ビジネス系パブリッシャーのQuartz(クォーツ)は、Vox(ボックス)やガーディアン(The Guardian)といったパブリッシャーにならい、会員制モデルへの移行を進めている。その背景にあるのは、「読者はペイウォールの圧力を受けることなく十分なお金を払い、それぞれのパブリッシャーのミッションやジャーナリズムを支援したいと思うだろう」という信念だ。また、バイス・ニュース(Vice News)は2022年にチップジャー機能を追加し、読者からの寄付を集めることにした。しかし、パブリッシャーはペイウォールがなくても読者からの直接収入を増やすことができるのだろうか?
2016年にガーディアンが導入したビジネスモデルが、Quartzの変化の「インスピレーション」となった、と同社のCEOザック・スワード氏は話す。Quartzは2019年にペイウォールを設置して以来、2万5000人の有料会員を獲得した(2022年4月14日にはそのペイウォールを取り払い、読者に有料会員になってもらうようにしながら、ほとんどのコンテンツに無料でアクセスできるようにシフトした)。Quartzには広告収入もあるが、広報担当者は売上金額を公表しなかった。スワード氏は、ペイウォールの撤廃によってQuartzの広告提供に直ちに変更が生じることはないだろうと述べている。
いかに読者から収入を得るか
会員制モデルは読者から直接収入を得るうえで有効なのは証明されている。特に、パブリッシャーが広告市場の変化に見舞われたときにはそういえる。Voxは2020年春に「パンデミックによる広告ビジネスへの影響を緩和するため」に寄付プログラムを開始したが、Voxのオーディエンス戦略担当エグゼクティブ・ディレクター、ブレア・ヒックマン氏によると、2021年3月から2022年3月にかけて寄付者の総数が40%増加したという。ヒックマン氏も寄付者の人数、そして寄付金額についての明言は避けた。
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「これは、我々のビジネスの規模を拡大し、重要な一部となる可能性があることが明らかになった」とヒックマン氏は述べる。だが、Voxの売上のほとんどは依然として広告収入によるものだ。
ガーディアンには100万人以上のデジタル購読者と寄付者(定期的な支払いにサインアップした人)がおり、その半分以上は英国外からだと同社広報担当者は米DIGIDAYに述べている。ガーディアンは、デジタル購読者と寄付者からの収入を3年間で87%伸ばした。2021年夏、ガーディアンはデジタル読者からの収入が前年比61%増となり、6870万ポンド(約112億円)に達したと発表した。ガーディアンは今後数カ月のあいだに、メーター制課金版アプリのテストを開始する予定だという。
FTIコンサルティング(FTI Consulting)で、通信、メディア、テクノロジー業界グループ担当マネージングディレクターを務めるジャスティン・アイゼンバンド氏は、ニューヨーク・タイムズ(The New York Times)のようなパブリッシャーは、メーター制ペイウォールが購読者を増やすのに効果的であることを発見したが、それは「鈍器」であり、すべてのパブリッシャーでうまくいくとは限らない、と述べる。
有料会員が求めるものは
パブリッシャーにとってのもうひとつの方法は、有料会員にプレミアムコンテンツ(購読者限定のニュースレターなど)を提供することだ、とアイゼンバンド氏はいう。Quartzの場合、有料会員はザ・フォーキャスト(The Forecast)やウィークエンド・ブリーフ(Weekend Brief)といった会員専用のメールマガジンなどの追加特典へのエクスクルーシブアクセスを手にすることができる。2月創刊のQuartzアフリカ(Quartz Africa)や、Quartzジャパン(Quartz Japan)などの地域別会員制度は、今後も別のサブスクリプション製品として存続する。
Quartzでは昨年、検索した記事を読むためだけに新規会員になったがその後すぐに退会してしまった人が「多く」いたという。「これは、私たちが本当の成長を実感している場所、つまりQuartzのロイヤルメンバーやよりバーティカルな嗜好を持つ購読者層から目をそらすことになってしまった。我々は、一度きりの購読者を相手にしたくはない」とスワード氏は述べる。
代わりに、彼らに広告を見せたり、メール購読者になってもらったりすることで有料会員への転換を図るのがQuartzにとっては「よりよいこと」だと、スワード氏はいう。なお、Quartzの既存有料会員の半数以上は、2年前から有料会員に切り替えている。
アイゼンバンド氏も、今回の発表で解約が大幅に増えるとは考えていないようだ。「購読者が購読を希望する理由がQuartzのミッションやジャーナリズムを支持したいからだとわかっているなら、解約の可能性は比較的低いと思う」とアイゼンバンド氏は話す。Quartzは、新規購読者の増加を「減速させることなく広告収入を大幅に増やす」ことができ、「購読料収入に有意な影響を与えずに広告収入を増やすことで有利な立場に立てる」と計算しているのかもしれない。
Quartzは明らかに、人々に料金を支払うよう促している。前述の会員制ニュースレター以外にも、Quartzは登録読者に送った有料化発表の電子メールで、月額14.99ドル(約2000円)、年額99.99ドル(約13000円)の利用料を50%割引で提供すると伝えている。
カスタマージャーニーを描く
しかし、Quartzもまた、デイリー・ビースト(The Daily Beast)や アトランティック(The Atlantic)などのほかのパブリッシャーと同様、潜在的な有料会員にはまず登録ユーザーになってもらうというアプローチをとっている。現在、読者がQuartzで記事を2本読むと電子メール登録を勧めるプロンプトが表示されるが、それは無視できる。だが4回目の訪問の際には、しつこくメール登録を求められる。
「これまでのところ、我々にとって最も成功し、重要なカスタマージャーニーは、無料読者から無料メール購読者に、さらに有料会員になってもらうことだ。ある人物が、『デイリー・ブリーフ(Daily Brief)』の読者から会員になるまでには約4カ月かかる。このカスタマージャーニーとマーケティングファネルは、これまででもっとも成功を収めてきたものであり、我々はできる限りここに注力したい」とスワード氏は語った。
[原文:Publishers seek reader payments without the pressure of a paywall]
Sara Guaglione(翻訳:藤原聡美/ガリレオ、編集:分島翔平)