、経済ニュースを配信するメディア企業のクォーツ(Quartz)は、昨年の夏、金曜日はオフィスがほぼ空っぽであることを知り、金曜日はオフィスを閉めることにしました。

一方で、ホテリングソフトウェアの必要性は、オフィスの規模や使用状況によって異なるかもしれません。出社の再開を従業員の自主性に任せている企業は、特に検討が必要でしょう。たとえば、さきごろグループナイン(Group Nine)を買収したボックスメディア(Vox Media)の場合、オフィス勤務を希望する従業員に限定して、収容能力の半分を開放しているため、ホテリングソフトウェアを使ってデスクを予約する必要がないと判断しています。

――コロナ禍のさなか、安全にオフィス勤務を再開するうえで、ホテリングソフトウェアはどう貢献していますか?

オフィス勤務を再開する従業員の健康と安全の管理にも、ホテリングソフトウェアは貢献できます。コロナ禍の勃発に伴い、このようなソフトウェアには、ワクチン接種証明書や検査結果の登録、接触者の追跡など、各種の機能が追加されました。たとえば、エンボイのプラットフォームは、感染した従業員の予約情報をもとに、濃厚接触者を割り出す機能を搭載しています。

エンボイは2021年10月にこれらの機能を追加しました。これにより、ワクチン接種証明書や検査結果の画像をアップロードできるようになったのです。クォーツでは、従業員が出社の予定を組む前に、管理者が各種の書面を確認しています。クォーツの従業員は、エンボイのプラットフォーム上で健康に関するいくつかの質問に答え、チェックインプロセスを完了させる必要があります。このプロセスを通過した従業員には、オフィスへの立ち入りを許可する入館証が発行されるのです。

オフィスの定員を設定することも可能です。定員に達すると、管理者に警告を通知し、以降の登録や入館が自動的に停止され、定員オーバーが回避されるのです。

――ホテリングソフトウェアの価格は?

価格はサービスを利用する企業の規模によって異なります。エンボイでは、従業員数50人未満の企業向けに無料プランを用意。50人以上の場合、規模に応じて月額99ドル(約1万2600円)から299ドル(約3万8300円)となっており、利用できる機能が多くなると追加料金が発生します。一方、コンデコでは、利用者の人数に応じて価格が決まります。従業員数250人から999人の企業の場合、1ユーザー当たり年間45ドル(約5800円)、1000人から4999人は同35ドル(約4500円)で、最低契約期間は3年となっています。

――企業はホテリングサービスを長期的に利用するのでしょうか?

コロナ禍中は、従業員が個人の事情や健康への懸念に基づいて出社の予定を立てるため、ホテリングソフトウェアは必要な情報を提供するプラットフォームとして有用でしょう。一方、経営者はホテリングソフトウェアから収集したデータに基づいて、将来的なオフィスの規模(あるいは必要性)など、さまざまな意思決定をおこなうことができます。このままコロナ禍が収束に向かい、オフィス勤務を再開する企業が増えたとしても、ホテリングソフトウェアの普及がさらに進むことは十分に考えられます。

[原文:WTF is office hoteling software?

Sara Guaglione(翻訳:英じゅんこ、編集:黒田千聖)
Illustrated by Ivy Liu

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