「 Web3 において、企業側と消費者双方のデータを隔てる壁はなくなる」:フローコード ティム・アームストロング氏

DIGIDAY

ティム・アームストロング氏は、浮き沈みの激しいインターネット業界で長年、その変遷を目の当たりにしてきた。

1990年代にオンライン広告の営業職を経験したあとGoogleに入社したアームストロング氏は、同社の広告事業の大躍進に貢献し、その後、ベライゾン(Verizon)傘下時代のAOLとオース(Oath)のCEOを歴任した。コロナ禍でQRコードの採用が進む前の2019年、QRコード技術を専門とするフローコード(Flowcode)を立ち上げ、それ以来CEOとして、Web2を超えて、Web3の世界へ足を踏み入れようとしている。

フローコードは2021年来、仮想通貨ウォレットのメタマスク(Metamask)など、ブロックチェーン分野の企業数社と協業してきた。また、対面型イベントの来場者にNFT(非代替性トークン)を配布する方法を新たに開発した。アームストロング氏によれば、分散型データ管理方式で運用されるWeb3は、Web2に比べ「はるかにデータの詳細度が高い」。そのため、企業と消費者間のコミュニケーションには、Web2でGoogleとFacebookが築いたウォールガーデンや、個人情報保護が課題の広告ターゲティング以外の新たな手法が用いられるようになるという。

アームストロング氏はこのたび米DIGIDAYとのインタビューに応じ、自らが描くWeb3の将来像を語るとともに、インターネットの過去の段階(Web1およびWeb2)と比較して、Web3では企業と消費者の関係がどう変化するかについて述べた。

以下はアームストロング氏とのインタビュー抜粋。長さと読みやすさを考慮し、若干の編集を加えてある。

――Web2時代とハイプサイクル(技術の成熟度、採用度、社会への適用度)の観点で比べたとき、Web3関連技術はいま、企業と消費者にどう受け止められているか?

Web3で注目されているのは、デジタルとフィジカルの両要素を組み合わせた「デジタル-フィジカル資産」の性質をもつNFTで、これには各種データや当事者間の関係を記述する情報を追加できる。10年前、ブランドと消費者間のやりとりを追って記録しようという者はほとんどいなかった。私自身も消費者として、その種の情報を把握していなかったし、ブランド側も同様だった。

しかし10年後には、消費者もブランドも、両者の関係を表すやりとりの全履歴を即座に把握できるようになるだろう。企業側と消費者側の情報は別々のシステムで隔てられるのでなく、共通のシステムで運用され、双方が同じデータを同じように認識することが可能になる。

――アイデンティティ技術は過去10年間でかなりの変化を遂げたが、今後10年間はどんな変遷をたどると思うか?

アイデンティティ(以下、ID)技術は今後10年で大きく変わるだろう。過去20年間、メールアドレスが人々を特定するIDであったのと同じように、将来的にはWeb3で利用できるツールの一部がIDの役割を果たすようになると私は予想する。たとえば、NFTがIDとして使われるかもしれないし、ブロックチェーン上のデータがIDをもとに生成される可能性もある。

消費者がWeb3関連のIDを利用して、さまざまなシステム間を容易に移動できる方法も確立されるはずだ。現在、ウェブサイトへのログインにあたり、90%程度はID確認用のメールアドレスが必要だが、10年後には、ログインの90%でWeb3テクノロジーの利用が必須となるだろう。それこそ、一大変化だ。

――Web3の分野ではいま、ブロックチェーン、仮想通貨、NFTなどさまざまな技術やサービスが生まれている。かつてプレーヤーが乱立していたアドテク業界のエコシステムを思い起こさせるが、当時とは状況が違うのか?

