仮装通貨取引所が、競って OOH に莫大な投資をする理由:「レガシーな媒体でマス向けにどうアピールするのか、よく考える必要がある」

DIGIDAY

2021年の秋、ニューヨークの象徴ともいえるランドマークであり、仮想通貨(OOH)の名所としても知られるコロンバスサークル周辺の看板の最上位に、暗号のようなメッセージが表示され始めた。気温や時刻とともに表示された最初のメッセージは、ビットコインの生みの親であるサトシ・ナカモト氏(本名は明かされていない)によって綴られた、今では有名な白書の引用だった。

その後に、ジョークのようなフレーズが続く。「感謝祭の七面鳥は何て言ってる? HODL HODL HODL(ホドル・ホドル・ホドル)」(HODLは「Hold On for Dear Life[必死にしがみつく]」の人気の暗号頭字語)。

これはジェミニ(Gemini)の広告だ。ジェミニはキャメロンとタイラーのウィンクルボス兄弟が設立した仮想通貨取引所だ。同取引所はこの看板を3年リースで購入したが、ロサンゼルスで「カオスのない仮想通貨」というラッピングバスキャンペーンを行った2019年以来、さまざまな市場で数年間のOOHを購入してきた。

「OOHに対する私たちの理念は、OOHで仮想通貨の世界を説明することなどはありえない」というものだと、ジェミニのブランド&マーケティング部門でグローバルヘッドを務めるジョナサン・アイザック氏は述べる。しかし、OOHでブランドを世界に知らしめ、商品やサービスを売ることは可能であり、OOHは「暗号に関心のある人々を惹きつける最良の媒体」であり、「都市型シアター」と表現しても良いくらいだろうと、彼は話す。2022年の初めに、ジェミニは再びOOH広告を使用して、ユーザーに仮想通貨の報酬を与える新しいクレジットカードを販売する一方、NFTアーティストとコラボして、より広いキャンペーン「What’s The Best That Could Happen?(何が起こったら最も嬉しいか?)」を実施した。

仮想通貨関連企業にとってのOOHの価値

  • メインターゲットオーディエンスへのマーケティング
  • 信頼と認知の構築
  • 新しいカテゴリーの製品やサービスの妥当性を測る
  • (仮想通貨のような)複雑な概念の説明
  • 「都市型シアター」的な活用方法

仮想通貨がOOHに進出する意味は?

ジェミニは、米国とヨーロッパの都市でOOHを購入し、メインターゲットオーディエンスへのマーケティングを行っている多くの仮想通貨企業の一つだ。大手仮想通貨関連企業は、誇大広告を交えながら、仮想通貨という消費者にとって新しいカテゴリーの商品やサービスの妥当性を理解してもらおうと看板や地下鉄広告を使用して、大衆にリーチしようとしている。まるでD2Cブランドが以前、同じ手法で消費者へのリーチを試みた時のように。ただしマットレスや歯ブラシとは異なり、仮想通貨というカテゴリーはそう簡単に理解できるものではない。また、異なる仮想通貨ブランドを区別することも、そもそも投資に見合う価値があるのか見極めることも、容易ではない。

さらに、景気後退や通貨価値の暴落、規制強化、そして先行き不透明な現況など、仮想通貨企業がさまざまな課題に直面している現在、いわゆる「仮想通貨の冬」の到来により、各社が広告支出を減少させるのではという懸念も渦巻いている。しかしこれまでのところ、マーケティング担当者は予算を変更するつもりはなく、看板広告をはじめ、OOHがこの複雑怪奇なカテゴリーにおける小難しい概念を説明するのに最適だと口にする。

OOHベンダーによれば、これまでのところ、キャンペーンの大半はニューヨーク、シアトル、ロサンゼルス、オースティン、ナッシュビルなどのハイテク企業が立ち並ぶ地域で見られており、1週間未満から4週間の期間で3万5000ドル(約437万5000円)から30万ドル(約3750万円)が投じられている。また、仮想通貨企業は、交通量の多い交差点付近の看板広告であったり、長期間の掲載契約などに「数百万ドル(数億円)」単位で費用を使っているとも言われている。実際、アート・バーゼル(Art Basel)のようなイベント期間中における他の広告購入費用は、6桁に及んでいる。

