eスポーツ ・ゲーミング企業は、いつ「黒字化」するのか:「もはやクールさだけでなく、ビジネスマン気質も必要だ」

DIGIDAY

先月第1四半期の収益が発表された際、株式公開されているゲーミング企業やeスポーツ企業は、収益の成長とオーディエンスの拡大を強調し、自分達の成功が続いていることを示そうとした。しかし、実際はゲーミング企業やeスポーツ企業の多くはまだ黒字になる方法を見つけていない。これは、手っ取り早くお金を稼ごうとゲーミング分野に参入した投資家たちにとって、高まる懸念の源となっている。

パンデミック初期には驚異的な成長を遂げていたゲームとeスポーツ市場だったが、ここ数カ月で大きな修正を余儀なくされている。eスポーツの投資家たちにとっては、株式の公開、非公開を問わず厳しい時期となっている。株式公開されているカナダのゲーミング・eスポーツ企業であるエンシュージアスト・ゲーミング(Enthusiast Gaming)の投資家たちは、株価の長期にわたる下落を受けて、現在同社の取締役会を入れ替えようとキャンペーンを行っている。2019年以来ナスダック市場で取引されているアライド・eスポーツ(Allied Esports)は最近、直近2つの四半期決算報告書の提出期限を守れず、取引所から警告を受けた

また、非常に人気の高いeスポーツ団体であるフェイズ・クラン(FaZe Clan)も株式公開が以前は2022年の第1四半期に予定されていたが、2021年の財務成績が振るわなかったため、実現しないかもしれない

明るく振る舞う各社だが

こうした不吉な兆候にもかかわらず、株式公開されているeスポーツ関連の有名企業の決算発表のトーンは、目立って明るい。もちろんこれは意図的である。会社を取り巻くポジティブな外向けの空気を発展させ、維持するのがCEOの仕事であり、ゲームとeスポーツほどその要素に深く影響を受けている業界はないだろう。

オーバーアクティブ・メディア(OverActive Media)のプレジデント兼CEOであるクリス・オーバーホルト氏は、同社の最新の決算報告の中でこう述べている。「弊社はコア事業に集中し、戦略の中心となる基礎的な事業をしっかりと遂行する」。同社は、オーバーウォッチ・リーグ(Overwatch League)、コール・オブ・デューティ・リーグ(Call of Duty League)、リーグ・オブ・レジェンズ・欧州チャンピオンシップ(League of Legends European Championship)などのメジャーeスポーツリーグのフランチャイズを保有している。同決算報告では「オーバーアクティブの売上は、主に戦略的マーケティング・パートナーシップ事業によるものだ」とも述べた。

キーワードは過去も現在も「成長」である。同社の収益は確実に、前年比で62%増加している。しかし、「利益(黒字化)」という言葉は会見の中で一度も言及されておらず、同社は2021年に1540万ドルの純損失を報告している。エンシュージアスト・ゲーミングも同様に、「成長」を強調し、2022年第1四半期の40分間の決算会見で24回もその言葉を使った。

同社のCEOエイドリアン・モンゴメリー氏は報告において、歯切れ悪くこう述べている。「今確認されているトレンドのおかげで、短期的な利益目標を達成できると確信している」。

フェイズ・クランのような大手も課題を抱える

ブランド提携はほとんどのeスポーツチームの主要な収益源だが、企業が所有したり製造したりできる実際のプロダクトではない。eスポーツ団体はしばしばブランド提携に関する財務的詳細を明らかにしない。投資家らはオーバーアクティブ・メディアなどのeスポーツ企業に対してより詳細を求めており、これらの企業はライブイベントなど、より堅実な収益源の開発を迫られている。10億ドル(約1300億円)の時価総額を誇る一方で、主な収益源はブランド提携に依存し続けているフェイズ・クランのような大手企業にも同じ課題が当てはまる。

