Shopify がクリエイターのビジネス支援で、次の成長狙う:「彼らは 次世代の起業家」:

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Shopify(ショッピファイ)が毎年開催している「コマースプラス(Commerce+)」は、同社のエンタープライズ向けサブスクリプション製品を紹介するイベントで、B2Bカンファレンスにつきものの、バズワードに満ちた講演がたくさんあった。たとえば、「顧客のいる場所で顧客と対面する」や「コミュニティの構築」といった内容をテーマにした多数のセッションが開催されている。しかし2021年10月のイベントでは、ミュージシャンのファレル・ウィリアムス氏と、NBAのトッププレイヤーのジミー・バトラー氏という、典型的なeコマースサークルの外で活躍する2人の著名なスピーカーがオンラインで登場し、Shopifyでeコマースブランドを構築することの美点を賞賛した。

2020年に自分のスキンケアブランドのヒューマンレース(Humanrace)を創設したファレル氏は、Shopifyのプレジデントを務めるハーリー・フィンケルスタイン氏との対談で、「我々はとにかく、常に顧客と直接のつながりを持つことを望んでいる」と語っている。

このイベントは、Shopifyがクリエイターに対してますます強い関心を抱き、多くのリソースを提供していることをいち早く予感させるものだった。同社は2006年に創設され、10年間でeコマースの支配的な地位にまで成長した。これは、2010年代序盤に、安価なFacebookの広告により数万もの顧客を獲得したD2Cブランドの波も追い風となった。同社は当時、オンラインでの販売を比較的簡単にするための、技術的なバックエンドを提供していただけだった。Shopifyは現在、次段階の成長を一気に推し進めるため、プロのアスリートからTikTokのシェフに至るまで、インフルエンサーを直接の対象とした本格的なサービス群を構築し、次の成長の波に乗り出そうとしている。

クリエイター支援のための2つの新サービス

Shopifyは4月13日、クリエイターの部門において過去最大規模の投資のひとつを発表した。同社は、各ブランドによるインフルエンサーマーケティングプログラムの管理を支援するソフトウェア新興企業、ダブテール(Dovetale)を買収したのだ(Shopifyは買収の総額を明らかにしていない)。買収の一環として、Shopifyは同社のマーチャント(出品者)すべてが無料でダブテールを使えるようにする予定だ。しかしShopifyは、1年半前にイージー(Yeezy)の元ジェネラルマネージャーのジョン・ウェクスラー氏を、Shopifyのクリエイターおよびインフルエンサープログラム担当のバイスプレジデントとして迎え入れたときから、クリエイター向けの計画を静かに進めていた。

Shopifyは、クリエイターのエコノミーで最初に選ばれるeコマースプラットフォームとして自社をマーケティングするため、いくつもの手法をとり、さまざまな段階にあるインフルエンサーを、その段階に応じて支援できるよう、各種のツールを構築しようとしている。ダブテールは、「まだ独自のブランドを開設する準備が整っていないが、ほかの会社の商品を宣伝したい」というインフルエンサーの支援を目的としている。Shopifyは3月、複数のビジネスラインを宣伝したいインフルエンサーのために、リンクポップ(Linkpop)というリンクインバイオツールもリリースした。さらに、もっとも著名なセレブリティのために、Shopifyの10人からなるクリエイタープログラムチームが、ウェブサイトの設計から、製造業者を探す支援まで、ビジネスの創出全体の管理と資金調達を支援し、バトラーやファレル、レコード会社幹部のスティーブン・ビクター氏といったセレブリティとともに仕事を行う。

Shopifyはこれらの活動を「機会に応じた日和見的なもの」と位置づけており、他人の商品を宣伝するだけでなく、自分自身の商品を作りたいというクリエイターの関心が増してきたことを理由に挙げている。これらのツールの採用を強く推奨するため、同社はダブテールやリンクポップなど一部のツールを無料で提供している。

しかし、クリエイター分野におけるShopifyの行動は、eコマースにおける潮流の変化に対する防止策としても働いている。AppleとGoogleがプライバシーを重視した変更を最近行ったことから、D2Cブランドが新しい顧客を獲得するのは困難になりつつある。AppleがiOS 14を発売した結果として、Facebookが今年100億ドル(約1兆2500億円)の収益損失を予測していると発表したのも注目すべきことで、iOS 14での変更により、Facebookのような企業はウェブサイト間で利用者の行動を追跡することが困難になった。