「これは非常に重要な一例だ」と、ラップファイ(Wrapify)の創設者、ジェームズ・ヘラー氏は言う。同社は、仮想通貨企業が希望者のマイカーにラッピング広告を出すのをサポートしている。「この販売サイクルは、『100万ドル(約1億2500万円)あるんだけど、使う必要があるから、取り急ぎ広告を出してくれ』という流れに近い」。

大衆にアピールする

最近まで、仮想通貨ブランドは主に、改宗者(考え方を変えた人々)に向けて宣伝を行ってきた。しかし、この1年で、メインターゲットにリーチする必要性から、大企業はスタジアムやユニフォームの権利からスーパーボウルにおける広告、有名人を起用した宣伝に至るまで、あらゆるものに大金を支払うようになった。

仮想通貨のようなデジタルネイティブな業界にとって、看板は静的すぎると思われるかもしれないが、同業界のように懐疑的な見方が強いカテゴリーにおいては、信頼と認知度を高める方法の一つだと言う人もいる。一方で、コインベース(Coinbase)やジェミニといった仮想通貨の上位プ企業がレイオフや雇用凍結に踏み切れば、これまで無名だったブランドがメインターゲットの人々に認知されたれた直後にさらされる強い逆風、と話す人もいる。彼らによれば、この逆風は暫く続くと言う。

OOHのインベントリーを追跡するスタートアップ企業、ワンスクリーンドットAI(OneScreen.AI)によると、2021年、グレイスケール(Grayscale)とジェミニは、OOHに支出する仮想通貨企業トップ5に入っていた。ワンスクリーンドットAIのカンター・データの分析によると、両社は2021年1月から2022年2月の間に約400万ドル(約5億円)を費やしており、それに続いて、KOKが275万ドル(約3億5000万円)、クリプトドットコム(Crypto.com)が100万ドル(約1億4000万円)、イーサーライト(Etherlite)が50万ドル(約6250万円)未満となっていた。

ワンスクリーンドットAIのCEOで共同創業者のサム・マリカルジュナン氏は、「屋外メディアは、知名度の低いブランドにとって非常にとっつきやすい」と語る。

「キャズムを超えてリーチしたい」

OOHは、マイナー地域にも拡がっている。2022年初めのワンスクリーンドットAIの分析によると、ジェミニはOOH予算の45%をニューヨークに、20%をロサンゼルスに、13%をマイアミ(仮想通貨との関連性が高まっている都市)に使い、サンフランシスコ、シカゴ、ダラスの割合はそれに次いで小さいことがわかった。一方、グレイスケールはアトランタやデンバーなどの市場でもOOH広告を購入し、各都市で数十万ドル(数千万円)を費やしている。

仮想通貨企業の看板広告は、地下鉄の駅や高速道路から、船、バス、空港ラウンジまで、あらゆる場所に出現している。マリカルジュナン氏は、「これまで見た中で最もクレイジーで、かつ非常に競争が激しい」と述べ、彼が話した仮想通貨ブランドの中には、競合他社より「高値を払って勝ち取り」たいと考える会社まであると付け加える(ある企業は、競合企業に勤務する人がコーチをしているリトルリーグチームのユニフォームまで買い取ろうと打診した、と彼は言う)。

ブロックチェーン技術は比較的新しい技術のため、大衆にアピールすることは必ずしも理にかなっていないと、アルゴランド(Algorand)でマーケティング責任者を務めるケリー・キャラハン氏は言う。だが、OOH広告は、特定の都市や地域で何か特別なことが起こっている、あるいは開催されているときには「最重要広告手法」になる。たとえば4月のアースデイ2020で、アルゴランドは同社のエネルギー効率を宣伝するために看板広告を買い占めた。同社は、タイムズスクエアを1時間暗闇にすることで、アルゴランドブロックチェーンの3億5000万トランザクションに匹敵するエネルギーを節約したと述べた(アルゴランドはまた、マイアミ技術月間中の4月に、マイアミのレンタル自転車ステーションのそばに設置されたデジタルサイネージ広告でも、別のOOHキャンペーンを行った)。

