「 脱毛症 はジョークのネタではない」:アカデミー賞授賞式の出来事を受け、脱毛症に悩む当事者や擁護者たちの意見

DIGIDAY

アカデミー賞授賞式で、ウィル・スミス氏が妻のジェイダ・ピンケット・スミス氏の脱毛症に関するジョークを言われて、クリス・ロック氏を平手打ちしたことが正当化されるかどうかは別にして、脱毛症は感情的にならざるを得ない話題であることは間違いない。

授賞式の当日の3月27日と翌日28日の朝、授賞式での事件がソーシャルメディアを席巻したとき、コメンテーターの多くはスミス氏の行動の正当性について取り上げていた。しかし、脱毛症の擁護者のあいだでは、女性の脱毛をネガティブに捉える社会において、ロック氏がはなったようなジョークの対象になるのはどういうことかについてがフォーカスされている。

アメリカでは2100万人の女性が悩んでいる脱毛

ジェイダ・ピンケット・スミス氏は、2018年に脱毛症を公表したあと、2021年に頭髪を剃ったスタイルにした。同氏は、脱毛症を抱えて暮らすことについて公に語っているもっとも有名な公人のひとりである。脱毛症は非常に一般的なもので、2100万人を超える女性がある程度の脱毛に悩んでいると推定されている。近年では、多くのインフルエンサーや有名人が脱毛の経験について公に発言するようになっている。ロック氏のジョークとスミス氏の感情的な反応のあとには、脱毛症を持つ公人による意見やコメントがあふれかえっている。

脱毛症を抱える多くの女性セレブやインフルエンサーらは事件についてコメントしているが、脱毛症を否定的に捉える社会における自分たちの経験を考えるとロック氏のジョークは愉快なものではなかったという。

社会的な美の定義からはずれる恐怖心

ファッションデザイナーのシモーン・ダグラス氏はインスタグラムで次のように述べている。「3月27日の夜、起こったことを理解するのに少し時間がかかった。 @chrisrock は舞台上で黒人女性をからかい、明らかに自分の症状に対してまだ受け入れ切れていない人を選び出したわけだ」。また、こう付け加えている。「ジェイダの表情を見て、私は19歳の自分を思い出した。髪が抜け始めて恐怖と恥ずかしさでいっぱいだった頃だ。本人にはコントロールできないことで嘲笑されたり、疎外されたりするのが最大の恐怖だった。これは、おそらく社会的な美の定義に当てはまらない人が感じていることだと思う。髪のない自分の頭と、脱毛症に影響を受けた女性としての自分を受け入れ愛するのにはすごく苦労した」。

元トークショーホスト、リッキー・レイク氏の経験談

元トークショーの司会者であるリッキー・レイク氏は、脱毛症の経験を公表しており、授賞式の翌日の夜、ヘアケアブランドのハークリニッケン(Harklinikken)の創業者、ラース・スキョート氏と同ブランドのビバリーヒルズにある旗艦店での対談でこの事件について触れている。

レイク氏は、スミス氏のとった行動について「まったく許容できるものではない」と言いつつも、「ジェイダ・ピンケット・スミス氏にはすごく同情する。彼女と同じ経験をした人だけが彼女の気持ちを理解できる」。また、「(ジョークは)とても悲しいことであり、心に突き刺さった。特に脱毛症に苦しんでいる人にとっては不愉快だった」。

スキョート氏は「重要なのは、脱毛症の人たちだけではなく、そのまわりにいる家族や友人にとっても、脱毛がどれほど感情を刺激するものかがわかったことだ」と語った。

下院議員プレスリー氏の意見

脱毛症を2020年1月に公表した米国下院議員のアヤンナ・プレスリー氏は、3月28日にこうツイートした。「我々の体はパブリックドメインではない。ジョークのネタではない。とくに、その変化について自分の選択肢がなかった場合は。私は暴力のサバイバー。誇り高きアロペシアン(脱毛症を持つ人)。我々が日々抱えている心理的な辛苦は現実なのだ。ジェイダをサポートする。言いたいのはそれだけだ」。同氏は「日々(他人からの)無知と侮辱に直面している脱毛症の妻を守るすべての夫を応援する」というツイートを削除したあとに、最初のツイートを投稿した。

脱毛症の診断を受けたインフルエンサー兼ウィッグデザイナーのジーナ・アティヌク・ナイト氏は、インタグラムに「私の脱毛症はジョークのオチではない」と投稿。同氏は「この件に関してソーシャルで見たコメントから明らかにわかったのは、脱毛症とそれが本人に及ぼす影響についてまだまだ学ぶことがたくさんあるということだ」とコメントした。

多くのインフルエンサーが取り上げたように、ナイト氏は、3月初旬に自殺した中学生、リオ・オルレッド氏の悲劇について触れた。「2週間前に、脱毛症についていじめられ死を選んだ子どもがいることを忘れてはいけない。そして昨夜、世界的な舞台で脱毛症の女性が嘲笑された」。

「これによって、社会で脱毛症がどのように捉えられているかが浮き彫りになった。『単に頭髪の話』だと思われて重要視されてこなかったが、脱毛症は人生を100%変えてしまう症状であり、長期にわたりメンタルヘルスに影響を与えるかもしれないものなのだ」とナイト氏。

擁護者らの意見

モデルで脱毛症の擁護者でもあり、カスタムウィッグデザイナーのジーナ・ターナー氏はスミス夫妻の両方に同情している。自分のインスタグラムストーリーで、ウィル・スミス氏の反応に言及して「あのトラウマや脱毛の苦労を毎日経験したことがない人や、経験することがないだろう人にとって、(ビンタで対応した反応は)正当化できないと思うのは簡単だ」と述べている。

カイリー・バンバーガー氏もモデルで脱毛症の擁護者である。インスタグラムではこう述べている。「他人の悩みをジョークにするのには犠牲がともなうということは、一体いつになったら理解されるのか。仕事仲間や憧れの存在や何百万人もの視聴者の前で脱毛症のことに触れられるのは悔しい。ロック氏のジョークはピンケット・スミス氏の脱毛を称えるものではなかった。なんといっても、 @jadapinkettsmith の表情が物語っていた。ジョークは不愉快で、狭量で、想像力に欠けていた」。

自分の脱毛症の経験についてオンラインで積極的に発言しているパーソナルトレーナーのローラ・ハサウェイ氏のコメントはこうだ。「暴力は許容できないが、ウィル氏が激昂したのはわかる気がする。妻の苦悩、そして世間の目に直面する彼女の勇気と他人をインスパイアしようとする姿を目撃してきたのだろうから。分別があるはずと思う人たちから自分の愛する人たちが攻撃され、公にいじめられて、ウィル氏は判断を誤り、怒りと痛みを間違った方法で表現してしまった」。

ロック氏のジョークによって示されたのは、女性の脱毛は本人にとっては大きなトラウマになる可能性があるにもかかわらず、多くの人たちからはジョークのネタにしてもかまわないと思われていることである。今回の事件が起こるずっと以前から、自分の経験についてオープンに語っていた女性の公人や一般女性は、「普通」の髪とは何かについて、融通が利かない美の基準に対する闘いをすでに始めていたのだった。

[原文:‘My alopecia is not a punchline’: Advocates weigh in after Will Smith Oscars drama

LIZ FLORA(翻訳:ぬえよしこ、編集:山岸祐加子)

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