このような更新はFacebookのビジネスに脅威となるだけでなく、Shopifyのビジネスにも脅威となる。これは、Shopifyを使用してきたマーチャントは長年にわたり、自社ビジネスを成長させるためFacebookの広告に依存してきたためだ。Shopifyの現在のマーチャントに対して、インフルエンサーとより密接に協力するよう働きかければ、顧客獲得の困難が和らげられる可能性がある。そして、インフルエンサーが独自のeコマースサイトを立ち上げるよう勧めれば、Shopifyは多くの新しい顧客を得ることができる。

Shopifyの商品担当ディレクターであるアミール・カバラ氏は次のように述べている。「当社はクリエイターのことを、次世代の起業家だとみている。当社にとって、これらのクリエイターがコマースに参入し、収益化を開始するように支援することが最優先の行動だ」。

クリエイターエコノミーの勃興

インターネットで多数のフォロワーを抱える人々が、独自のeコマースビジネスを立ち上げるというのは新しい現象ではない。Shopifyはクリエイターイニシアチブを開始するまえに、多くのセレブリティ主導ブランドのウェブサイトを運用しており、もっとも顕著な成功事例のひとつとして、カイリー・ジェンナーが立ち上げたカイリーコスメティクス(Kylie Cosmetics)が挙げられる。

しかし、インフルエンサーが独自の商品ラインを立ち上げる支援をしている新興企業であるピエトラ(Pietra)の共同創設者でCEOを務めるロナック・トリベディ氏によると、過去数年間に認識の変化が生じたという。セレブリティの上位1%から多くの成功事例が生まれた。俳優ジョージ・クルーニーによるテキーラ・ブランドのカサミゴス(Casamigos)は10億ドル(約1250億円)でディアジオ(Diageo)に売却され、コティ(Coty)はカイリーコスメティクスの株主の過半数を保持している。これにより、フォロワーの比較的少ないインフルエンサーも、自らビジネスの立ち上げに挑戦するようになってきた。

一方で、YouTubeやインスタグラムで多数のフォロワーを持つ有名人が、従来から、自分たちの収益源を多様化するため、アパレルブランドとともに、グッズのラインや限定カプセルコレクションを立ち上げることがあったが、「彼らは、本物の商品によってビジネスを作り上げていると感じたいのだ」とトリベディ氏は述べている。

ほかの要因も影響している。近年のコンテンツ制作のペースに燃え尽きを感じたインフルエンサーや、他社ブランドの商品だけを宣伝することに疲れており、自分たちのフォロワーを収益化するための新しい方法を探している人もいるのだ。

カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)の教授でインフルエンサーマーケティングを調査しているリア・ハーバーマン氏は、トリベディ氏の意見に同意し、「私が一緒に仕事をしたインフルエンサーの多くは、自分たちの仕事に対して、より強いオーナーシップを欲している」と、米モダンリテールにメールで語った。

インフルエンサーマーケティングに投資する意義

それでも、ほとんどのインフルエンサーにとって、独自のブランドを立ち上げる前の最初のステップは、自分のフォロワーのうちのどれだけが自分の進める商品を購入する意欲があるかということだ。そしてそれを見極めるために、既存の会社と協力して、その会社の商品を宣伝することだ。Shopifyがダブテールを買収したことは、ここで意義を持つようになる。

ダブテールは、各ブランドが自社のアフィリエイトおよびインフルエンサーマーケティングプログラムを管理するのを支援する。これは従来なら、Excelスプレッドシートで行われてきたような作業だ。同社により、ブランドはインフルエンサーのパートナー用に新しいアプリケーションの管理と受諾を行い、それらのインフルエンサーに商品や割引コードを送付して、インフルエンサーがどれだけの売上を生み出したかを管理できる。

「当社は、クリエイターがコマースに参入し、やがてはマーチャントとなって独自のビジネスを保有するためのツールを作成したいと考えている」と、Shopifyのカバラ氏は述べている。しかし同氏の語るところでは、ダブテールのようなツールは、クリエイターがまず試行錯誤してみるような際に役立つ。「ポートフォリオのなかでも中核的な部分のひとつは、クリエイターが、コンテンツを毎週作成し、完全なマーチャントになるまでの過程を支援することだ」。

ダブテールを買収したことは、Shopifyの2番目の目的である、既存のマーチャントが新しい顧客を獲得するのを支援することにもつながる。カバラ氏は、ブランドがインフルエンサーマーケティングへの関心を高めている背景には、ブランドにとって新規顧客の獲得が困難になりつつあるという事実があるためだと考えている。