仮想通貨はまだ「キャズムを超える瞬間」にあり、馴染みのあるものを使って馴染みのないものを売り込む方法が必要だと、暗号融資プラットフォームのブロックファイ(BlockFi)で最高マーケティング責任者(CMO)を務めるアンドリュー・タム氏は言う。ブロックファイは2021年に、自社ブランドのクレジットカードをリリースするにあたり、クレジットカードという身近なものを使って仮想通貨を獲得・所有できることを紹介するOOHを行った(タム氏は、ブロックファイがOOH広告に費やした金額を正確には明かさなかったが、同社はキャンペーンに少なくとも7桁の金額を費やしたと述べている)。

「ブロックファイには、多くの初期利用者と熱心な支持者がいる」とタム氏は言う。「そのキャズムを超えてメインターゲットのオーディエンスにリーチするには、クレジットカードのような商材が必要だ。私たちのアイデアの一つは、より伝統的な広告媒体を使って、大衆にアピールする商品を試してみることだった」。

ブランド認知以外の目的でのOOHの活用

デジタル通貨資産運用会社グレイスケール・インベストメンツ(GrayScale Investments)は、2021年初頭に、再び空港に戻ってきた旅行者を歓迎しようと、ブランド認知メッセージ付きのデジタル広告を展開した。そして同社は現在、ロビー活動の一環としてターゲットキャンペーンを行っている。グレイスケールは、同社が提案するビットコインETFの米国規制当局からの承認を待つ間、ニューヨークのバスリンクや空港ラウンジで、7月初旬までに同ファンドに関する決定を下すとみられる米国証券取引委員会にビットコインETFを承認する手紙を書くよう促すOOHキャンペーンを展開した(これまでのところ、1万1000通の手紙が集まったという)。

グレイスケールのマーケティング担当バイスプレジデントのセレス・ルー氏によると、同社がデジタルOOH広告を選んだのは、業界の変化と同じスピードでクリエイティブやメッセージを切り替えられるからだという。また、従来の設置広告に比べて、短期間の看板広告の購入が可能である点も大きいと付け足す。

「人々がQRコードをスキャンしたり、URLを入力したりするとは限らない。だから、人々が掲載内容以上の情報に行きつくかは確約できない。そこで、看板広告に掲載するコンテンツは、本当によく練られ、短くてキャッチーなものにしなければならない」と彼女は言う。

現在、世界中で仮想通貨の看板広告は取り締まりを受けている。イギリスの規制当局は、電車の駅やバスの停留所での暗号資産の広告展開を禁止するよう求め、すでに決定されているジャンクフードの広告と同様の規則を求めている。2022年3月には、仮想通貨企業を含む50社が自社の広告を見直してすべての規則に準拠していることを確認するよう通達を受けている(ガーディアン紙[The Guardian]によると、2018年以降、仮想通貨会社はロンドンの交通システム全体で広告に約100万ドルを費やし、13社が2021年4月から9月の間に3万9000の広告を掲示している)。

広告を出し続ける各社

また2022年初めには、スペインで、企業がキャンペーンを実施する際、少なくともその10日前に計画を開示することを企業に義務付ける新しい法律が、規制当局によって導入された。この一連の規則は、10万人以上のフォロワーを持つ仮想通貨インフルエンサーにも適用される。さらにシンガポールでは、金融監督庁が仮想通貨やその他のデジタル決済トークンのプロモーションについてすでに規則を設けており、「非常にリスクが高く、一般市民には適さない」と警告している。

看板広告以外でも、仮想通貨ブランドは広告を出し続けている。ブランドがさまざまなプラットフォームでどのように自社のマーケティングを行い、顧客にどのように認識されているかを分析するスタートアップ企業のブルーオーシャン(BlueOcean)によると、テレビ広告、印刷媒体、OOHなど、過去1カ月間に最も多く支出した仮想通貨企業はFTX、コインベースとイートロ(eToro)であったという。ただし、その他の企業は、ペイドサーチを含む有料メディアへの支出を削減している。

ブルーオーシャンの共同設立者であるライザ・ネベル氏は、「大規模な投資も時に結果が伴わないことがある」と話す。その上で「顧客との対話が市場を動かす。それは声の大小は関係ない。対話を試みること、対話の内容が重要だ」。

[原文:‘Never going to explain the world of crypto with OOH’: Why crypto companies are focused on billboards for brand awareness, legitimacy

Marty Swant(翻訳:SI Japan、編集:分島翔平)

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