コロナ禍を経て、 D2C の「成長戦略」はどう変わったか?:「立ち上げは簡単だが、規模拡大は難しくなった」

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D2Cブランドを立ち上げるのはこれまでになく簡単になったが、その規模を拡大するのは難しくなってきている。

これは、4月26〜28日にニューオーリンズで開催された米モダンリテール主催のイベント「D2Cサミット(DTC Summit)」で、各社の経営陣から筆者が繰り返し耳にした言葉だ。Facebookの広告コストが毎年増大するにつれて、この言葉はここしばらくお経のように繰り返されてきた。しかし、D2Cブランドが自社を際立たせるために採用する戦術は毎年変化し続けているようだ。

パンデミックの前には、イベントやFacebookグループなどでコミュニティを作り上げる戦術が広く使われており、これらの戦略によってブランドが有料メディアへの依存から離れられることが期待されていた。昨年はiOS14の更新のため、Facebookに集中していた広告への支出を多様化することが、より喫緊の課題となった。今年、特にパンデミックの際の最盛期と比較してeコマースの成長が鈍化している状況から、各ブランドは成長を促進するため実店舗を拡大するための投資を増やしている。

しかし情勢の変化から、新たな認識が広がってきた。すなわち、「すべてのブランドが同じ1つのマーケティングチャネル、1つのコミュニティ構築方針、1つの商品開発戦略を採用して、競争を勝ち上がることはできない」という認識だ。その代わりに、現在の初期段階から中間段階のブラントは多くの異なるマーケティングおよびコミュニティ構築方針を試み、もっとも有望なものを拡大していくよう迅速に対応している。Facebookの規模に置き換わることができるようなマーケティングチャネルを探すよりも有用な、イベント「D2Cサミット」から得られたもっとも重要な収穫を以下に示す。

実店舗への展開が過熱

これまで実店舗への展開を延期していたD2Cブランドが、今後2年間に10を超える店舗の出店を計画しているという話を毎週のように耳にする。家庭用品ブランドのブルックリネン(Brooklinen)も、そのようなブランドのひとつだ。同社は現在2つの店舗を保有しているが、年末までに店舗数を3倍に増やすことを計画している。今後2〜3年間で、25〜30店舗にまで拡大したい考えだ。こうした急速な店舗開設への動きは、同社の収益が2020年に2倍以上に増加したことを受けたものだ。

ほかのいくつかの新興企業は、独自の店舗を開設する準備は整っていないが、卸売販売の展開を強化している。中国の調味料ブランドのフライバイジン(Fly by Jing)もそのひとつだ。「私は常に、将来的には小売に参入すると考えていた。しかし2019年の時点では、当面はD2Cチャネルだけに専念すると思っていた」と、創設者のジン・ガオ氏は語る。同社は2020年のeコマースブームの恩恵を受けたブランドのひとつで、2019年と比較して売上は1000%も増加した。それから約3年後の今、同社の商品はコストコ(Costco)やターゲット(Target)などの全国チェーンを含む、数千の店舗で販売されている。

しかし、より多くの新興企業が実店舗の利点を取り入れるにつれ、D2Cブランドがこの分野で他社より抜きん出ることも難しくなっていく。ブルックリネンの小売担当バイスプレジデントを務めるジョシュ・イリグ氏は、現在は同じような小売分野で競合するD2Cブランドがさらに増えつつあり、場所が適切と感じない、または価格が高すぎるなら「気軽にノーと言える」ことが最重要だと認めている。

同様に、各ブランドは食料品店内の最適な配置も模索しており、店舗の棚における競争も激化している。ガオ氏は、フライバイジンはより多くの小売業者が自社商品を輸入商品の棚ではなくホットソースの棚で扱うよう働きかけている。これは、ホットソースの棚を通る人の方が多いためだ。

鍵となるのは多様化

ブランドが大きくなると、多様化はますます重要になっていく。商品ラインが失敗した、または派手なマーケティングキャンペーンが失敗した場合、その会社が1000万ドル(約13億円)のブランドである場合よりも、1億ドル(約130億円)のブランドである場合の方が損害ははるかに大きい。