Web1とWeb2の時代、ブランドや事業会社は、「関係性」の面では昔ながらのやり方で、プロセスをすべて社内で回しており、消費者はどちらかというと、かやの外に置かれていた。ところが現在、商品やサービス開発にあたり、消費者との双方向の関係性を考慮に入れる必要が出てきた。ブランドや事業会社のほとんど、たぶん95%程度はまだ、彼らの顧客である消費者との双方向の関係を確立していない。

しかし、もし10年後に会社がそんな状態だったらどうなるか。Web3の世界で経験を積み、知識をどんどん取り入れる消費者を相手に、苦戦を強いられるはずだ。以前は企業の周囲に築かれていた壁が、今後は、企業と消費者の関係にもとづき、それを取り巻く形で築かれるようになるだろう。

――企業と消費者の関係のWeb3への移行は、Facebookが築いたウォールドガーデンのネットワークや、人々の関心・注目度が経済的価値をもつ「アテンション・エコノミー」にとってどういう意味をもつか?

Web1時代は、消費者が企業提供のバンドルサービスを押しつけられるオフラインの世界をオンラインで再現したような状況だった。Web2時代に入って、消費者はアプリ中心のバンドルサービスを利用しはじめた。人々はソーシャルメディアごと、アプリごとのグループに分かれる形でユーザーとなり、依然としてネットワークでつながっている。

しかしWeb3の世界のバンドルサービスは、個々の消費者が中心になる。インターネット回線を通じてコンテンツを配信するOTT(オーバー・ザ・トップ)を考えてみてほしい。消費者は、コンテンツ視聴のために300ものOTTアプリを入手したりはしない。300の異なるプラットフォームと300のサブスクリプション契約を結ぶ人などいるわけがない。一般的なユーザーの場合、サブスクリプション契約はせいぜい4件か5件だろう。ただし、それらはユーザー個々人の関心事を中心にバンドルされたものだ。

――Netflixが広告つきプランを導入する意向を示しているだけに、サブスクリプションの話は興味深い。

AmazonプライムビデオやApple、YouTubeがNFL(ナショナル・フットボール・リーグ)の試合中継の放映・配信権入札で競争を繰り広げる状況は、2年後には市場環境ががらりと変わる可能性を示唆している。

現在、米国で毎晩視聴されるOTTストリーミング配信の40%がNetflix経由だが、その契約加入者は、広告のターゲットとして明確に定義されていない、手つかずの原生林のようなセグメントだ。それを受けてOTTプラットフォーム大手が、この最後に残った大きなセグメントにサービスを提供するようになれば、膨大なコンテンツが配信されることになる。

これらの事象と消費者のコンテンツ視聴時間数のデータを考えあわせると、市場の変化はまだ本格化しているとはいえない。それでもこの流れが続けば、市場環境は根底から変わっていくだろう。

――通信事業各社は自社のワイヤレス通信パッケージを、DisneyやHuluの動画配信サービスとバンドルして販売している。ベライゾンやAT&Tといった通信大手は、Web3時代のバンドルサービスにおいてどんな役割を果たすと思うか?

通信事業者は、以前からサービスのバンドル販売を手がけてきた。バンドルで狙う最後のセグメントが消費者だとすれば、大きなチャンスに恵まれるのは消費者の嗜好に合わせて俊敏に対応できる企業だ。だからAppleやGoogleのAndroidが優位に立てる。また、通信事業者や一部のペイメントサービス会社も、バンドル事業者としての可能性を秘めていると思われる。この分野、ビジネスチャンスが数多くありそうだ。

通信各社は、個人情報保護方針やデータ利用許可方針を大幅に変更しなくてはならないだろう。通信事業者とインターネット事業者の大きな違いはデータの扱い方にある。通信事業者がデータを法規制下の消費者の観点で管理するのに対し、インターネット事業者はデータを消費者関連の取引に使える資産として扱ってきた歴史がある。

私は両分野の経験者で細部まで熟知しているのだが、通信事業者もインターネット事業者もそれぞれ特徴的な文化や業務プロセスを有しており、どの企業が消費者にとって単なるバンドル事業者以上の存在になれるかは現時点ではまだわからない。ただ、バンドルサービスは今後、通信業界でおおいに盛り上がるだろう。

[原文:Q&A: Tim Armstrong on Web3, data and the ‘bundling’ of consumers
Marty Swant(翻訳:SI Japan、編集:猿渡さとみ)

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