Shopifyは、そのサービスを利用している100万以上のうち、どれだけがD2Cブランドなのかを正確に明かしていないが、キャスパー(Casper)、オールバーズ(Allbirds)、ジムシャーク(Gymshark)など、収益が1億ドル(約125億円)以上のもっとも有名なD2Cブランドの多くがShopifyを使用している。特にD2Cブランドは、AppleのiOS 14のアップデートによって、Facebook、ピンタレスト(Pinterest)、Snapchatなどのアプリがウェブサイト上で追跡できるアクティビティの種類が制限され、大きな打撃を受けている。このため、これまでマーケティング予算の半分以上を占めていたFacebook広告への出資を半分に減らしたブランドもある。

つまり、インフルエンサーマーケティングに投資することで、ブランドはFacebookの広告プラットフォームが変更されてもその影響を受けにくくなるというのが基本的な考えだ。ただし、そのインフルエンサー自体もまた、ソーシャルプラットフォームに強く依存している。インフルエンサーに自社商品を宣伝してもらうよう働きかけることで、ブランドはより信頼できる方法で新たな顧客層にリーチできるようになる。インフルエンサーのファンは、そのインフルエンサーにお勧めされたブランドをより本質的に信頼する可能性があるためだ。

適切なインフルエンサーを見つける

ただし、インフルエンサーマーケティングには各ブランドにとって独自の課題も存在する。具体的には、一緒に仕事をするべき適切なインフルエンサーを見つけることだ。

高プロテインのラーメンブランドであるインミー(Immi)の共同創設者であるケビン・リー氏は、米モダンリテールに次のように語った。「現在の一部のインフルエンサーは、多数のオーディエンスを抱えているように見えるが、たとえば投稿ごとに5000ドル(約62万5000円)を前払いしても、そのインフルエンサーのオーディエンスは実際には興味がなく、自社ブランドの売上につながっていないことに後になって気づくのだ」。

リー氏によると、同氏の会社は昨年からダブテールを使いはじめ、これまでにそのツールで6ケタの収益を上げている。インミーはダブテールを通じてアフィリエイトプログラムを運用しているが、これは、インフルエンサーに無料で商品を提供し、そのインフルエンサーがそれ以後に生み出す売上の一部を還元するというものだ。これにより、不適切なインフルエンサーを選んでしまうリスクを部分的に低減している。

インミーはダブテールを使用して、おもにケトジェニックな(低糖質・高脂肪職をしている)インフルエンサーと協力する。もっとも注目すべきパートナーの1人は、インスタグラムに13万7000人のフォロワーを抱えるティンガー・シェイ氏だ。

リー氏は今後について、アフィリエイトマーケティングはインミーの重要なマーケティングチャネルであり続けるだろうと語っている。ブランドがインフルエンサーのネットワークを築き上げるには時間がかかることがあり、ブランドは「現在Facebookへの投資から得ているような膨大な売上をすぐには得られないだろう」が、より信頼性が高いチャネルだと語っている。

「インフルエンサーはその商品を本当に愛していることから、ブランドにとって伝道師のような存在になる」とリー氏は述べている。

コンテンツクリエイターから起業家への転換

しかしインフルエンサーは最終的に、他人のブランドの伝道師から、独自のブランドの顔になりたいと思うようになるかもしれない。問題は、ピエトラのトリベディ氏がいうように、これらのインフルエンサーが依然として、大半の時間をコンテンツ制作に費やしているということだ。彼らは、サプライヤのネットワークを構築する時間もなく、従業員のチームをマネジメントした経験がないかもしれない。

このため、インフルエンサーが本格的なeコマースビジネスを立ち上げやすくするために、さまざまな業者が競って新しいサービスを次々と発表している。ピエトラのような新興企業は、独自のフルフィルメントネットワークを構築し、インフルエンサーがメーカーやパッケージベンダーを調達できるような、500種類のサプライヤのマーケットプレイスを提供している。リンクツリー(Linktree)のような実績のあるインフルエンサーマーケティングの新興企業も、コマースプラットフォームのスプリング(Spring)との統合など、よりコマースに特化した機能を次々とリリースしている。最後に、ユナイテッドタレントエージェンシー(United Talent Agency)などの実績のあるタレントエージェンシーは、エマ・チェンバレン氏のような有力インフルエンサーのブランド立ち上げを支援するため、独自の社内ブランド育成部門を開始しようとしている。

