メディアバイヤーやプランナー、メディアセラーに提供する微妙な差を巡ってしのぎを削るデータ・アドテク業界は、近年、混雑および複雑の度合いをさらに深めている。特にTVカレンシーデータ界にはそれが言えるのだが、そんななか、ある新規参入業者はほかと明らかに一線を画すデータ利用の切り口を提供できると確信している。
2021年、メディア業界のベテラン幹部3名が静かに立ち上げたデータフュエルX(datafuelX)(そう、大文字小文字の表記はこれで正しい)は、ニールセン(Nielsen)をはじめ、ビデオアンプ(VideoAmp)、ロク(Roku)、アイスポット(iSpot)、LGのほか、種々様々なデータセットを利用した2つのプロダクトを提供するメディアソリューション企業だ。
ターナー・ブロードキャスティング(Turner Broadcasting)およびMTVネットワークス(MTV Networks)での業績で知られるリサーチ業界のベテラン、ハワード・シメル氏がストラテジー部門を率い、残る2人の取締役はトップウォーター・アドバイザリー・グループ(Topwater Advisory Group)の創業者/プレジデント、マイケル・ストローバー氏とユニビジョン・コミュニケーションズ(Univision Communications)のデータ、アナリティクス&アドバンストアドバタイジング部門シニアVP、ダン・アヴェルサノ氏が担う。同社は創業から間もない現在、すべて自己資金で賄っている。
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「我々は今後、エージェンシーおよび広告主の消費者へのリーチ法に、そしてオーディエンスの拡大および収益化に対するメディア企業の考え方に大きく影響を及ぼす、複雑な波に乗ろうとする企業だ」とシメル氏は語り、データフュエルXは動画市場の最前線で利用されることを期待し、間もなく上場すると言い添える。「業界として、カレンシーが何に姿を変える必要があるのか、いまは対話がなされていない気がする」。
2つのプロダクトが実現するもの
同社が供する1つめのプロダクトが、クロスプラットフォーム能力を有するリーチ&フリークエンシーツール、プレシジョンX(precisionX)だ。これは現在流通している10程度のデータセットをいくつでも検定でき、そのデータセットを種類にかかわらず「再利用」を可能にする。その価値は、クロスプラットフォームアクティベーション手段であるだけに、リニア(一次関数)、デジタル、およびストリーミングのインプットの違いを越えられる能力だと、シメル氏は説明する。同プロダクトは、誰がリーチおよびフリークエンシーの対象になり、誰が当該キャンペーンの対象から外れるのか、IDレベルにおいてモデリングする。続いて、ユーザーはアドサーバーに信号を入力し、不要なオーディエンスを極力除外できると、氏は言い添える。
2つめのツールは、メディアセラー/パブリッシャーを主対象とする予想分析モデリングプラットフォーム、アウトカムX(outcomeX)だ。これは人気アクティビティに関する予測をし、ユーザーであるセラーはそれを基に、同アクティビティの需要が高い時間帯に合わせた適切なスケジュールを組むことができる。
ユニビジョン・コミュニケーションズがすでに両プロダクトと契約しているのは、アヴァーサノ氏が共同創業者である点を考えれば、さほど驚くことではない。ユニビジョン・コミュニケーションズのプロダクトマネジメント&アドバンストアドバタイジングセールス部門シニアVP、ブライアン・リン氏によれば、同社は2021年に社内で何度かアルファテストを実施したあと、1月にサーチデータプロバイダのEDOと組み、保険、電気通信、美容の各業界における顧客のサーチアクティビティの最適化にアウトカムXのモデリングツールの利用を決めた。
「非常にポジティブな結果が見られ、ブランドがベースラインプランで当初行なったものよりも、20%のリフトアップがあった」とリン氏。「これは定着すると我々は考えている。また、アウトカムベースのさまざまなエンドポイント、たとえばウェブの訪問数やフットトラフィックについても、データフュエルXを使って掘り下げていく」。また、プレシジョンXのおかげで、データ信用性をバイヤーに提供するユニビジョン・コミュニケーションズの計画が促進されたと、リン氏は話す。
再利用性が持つ価値
とある大手持株メディアエージェンシーのアドバンストTV部門幹部は、匿名を条件に取材に応え、データフュエルXの再利用性という切り口は、ほかの多くのデータアドテク企業と確実に差異化できる重要な点だと指摘する。
「データは非常に高額だ。再利用が可能になればコスト効率の高い、ユーザーに優しい、高レベルのサービスとなる可能性がある」と同氏。「彼らはデータサイエンティストを抱えており、TVのことが、そしてTV取引のことがよくわかっている。これは仕方なく選ぶものではない。すぐにでも利用したい魅力的な選択肢だ」。
同幹部はさらに、データサービスの提供だけを使命とするデータフュエルXの姿勢にはブレがないと指摘する。ほかのデータ企業はデータサービスを提供しながら、メディアに時間とスペースの販売もしており、一部のエージェンシーやメディアセラーから矛盾があると見られている。「彼らのこのアプローチはほかに類がない。もっとも、まだ初期段階ではあるが」と同氏は評する。
シメル氏によれば、オープンAP(OpenAP)の元ジェネラルマネージャー、ジェイ・アマート氏を同社のプレジデントとして迎え入れており、元ホライゾン・メディア(Horizon Media)のスペンサー・ランバート氏がプロダクトおよびパートナーシップ部門マネージャーとしてデータサイエンスチームを率いているという。
[原文:How one data solutions startup wants to simplify the complex world of data sets across platforms]
Michael Bürgi(翻訳:SI Japan、編集:分島翔平)