AI はメディアプランナーを務めることができるか。エージェンシーで進む検証

DIGIDAY

エージェンシーたちはジェネレーティブAIのさらにその先を見据え、AIのメディアプランニング能力の検証に着手している。しかし、そうした仕事を託すには少しばかり時期尚早のようだ。

これまでAIとChatGPTへの注目は生成の結果やコンテンツ作成に集中してきたが、ここにきて数社のエージェンシーがAIに潜在する長期的な事業価値を理解するために、これまでとは異なるアプローチを試みている。

誤情報の検出やブランドセーフティ対策を実験しているところもあれば、メディアバイイングを含めたプランナーの仕事をAIに代行させる試み、あるいはこうしたテクノロジーがクライアントに与える影響について模索するものたちもいる。

メディアプランナーをめぐる議論

運用型広告専業エージェンシーのメディアカルチャー(Media Culture)で最高イノベーション責任者を務めるヌーノ・アンドラーデ氏はこの数ヶ月、ChatGPTでメディアバイイングのクエリをテストしている。

たとえば、子どもを持つ25歳から54歳の女性をターゲットとする、ある数学の個別指導サービスのクライアンのケースでは、「オーディエンスインサイト分析を行うためのテレビ局を検討せよ」とChatGPTに指示を出した。するとChatGPTは、アンケート調査をベースとするメディアカルチャーのプランニングツールが選んだ上位5局のうち4局を特定し、さらに、ほかのチャネルや予算案もいくつか提案してきたという。

「感動した」とアンドラーデ氏は話す。「上位のテレビ局を特定できたのはとても興味深いと感じた」。

より大きな可能性として期待されるのは、AIを活用してプランナーの時間を大幅に節約することだ。「リサーチプラットフォームを使ってデータを収集するなど、時間のかかる退屈な作業を排除できるからだ」と、アンドラーデ氏は説明する。そして将来的には、メディアチームをストラテジストにレベルアップするなど、AIを使いこなせる人材の育成にも活用できるだろう。

同氏はさらにこう続ける。「この観点から、AIはシニアプランナーの代わりにはならない。しかし、これから細かな仕事を教え、訓練しなければならない若手のエージェンシーコーディネーターの役割なら、AIが取って代わることもあるだろう。私の仕事の大半は全体を俯瞰する作業を伴う。カスタマージャーニー全体を見渡して顧客との接点を設計する、コネクションプランニングと呼ばれる仕事だ」。

同氏によると、メディアカルチャーでは現在、メディアプランナーを支援する試みとして、メディアミックスにAIの判断を反映させ、プランニングに文脈を与えるプロセスを開発中なのだという。ゆくゆくは、大きな予算を持たない中小の広告主でも、大手のエージェンシーと連携し、テレビ、ペイド、サーチ、ソーシャルをまたぐ専門的なサービスを受けられるようになるという。

AIのもっとも重要な要素はデータ処理能力

スタグウェル(Stagwell)傘下のエージェンシーであるコードアンドセオリー(Code and Theory)は、ジェネレーティブAIをさらに一歩進め、長期的な戦略としてクライアントのためのインフラとフレームワークの構築に注力している。その一環として5月4日、同社はオラクル(Oracle)と提携し、オラクルのクラウドインフラを活用して新たなAI機能を開発すると発表した。当初は金融、自動車、ホスピタリティ、小売業界のクライアントにフォーカスするという。

この提携の目的は、クライアントのAI活用を支援することにある。両社の連携により、さまざまな業種のクライアントが、機械学習やジェネレーティブAIはもとより、AIを組み込んだビジネスインテリジェンスやクラウドサービスなどを活用しつつ、既存のビジネスインフラを刷新できるという。コードアンドセオリーの共同創業者でエグゼクティブチェアマンを務めるダン・ガードナー氏は、「この提携には、エージェンシーがクライアントのためにAI機能を実験する基盤を長期的な視点で構築できるというメリットがある」と述べている。

