2030年を見据え、 エージェンシー が考えるべき3つのポイント:Worldwide Partners Global Summitレポート

DIGIDAY

4月上旬、15カ国43のエージェンシーで働く110人がラスベガスに集まった。2019年にシンガポールで開催されて以来となるワールドワイド・パートナーズ(Worldwide Partners)の年次グローバルミーティングに参加するためだ。

ネットワークを構築し、エージェンシー持株会社モデルという大手エージェンシーの世界では当然の構造からを抜け出した独立系エージェンシー・ネットワークの年次会合で、今回は「エージェンシー2030(Agency 2030)」をテーマに、これからの8年間に待ち受けている機会や課題に焦点が当てられた。

会合後、ワールドワイド・パートナーズのプレジデント兼CEO、ジョン・ハリス氏と話をした限り、エージェンシーの未来を語ったリシャド・トバコワラ氏、テクノロジーの未来を語ったシェリー・パーマー氏、(IPG傘下の)マーティン・エージェンシー(Martin Agency)のCEO、クリステン・カバロ氏などのゲストから学んだいくつかの教訓は、持株会社、独立系すべてのエージェンシーに応用できそうだ。

基本的に、1つ目の教訓は、エージェンシーによってニーズが異なるため、未来への道はひとつではないということだ。「フルサービスのエージェンシーもいれば、専門分野を持つエージェンシーもいる。市場も機能もエージェンシーによって異なる」とハリス氏は説明する。「製薬業界を専門とするCXエージェンシーと旅行や観光に特化したフルサービスのエージェンシーでは、エージェンシーとしての将来像が全く異なる可能性もある」

それでは、ワールドワイド・パートナーズのエージェンシー2030サミットのポイントを3つ紹介しよう。

新しい技術=新しいビジネスモデル

ハリス氏によれば、エージェンシーの参加者に向けたパーマー氏のプレゼンテーションでは、メタバースをはじめとするWeb3.0のイノベーションを深く掘り下げ、NFTとは何かを正確に解説し、ブロックチェーンにできることを詳しく説明したが、最初の3分の2は聴衆の大部分にとって理解することが難しい内容だったという。しかし、パーマー氏はこれらを話し終えると、「ほかの人に任せた方がいい難解な技術」ではなく、「まったく新しいビジネスモデル」と捉えるようオーディエンスに呼び掛けた。

「大局的に見ると、これは(エージェンシーの)ビジネスにとって、まったく新しい付加的な要素だ。拡大し続ける新たな収入源となり、クライアントのビジネスに数百万ドルの影響を与える可能性がある」とハリス氏は話す。「シェリー(パーマー氏)は私たちに教えてくれた。『このようなことが現実になろうとしている。分散化された新しい通貨を正しく活用すれば、クライアントのビジネスモデル全体に数百万ドル、クライアントの規模によっては数十億ドルを付加できる』と」。

「この分野にいる人はみな、これがすでに大きなビジネスに、指数関数的に増加する収入源になり得ることについて、クライアントと協議すべきだ」とハリス氏は補足する。

とはいえ、この道を歩むことにリスクがないわけではない。そう語るのはインサイダー・インテリジェンス(Insider Intelligence)のアナリストとしてデジタル広告、メディアを担当するエブリン・ミッチェル氏だ。

「業界の盛り上がりは、消費者の関心を大幅に上回っているように見える。メタバースはまだ、将来なるかもしれない姿の影にすぎない。大まかに言えば、現状のこれらの分野で成功する可能性が最も高いブランドは、ターゲット層が若く、アバター用の服やアクセサリーなど、バーチャル環境にぴったりの商品を持つブランドだ」とミッチェル氏は説明し、さらに続けた。「長期的には、何百万、何十億ドルという付加的な売上が得られるかどうかは、技術の進化と消費者心理の変化にかかっており、その保証はどこにもない」。

パワーバランスの回復

パーマー氏の主張と矛盾するようだが、ピュブリシス(Publicis)の幹部を長年務め、作家兼コンサルタントに転身したトバコワラ氏は、テクノロジーを当たり前の存在と捉え、テクノロジーにはできないが人にはできることに注力するようエージェンシーに呼び掛けた。トバコワラ氏のアドバイスには2重の意味がある。まず、既存の文化を鏡に映したような人材ではなく、自社の文化に何かを付加してくれる人材を採用すべきであり、そして、エージェンシーはサービス業であって、隷属するビジネスではないことを忘れてはならないという点だ。つまり、クライアントがクライアントだというだけで、エージェンシーをこき使うようではいけない。

「従業員がどれほど自社のブランドを表現しているかを、私たちは過小評価しがちだ」とトバコワラ氏は話す。「航空会社がその好例だ。航空会社は同じような機材で同じ場所に飛んでいる。彼らの違いは会社のために働いている人々なのだ」。

「多くの意味で、私たちは時間をかけて、自分たちがしていることの価値を下げてきた」とハリス氏は補足する。「私たちの仕事に対して正当な報酬を得るだけでなく、クライアントから信頼されるアドバイザーとしての地位を取り戻そうというスローガンが掲げられた」。

真っ白なキャンバスではなく広大なキャンバスになる

マーティン・エージェンシーのCEO、カバロ氏は最近エージェンシーのためにひとりで立ち上がり、業界を騒然とさせた。注目を集めたローテクなスーパーボウル広告を自社で考えたというコインベース(Coinbase)のCEOの主張を一蹴したのだ。カバロ氏は、コインベースの広告制作には複数のエージェンシーが関わっていると公に主張し、証明してみせた。

カバロ氏はその力強い擁護者の姿勢をエージェンシー2030にもたらし、ワールドワイド・パートナーズを構成するエージェンシーに対し、クライアントのニーズに合わせて何者にでもなることをやめ、何か際立ったアイデンティティを持つべきだと伝えた。

「エージェンシーが広大なキャンバスではなく真っ白なキャンバスのように振る舞う──つまり、ブランドの成長に関する視点や最高の仕事から生まれる視点が欠けている場合、私たちは皆、互いのコピーになってしまう」とカバロ氏は訴えた。「そのようなやり方が私たちの業界を毀損するのだと思う。私たちが当然得るべき信頼を毀損する行為だ。(私たちは)広告について学び、人間の行動を研究し、長年の経験から生まれた視点を持っている。そして、それがなくなれば、クライアントは私たちについて、同じもののコピーかせいぜいバージョン違いだと考えるようになる」。

[原文:Media Buying Briefing: Lessons learned from Worldwide Partners’ Agency 2030 Summit

Michael Bürgi(翻訳:米井香織/ガリレオ、編集:分島翔平)

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