Shopifyも、いくつかの方法でこの市場を狙っている。もっとも有名な何人かのセレブリティに対して、ビジネス自体を作り上げる資金を提供している。ウェクスラー氏が率いるクリエイタープログラムチームは、現在10人の従業員で構成されており、その多くはShopifyのマーケティングやマーチャントの成功支援など、ほかの部門で勤務していたことがある。

Shopifyのクリエイタープログラムのシニアマーケティングリーダーを務めるアンソニー・ケントリス氏は、このチームがもっとも力を入れているのが、「文化の象徴」との仕事であると語った。プロバスケットチームのマイアミヒート(Miami Heat)のフォワードで、現在はビッグフェイス(Bigface)というD2Cコーヒーブランドの創設者であるジミー・バトラー氏は、このクリエイターチームが協力したセレブリティのひとりだ。

バトラー氏は、コロナウイルスのパンデミックの最中にNBAチームが試合や練習をしていた、いわゆる「バブル期」に、コーヒーのオプションが欠けており、ほかのプレイヤーたちに20ドル(約2500円)のコーヒーカップを販売したことが、ビッグフェイス設立のきっかけになったと語っている。

「我々は、ブランド化とパッケージにおいて同氏を支援し、同氏が使用するコーヒーロースターを選ぶ手助けをし、もちろん同氏のウェブサイトのデザインと構築も行った」とケントリス氏は述べている。またShopifyはバトラー氏と協力して、新しい機能をテストしてきた。たとえばビッグフェイスは秋にNFT店舗を開設した。ここでは顧客が250ドル(約3万1300円)の買い物をすると限定版商品にアクセスできるほか、今後のイベントへのアクセスカード、今後の商品ドロップの早期通知などの特典が受けられる。

Shopifyのチームが最初にバトラー氏と会ったとき、「同氏には起業家になるという野心と真剣な希望があることが明らかだった。我々は同氏がそれを実現することを手助けしただけだ」とケントリス氏は述べている。

現在のところ、チームのリソースが限られているため、チームが協力しているクリエイターの数は多くない。ケントリス氏は、クリエイタープログラムでは約20のプロジェクトの計画が進行中だと述べている。

「我々は本当のパートナーシップを作り上げ、彼らが、Shopifyで行っていることや、この世界で起業家精神がいかに重要であるかをオーディエンスに伝えられるよう、支援することを望んでいる」とケントリス氏は述べている。

インフルエンサーが直面する課題

しかし、多くのインフルエンサーが直面するおもな課題は、ブランドの立ち上げだけではなく、ブランドを的確に成長させ、その背後に確固としたビジネスモデルを持つことだと、トリベディ氏は語る。

「私は、このビジネスにおける最大の課題は、もっとも優れたビジネスは、そのオーディエンスの枠を超えて拡大することだと考えている」と同氏は述べている。この時点で、セレブリティは、週に1度毎ソーシャルメディアに投稿するだけでなく、ビジネス成長につながるような実際のPRとマーケティング戦略を作り上げる必要があると、トリベディ氏は語る。また、単に商品を友人に贈るだけではない、小売配送の計画も考える必要がある。

クリエイターがShopifyの将来においてどれだけ大きな役割を果たすかは、同社のブランドのどれだけが拡大に成功するかにかかっている。Shopifyがインフルエンサーのビジネス成長をどのように支援する計画なのか、という質問に対してカバラ氏は、まず既存のShopifyのアプリストアが何よりも重要だとした。マーチャントに、たとえばメールマーケティングやロイヤルティプログラムに役立つサードパーティー製アプリを紹介することで、すべてのマーチャントの拡大を支援することは、Shopifyの戦略の中心的存在となってきた。

カバラ氏は、インフルエンサーが自分のビジネスを構築するときに直面する最大の課題は、何よりもインフルエンサーたちのおもな仕事がオンラインで投稿することであり、eコマースビジネスの運営ではないという現状だと認めている。Shopifyは、この優先順位が将来的に変わることに期待している。

「我々は、クリエイターがコンテンツの作成者から、マーチャントに移行することを支援したいと望んでいる」と同氏は述べている。

[原文:‘The next generation of entrepreneurs’: Shopify is betting on creators to fuel its next phase of growth]

Anna Hensel(翻訳:ジェスコーポレーション、編集:戸田美子)

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