「 アクセシビリティ は、プレイヤーだけの問題ではない 」:ゲーム業界でマイノリティ支援を行う J・ブラックハート氏

DIGIDAY

ジョアンナ・ブラックハート氏は、ゲーム業界で活動するアクセシビリティとセンシティビティのデザイナーだ。バリアフリーで誰もがアクセスしやすく、マイノリティに対して思慮のある環境構築に従事している。その職務を通して同氏は、この業界における良い面も悪い面も経験してきたという。

ライターであり、コンサルタントでもあるブラックハート氏は、ゲームの品質保証(QA)とカスタマーサービスのスペシャリストとして、そのキャリアをスタートさせた。2005年から2008年までは、ブリザードエンターテインメント(Blizzard Entertainment)に勤務したが、劣悪で名高い同社の職場文化に嫌気がさして退職した。

その後、トランスジェンダーやノンバイナリーの人々を支援する運動家として活動したのち、再びゲーム業界に戻り、AAA(トリプルA)クラスや独立系のゲームパブリッシャーのコンサルタントとして、社会的に疎外されがちなプレイヤーたちにもアクセスしやすく、また、このような人々に対して果たすべき責任を果たせるようなゲームタイトルの制作を支援している。昨年は人気のインディゲーム「アイケンフェル(Ikenfell)」の開発者たちに監修者として招かれ、ゲームに登場するLGBTQ+のキャラクターたちの描写について、シナリオやセリフのリライトをおこなった(このゲームは、クィアコミュニティに対する思慮深い描写が高く評価されている)。

ブランドがゲーム領域でのプレゼンスを拡大し、ゲーム内アクティベーションがますます精緻化するに伴い、ビデオゲームのユーザー層も厚みを増している。広告主が、鈍感で無神経なゲーム、あるいは包摂性に無思慮なテーマやキャラクター設定によって失態を演じることなく、ゲームの世界で順調に活動を続けるには、いまやアクセシビリティとセンシティビティは不可欠の要素となった。

米DIGIDAYは、ブラックハート氏にインタビュー取材をおこない、ゲーム業界でアクセシビリティやセンシティビティを設計する仕事の裏表について聞いた。また、ゲーム業界はいまだに、労働者にしろゲーマーにしろ、社会の端に追いやられた少数派の人々にあまり優しい業界ではない。この点についても率直に語ってもらった。

なお、読みやすさを考慮して、発言内容は若干編集および要約している。

◆ ◆ ◆

――アクセシビリティとセンシティビティのデザインとは、具体的にどのような仕事なのか?

私の仕事の大半は、編集、執筆、ゲームデザインなどだ。リードプログラマーやストーリーを書く責任者と緊密に連携して、この人々の書くシナリオやセリフをリライトすることが多い。「センシティビティとアクセシビリティのコンサルタント」というのは総称的な肩書きで、カバーする範囲が極めて広い。非常に広範な仕事だ。

「アクセシビリティのコンサルタントをしている」などと聞けば、「ゲームを申し訳程度に検証し、アクセシブル(バリアフリー)でない部分をひとつふたつ指摘するだけ」と考える人が多いのではないか。たとえば、「このゲームにはカラーブラインドモードがない」と指摘して終わり、のように。それは違う。そんな説明では、私の仕事の本質にかすりもしない。

アクセシビリティが必要なのは、プレイヤーだけではない。私の仕事は、ゲームを制作する人々の命を守る仕事でもある。この肩書きがカバーする範囲はとても大きく、プレイヤーのためだけの活動ではない。アクセシビリティの仕事は、開発の初期段階からはじまる。しかも、ゲーム業界に限らない。書籍や映画、ショートフィルム、技術全般の分野でも仕事はある。ほぼどこに行ってもニーズがあるのは、残念ながら、我々の住む世界が文句なしにアクセシブルというわけではないからだ。

――大手のゲームパブリッシャーには、一般的にアクセシビリティデザイナーが在籍しているのか?

私の知るところでは、大手のAAA企業2、3社に関しては、アクセシビリティの専門家を1名置いている。基本的に、アクセシビリティを担当するのはこのひとりだけだ。しかし、この仕事はそういうものではない。私はアクセシビリティとセンシティビティの仕事に従事しているが、ひとりですべてをカバーすることはできない。絶対に不可能だ。

多くの場合私の仕事は、必要な作業を評価し、対処法を考えることだ。実際に動く人を何人か集めることもある。たとえば、私は黒人差別反対運動の権威を気取るつもりは毛頭ない。私は黒人ではないのだから。この問題を扱うことになったら、この分野に詳しい別のアクセシビリティのコンサルタントを探すことにする。

人の持つ障害は千差万別だ。ひとりの人間にすべてをカバーさせることはできない。アクセシビリティの担当者をひとりしか置かないとすれば、それは不当な扱いといわざるを得ない。だいたい、その人がどんなに優秀でも、ひとりでこの職務をまっとうするなど無理な話だ。

その点、マイクロソフトはほかのどの企業よりも優秀だ。彼らは常にアクセシビリティのことを考えている。そして同じ業界のどの企業よりも、多くのことをやっている。

――最近のAAAタイトルのなかで、アクセシビリティやセンシティビティにもっと配慮すべきだったと思う案件はあるか?

