総務省の監督強化は「官業復帰」への布石
続発する郵便局の不正事件に対応して、総務省が「監督体制を強化」するという。相次いで発覚した切手の不正換金事件や顧客の個人情報の政治活動への流用などは、郵便局長や局員の個人的犯罪の域を越え、組織に長く根付いた「郵便局体質」が背景にある。
その体質との決別を目指した郵政民営化を逆戻りさせた総務省にこそ、その責任はあるのだが、問題を逆に総務省の権限強化の口実にしようという。そんな総務省の「監督強化」は、政官一体で画策する「官業復帰」への布石ともいえる。国民のカネを投入してまで郵便局を維持する意味があるのかが問われている。
記者会見に臨む日本郵政の増田寛也社長=2021年12月24日午後、東京都千代田区 – 写真=時事通信フォト
「郵政事業に対する国民からの信頼を回復させていくことが急務だ。コンプライアンスやガバナンスの一層の強化、再発防止策の確実な実施を促すため、総務省の監督体制を強化する」
2月1日の閣議後の記者会見に臨んだ金子恭之総務相は、こう語った。信頼回復には総務省が乗り出さなければダメだ、というわけだ。弁護士らで作る「有識者会議」を総務省に設けて、日本郵政グループに対する監督機能の強化に向けた具体的な取り組みについて検討し、夏をメドに報告書をまとめるという。
郵便局の不正が次々に発覚している
きっかけはとどまることを知らない郵便局の不正発覚だ。
2021年6月に逮捕された長崎住吉郵便局の元局長は、高金利の貯金に預け入れするなどと嘘を言って、現金をだまし取る手口で、62人から12億4000万円を詐取したと報じられた。また、熊本県の元局長は、かんぽ生命の顧客の個人情報を流した見返りに現金を受け取っていたとして、同じく2021年6月に逮捕された。
さらに昨夏には、ホテルで会合を開いたとする虚偽の名目で経費を不正に受け取った統括郵便局長2人を、日本郵便が戒告の懲戒処分とし、解任していたことが明らかになっている。
問題は、こうした不正が、その局長個人が「たまたま起こした」犯罪では済まされないことだ。
例えば、個人情報の扱いについては、郵便局全体でタガが外れている。2021年末には、郵便局で投資信託などの取引を行った顧客の個人情報が記載された書類が全国6565の郵便局で延べ29万人分紛失していたことを日本郵政が認めて発表した。誤って廃棄したとみられるので「外部への情報漏えいの可能性は極めて低い」と説明し、責任追及すらまともにしていない。
「まさか郵便局員が不正を働くわけがない」信頼を悪用している
企業などが郵便料金を別納した際に、相当額の郵便切手に消印を押す仕組みがあるが、それを悪用し、切手に消印を押さずに転売する手口が全国の郵便局で次々と見つかった。これも長年続く「郵便局員の小遣い稼ぎ」だったのではないかとの見方が強い。あまりにも巨額なものは事件化したが、少額のケースは闇に葬られてきたとも言われている。
郵便局は国の事業だから潰れない――。民営化された後もそう考えている利用者は少なくない。特に高齢者は長年付き合いのある郵便局長や局員に全幅の信頼を寄せている。郵便局で相次ぐ不正も、そうした無条件の信頼をベースに起きている。まさか郵便局員が不正を働くわけがない、という人々の思いを半ば、悪用しているわけだ。そうした過度の信頼が、内部のチェックを緩ませ、悪しき風習として脈々と続いている。
郵便局はちょっとやそっとでは潰れない、という思い込みは局長や局員にもあるのだろう。だから、多少経費を水増ししたり、ネコババしても会社は安泰だと思うのか。郵便局を舞台にした数々の不祥事の根は深い。まさに「郵便局体質」が脈々と引き継がれているのだ。
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