また、「AI一般に関する話題はいくらでもあり、人はこういう話題性のある導入事例に飛びつきたがる」とガードナー氏は話す。「しかし、AIをめぐるもっとも重要な要素のひとつは、AIの推進を支えるデータ処理能力だ」。

同氏は、ジェネレーティブAIやクリエイティブイネーブルメントはアウトプットの助けにはなるが、消費財(CPG)、金融、ヘルスケア分野の企業にとって、より大きな機会が潜在するのはむしろデジタルトランスフォーメーション(DX)だと考えている。

「長期的に見れば、本物の差別化につながるのはDXだ。より効果的かつ持続的に独自の強みを作り出すのは、お手軽で一過性のジェネレーティブキャンペーンではない」と言い、「組織を変革し、その組織にイネーブルメントの観点からAIを組み込めば、それは恒久的な力を発揮するだろう」を予想する。

人間のスピードの限界を超える

同様に、エージェンシーネットワークのメディアモンクス(Media.Monks)も、ソーシャルメディアやそのほかのコンテンツアプリケーションにAIを応用する道を模索してきた。というのも、より高度な翻訳ツールや言語モデルがあれば、オーディエンスへのリーチを伸ばし、世界の市場に進出する可能性が生まれるからだ。

同社のエグゼクティブバイスプレジデントで、ソーシャル部門のグローバル責任者を務めるエイミー・ルカ氏は、将来的にABテストをもっと迅速に行う手段としてAIが使われるようになると指摘する。「人工知能が知的であるのは、我々が人形遣いのように指示を出すからであり、インプットを与え、学習させるからだ」と同氏は話す。「とくに大規模なパフォーマンスメディアに関しては、革命的なツールとなるだろう」。

たとえば同氏によると、メディアモンクスは現在、国際的なeコマースクライアントの米国での立ち上げを支援しているという。人間のチームにとって、ターゲティングや製品などのパラメータを決める際に「経験値に基づく最善の推測」を用いることは可能だが、スピードの点では限界がある。

「そうした作業の一部をより速く、より巧く反復できるようにすることが重要だ。例を挙げれば、効果の有無を検証したり、見出しの合理性を調べたりといった単純な作業だ」と同氏は説明する。「そしてそのような作業の多くは、作業の迅速化や、AIの活用による効率化を阻む摩擦点の排除につながるものだ」。

AIは完璧ではない

しかし、ChatGPTをはじめとするAIプラットフォームの現在の機能には、いくばくかの制限がある。たとえばいまのところ、ChatGPTは回答のソースを開示できない。精度や信頼性にも依然限界がある。メディアカルチャーのTVプランニングでは、アンドラーデ氏がオーディエンスの条件をもとに指定した上位20局のうち、AIが特定できたのは8局だけだった。リクエストの内容が大まかであるほど、精度は落ちるというわけだ。

アンドラーデ氏が望む理想的なAIメディアプランニングツールはまだ存在しない。現状では、プランナーがAIプラットフォームに指示を与えてレスポンスを引き出し、そこからさらに改良する必要がある。しかしAIのトレーニングが進み、より多くの企業が新たなモデルに取り組むことで、技術は向上するはずだ。今後、メディア戦略にAIを活用するケースが増えてくるかもしれない。

「大量のデータを分析して、顧客プロフィールの作成を試みる。そのペルソナの背後にいる人間がどこにいるのか、あるいはどこでメッセージを発信するべきか。メッセージを作り、現実世界でどう発信するかというこのプロセスは、いまも避けては通れない。AIがやってくれない作業だからだ。それでも、最初の一歩を踏み出す助けにはなるだろう」と、アンドラーデ氏は言う。

[原文:Media Buying Briefing: What if ChatGPT could replace a media planner?

Antoinette Siu(翻訳:英じゅんこ、編集:島田涼平)

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