最近の作品としては、『フォルツァホライゾン5(Forza Horizon 5)』がそうだ。私が担当したわけではないが、先日、Twitterでこのタイトルに関する、オサマという人の投稿を読んだ。このオサマなる人物によると、開発チームが人物をブラックリストに登録したという。この投稿でオサマ氏は「自分の名前がワードフィルターに有害判定された」と書いている。

私は複数のAAA企業で仕事をしてきたが、ブラックリストくらい小さな話となると、誰が窓口なのか見当もつかない。ワードフィルターの設定は、数百ときには数千の人々が関わるなかで、本当に小さな仕事だ。修正するにしても、ワードフィルターの担当なんて、どこの誰だか分からないのが普通だ。どの現場も優先事項はほかにあり、ブラックリストの責任者を探し出すのは大仕事だ。

ほとんどの場合、ゲーム会社は自社の基準に合わせて汎用型のワードフィルターを作成し、自社で開発するゲームのすべてにこのフィルターを適用する。「ここに有害ワードのリストがあるから、とりあえずこれを使おう。それで任務完了だ」といった具合だ。

とはいえ、フォルツァの不手際を非難するだけでは不公平だ。良い点についても紹介しておこう。これは、ゲームではほとんど前例のない試みだが、できればほかのゲームも見習ってほしい。フォルツァは、ゲーム内に手話通訳を配置すると表明している。この補助機能がすでに本稼働しているか否かは確認していないが。

――ゲーム業界でアクセシビリティやセンシティビティの専門家が受け取る報酬は?

まったく儲からない。赤貧洗うがごとしだ。しかし、それはこの仕事で金が稼げないという意味ではない。儲からない原因は、むしろ私が金のために仕事をしないからだ。気がついたら、インディ系のゲーム会社と仕事をしていたりする。ひとりふたりの開発者がガレージでゲームを作っているような会社だ。AAA企業のような予算はない。だからといって、「金がないならアクセシブルなゲームを作るのは無理だ、不運だと思ってあきらめろ」とは口が裂けてもいいたくない。それで結局、わずかな報酬でも引き受ける。私が受け取る標準的なコンサルティング料に遠く及ばない金額であってもだ。1時間働いて200ドル(約2万3000円)ということもあれば、数カ月働いて100ドル(約1万1500円)ということもある。

相場の金額で依頼されることはほとんどないが、そういう仕事が私の生活を支えている。時給100ドルを軽く超える案件もあるが、そういう仕事はなかなか来ない。実際、私の仕事の大部分は仕事探しだ。

――この業界のあちこちに、社会的に周縁化された人々がいる。アクセシビリティやセンシティビティに関わる仕事は、このような人々にとって一種の避難路になりうるのか?

勘違いしないでほしい。確かに避難路ではあるが、私がここまで来られたのは、幸運にも、業界の友人が私のゲーム以外の仕事を見て、私にチャンスを与えてくれたからだ。

そして次の目標だが、私はいま、アクセシビリティやセンシティビティを専門に扱うコンサルティング会社の設立を進めている。労働者協同組合として設立する計画だ。BIPOC(Black, Indigenous, People of Color:黒人、先住民、有色人種)の若者たちのなかには、ゲームに興味があっても、企業文化や心身の障害、または性的指向のせいで、現状に疲弊し、あるいは社会に馴染めない者たちが大勢いる。そういう若者たちを支援することが目的だ。

私とまったく同じ境遇でも、私ほど運に恵まれなかった人たちはたくさんいる。そういう人たちを探し出し、それぞれにふさわしいチャンスを与えてあげたい。

ゲーム業界にいるBIPOCの人々、障害を持つ人々、性的少数者の人々がこの記事を読み、このような試みへの参加に関心があれば、ぜひTwitterを通じて連絡してほしい。

[原文:‘Accessibility isn’t just about the player’: A Q&A with gaming accessibility and sensitivity designer Joanna Blackhart

ALEXANDER LEE(翻訳:英じゅんこ、編集:村上莞)

Source

タイトルとURLをコピーしました