物価はどこまで上がるのだろう?

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日本からこのブログをお読みの方は今日のタイトルを見ても「お前、何言っているの?」だと思います。しかし、私が住むこのカナダの物価の上昇は肌感覚でいえばこの1年ぐらいはじわじわ着実に上がってきていたものがここに来て、ついに牙をむき出しにしてなりふり構わず上昇してきた、という感じがします。

Thibault Renard/iStock

よく行くある中華系のフードコート。驚いたことにどの店の価格にも白い紙が貼ってあって手書きで「新価格」が記載されています。概ね5-10%ぐらい上昇しています。かつてハイパーインフレ下のブラジルに行ったときに店のメニューに価格が書いておらず、その日のレートを店員に聞く、ということがありました。その後、更に状況が悪化し、一日2回、価格を変えるという事態にも遭遇したことがあります。もちろん、北米の価格がそこまで上昇しているわけではありません。しかし、あの悪夢のような止まらないインフレがふと頭の中をよぎるのです。

アメリカのFRB議長、パウエル氏も財務長官のイエレン氏もこのインフレは「一時的」と言います。しかし、本日発表になったアメリカの10月度消費者物価指数は前年同月比6.2%となり、1990年以来31年ぶりの上昇水準になりました。一方、同日に発表になった中国の卸売物価指数は前年同月比13.5%上昇と統計上比較可能な1996年以降、最高を記録しました。

アメリカのインフレ主因はサプライチェーン、中国のそれは資源問題です。ではパウエル氏やイエレン氏が予想する「コロナ後の消費の一時的ブームの沈静化」による来年早期の終息シナリオはあり得るのでしょうか?パウエル氏の根拠は人々の消費動向が違うものに目移りし、また消費に飽きが生じることを期待したものです。私もそれは同意していました。が、どうやらそれは需要側だけの都合で供給側の都合でみると改善する見込みが立っていないようです。

2022年度の船便の貨物輸送費は下がると予想されています。日本の船会社の株価も概ね年初から9月のピークまでに4-5倍ぐらいになった後、3割ほど下げ小動きに転じています。ただ、運ぶのは船だけではなく、「船便輸送の頭痛のワンマイル」である陸揚げ、保税庫、通関、倉庫への移動というプロセスがローテクで、更に倉庫から各地への輸送力も不十分です。

もう一点、忘れてはならないのは一度上がった物価は下がりにくいという特性があります。

我々はどう対処していくべきなのでしょうか?

先ほどの中華系フードコートはそんな値上げにもかかわらず、戦争のような忙しさです。もたもた注文していたら張り倒されるぐらいの勢いです。つまり、消費者はそれぐらいのインフレにはお構いないほど懐が豊かなのです。

何故でしょうか?ご承知の通り北米の人は何らかの形で株式市場に投資をしている人は多いのですが、見かけ上の資産価格の上昇でインフレに耐えうる資産形成があるとみなし、価格上昇を許容しているようにみえます。非常に大雑把な話をすれば健全なインフレであれば株価も一緒に上がるのです。日本はディスインフレの間、株価が低迷し、いつまでも31年前の高値を抜けないのはここに一つの解があります。

例えば私は金(ゴールド)の投資歴が長いのですが、今日のインフレ率の発表を受けてボーンと上昇しています。金はインフレと共に上昇するからです。つまり、政府紙幣で持っている限り相対的な価値に対する防御はできませんが、物価連動性が高いものにシフトすれば一緒に動くので「物価、高い高い」と言いながらも黒山の人だかりになるのです。

この構図は日本では今ではほとんどお目にかかれない情景だと思いますが、ご興味があれば日本の50年代から60年代初頭に物価と日経平均がどのような上昇をしたかご覧いただければ一目だと思います。

ではこの物価はどこまで上がるのだろうか、ですがそんなこと、私には到底わかりません。ただ、一点、いえるのは北米に関して言えば人々は豊かになりすぎた結果、仕事を選ぶようになったことで人が嫌がる仕事を誰がするのか、という構造的問題が生じています。もう一つは脱炭素化に向けた人々が支払うコストは高いものにつきそうだ、ということです。

となれば日本はインフレになっても困らない強い体質を作り上げないと早晩行き詰ることもあり得ます。北米の強いインフレ指数は12月までで1月になれば一旦落ち着くとは思います。それでも一度上がった水準は決して下がらないことは肝に銘じておくべきでしょう。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2021年11月11日の記事より転載させていただきました。

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