「彼らは5000万ドル(約67億円)の収益しかない状態で10億ドル(約1300億円)の価値があると説得しようとしていた」とeスポーツ分野のジャーナリストで業界専門家のジェイコブ・ウルフ氏は言う。「それは(収益の)20倍もの価値だ。このレベルの価値は巨大なプロダクト群を持つ大手テクノロジー企業にしか見られない」(本稿の記者はウルフ氏の友人であり、かつての同僚である)。

eスポーツ企業はさらに他の分野に進出し、漠然としたゲーム消費者とそのファンダムを売り買いできるものに変えようと持株会社モデルを採用している。そんななかで、eスポーツ自体、あるいは少なくとも従来的な賞金のためのハイレベルな競技ゲームは、ビジネス戦略の中で急速に縮小している分野となっている。

「彼らはもはやeスポーツ団体とは言えない。フェイズ・クランは各々のトーナメントに勝とうが負けようが気にしていない」とポッドキャスト「eスポーツのビジネス(Business of Esports)」で業界を追うポール・ダワリビ氏は述べた。「すべてはコンテンツとパーカー(などのグッズ販売)のための表向きの言い訳と(トーナメントでの競争が)なっている。上場しているeスポーツ企業の状況を見ていると、この事実に気がついている人は多くなさそうだ」。

eスポーツチームが競技シーンから離れると?

競技ゲームから事業のフォーカスが離れるというこの移行は、eスポーツ組織にとって実存的な問題をもたらす可能性がある。フェイズクランや100シーブズ(100 Thieves)といったトップレベルのeスポーツチームは、ブランド構築に成功し、ゲームコミュニティにも認められている。これらの企業自体が、競争力のあるゲーマーによって設立され、率いられているからだ。現段階では、彼らはより従来的なビジネスの洞察力を必要とするところまで成長している。しかしビジネス業界から幹部社員を採用することは、両ブランドが培ってきた地に足がつきながらもどこか不遜で生意気な精神と衝突するかもしれない。

「クールさにはちょうどよい分量というのがある。彼らが単なるゲーマーのチームならば問題ないが、企業であるならクールさがありすぎている状態だ」とダワリビ氏は言う。「一部の視聴者を失うリスクを冒して、少しばかりクールではないものを注入して抑える必要があるが、彼らはそれをしないだろう。しかし、長期的なビジネスを維持するためには、どこかの時点で堅物のビジネスマン気質が必要だ」。

ゲームとeスポーツの市場修正はまだ進行中だ。そして業界が均衡に達するまでは、eスポーツ企業たちはIPOの夢を保留することが最善かもしれない。

eスポーツ業界の専門家で、投資銀行ドレーク・スター・パートナーズ(Drake Star Partners)のパートナーであるマイケル・メッツジャー氏は「(eスポーツ企業に)投資して所有している人たちを見ると、それは(従来の)スポーツ業界に似ている。これらの人々の中には、すでに非常に裕福な人たちもいる。多くの場合、個人対機関投資家もしくはファンド、という構図がある」と述べた。「そのため、eスポーツ企業は実際には焦点が財務状況にほとんどフォーカスせず、さらに高い評価額でも資金調達を続けることができるようだ。そして、そのチームを活用する企業が、ビジネス、プラットフォーム、それを取り巻くコンサルタントを構築することができる」。

「最高のチーム作りが収益化につながらなくなった」

黒字化できるまでは、eスポーツ企業は興味をそそる買収を行いつつ、目先の収益を伸ばすことで、投資家をなだめることを続けるだろう。しかし、この業界はもはや新規業界ではなく、内部をチェックする株主は深刻な現実を経験することになるだろう。eスポーツによるIPOの増加が見込まれるなか、この領域に興味のある投資家たちは、ブランドの誇大宣伝やそれ自体が目的化した成長よりも、実際のプロダクト、そして持続可能な収益源を優先すべきだ。

「最高のチームを作り、最も多くの大会でチャンピオンとなり、その結果としてもっとも多くの(チームのグッズである)ジャージを販売する、ということが本質ではなくなった。もう誰もそんなことは考えていない」とダワリビ氏は言う。「(そのような事業のやり方)はある意味で不可能だと証明されたからだ。それだけではビジネスを成功に導くことはできない」。

[原文:Gaming and esports companies’ cheery earnings reports belie the industry’s profitability challenges

Alexander Lee(翻訳:塚本 紺、編集:分島翔平)

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