さらに課題となるのは、一部のD2Cブランドが新しいマーケティングチャネルや方針で成功すると、競合他社も間違いなく同じプレイブックを真似して試みるということだ。サステナブルな歯磨きブランドのバイト(Bite)の創設者であるリンジー・マコーミック氏は、潜在的な新しい顧客がどのようなアプリやチャネルに時間を費やしているかを、そのアプリやチャネルが飽和する前に見つけることが、同氏の職務の一部だと、筆者に語った。

旅行ブランドのベイズ(Béis)は、パンデミックの最中に幸運にも操業を続け、業績を伸ばすことができたが、その大部分は創設者である女優シェイ・ミッチェル氏のスター性のおかげだった。ベイズが今年もっとも重視しているのは多様化だと、プレジデントのアディーラ・フセイン・ジョンソン氏と、ブランドおよびクリエイティブ担当バイスプレジデントのリズ・マネー氏は筆者に語った。

「当社はミッチェル氏、ソーシャルメディアと有料メディア、またはひとつの商品カテゴリに強く依存するわけにはいかない。会社の成長につれ、そのいずれかを失ったときの損害は巨大なものになる」とフセイン・ジョンソン氏は語る。マネー氏は、同社が今年後半にポップアップ店舗を開設し、ポッドキャスト、コネクテッドTV、ダイレクトメールなど新しいマーケティングチャネルも今年中にテストする予定だと述べている。

最後に、ベイズは最近になってミッチェル氏以外のインフルエンサーとのキャンペーンもテストしはじめた。マネー氏によれば、同社にとっての大きな課題は、元の創設者がいなくてもブランドの存続を保証することだ。

規模を拡大しても顧客との密接な関係を維持することは継続的な課題

D2Cブランドの創設当初、創設者と2人くらいのフルタイム従業員でブランドを経営している段階では、顧客との連絡を維持するのはごく簡単なことだ。創設者はすべての作業を行う必要がある。ブランドの事実上のインフルエンサーとして役割を果たし、顧客からの苦情に対応して、ソーシャルメディアアカウントの管理も行う。

しかし多くの場合、ブランドの規模が拡大するにつれ、重要なフィードバック源である顧客と密接な関係を維持するのは難しくなっていく。筆者が対談した多くのエグゼクティブは、この点について常に考えていると語った。たとえばマコーミック氏は、今でも毎週金曜日には顧客に電話するためスケジュールを1時間空けていると語った。

乳幼児向け商品ブランドのラロ(Lalo)のCMO兼プレジデントを務めるマイケル・ウィーダー氏は、同社が業務を拡大しても、顧客サービスで個人的な感覚を失わないよう心がけていると語った。たとえば、同社はハイチェアやそのほかの同社製品を返品すると決定した顧客と協力し、顧客の望む現地組織に寄贈している。

それでも、ブランドが特定のヒット商品や、バイラルマーケティングで得られた人気に頼らず、さらに成長するためには、顧客からのフィードバックは重要だ。バーク(Bark)のD2C担当シニアバイスプレジデントを務めるメガン・ノール氏は、同社の商品開発のために顧客からのフィードバックが極めて重要だったと語っている。

バークは、犬用おもちゃを販売するサブスクリプション専用サービスとして設立された。同社は数年前、顧客からのフィードバックに応える形で、スーパーチューアー(Super Chewer)というおもちゃのラインをリリースした。「顧客がサブスクリプションを取り消すおもな理由のひとつが『おもちゃがあまり頑丈ではない』だったので、十分に対応できていない顧客のニーズがあることに気がついた」とノール氏は述べている。

同氏は、バークが現在重視している目標は、おもちゃ以外に業務を拡大することだと述べている。同社は最近、デンタルチュー(噛むデンタルケアおやつ)やドッグフードを扱うようになり、顧客に新しい商品ラインを販売することは既存の顧客との密接な関係を前提としていると、同氏は述べている。

「当社が顧客と自然な対話を行えるのは、何年にもわたって顧客とのあいだに作り上げてきた関係の証明だと考えている」とノール氏は述べている。

[原文:DTC Briefing: How the growth playbook for today’s DTC brands has changed ]

Anna Hensel(翻訳:ジェスコーポレーション、編集:戸田美子)
Image via Bite

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