「デルタとは違う」医療現場嘆き – 石戸 諭

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年明けから「早めの対応」というマジックワードが政治を動かしている。病床使用率20%でまん延防止等重点措置、同50%で緊急事態宣言を要請すると明言した小池百合子都知事、そして歩調をあわせた岸田政権がその典型だ。

感染者が増えれば、社会に制限をかけて、動きを止めていく。だが、東京都のように「まん延防止」で酒提供を20時までにすれば本当に問題は解決するのか。取材をすすめたところ、本当に「早め」の対応が必要だった領域には手をつけられていないというのが私の見解だ(本稿は2022年1月20日までの取材に基づく)。

共同通信社

大多数は軽症者。「デルタ株とはそもそも見えている風景が全然違う」

そもそも、現在の病床使用率はどれだけ実際の危機を反映しているのか。数だけでなく、質的な部分まで見なければいけない。いくつか現場の声を拾っておこう。都内の保健所関係者はこう嘆く。

「感染者が増えた1月中旬になっても、病院のほうから保健所に『入院の方はいませんか』と電話がかかってくる。リスクのある人がいれば、念の為入院という手続きをとる。こんなことを続けていれば使用率は高くなります。こんな数字で何を判断するのでしょう」

新型コロナ患者を診察する医師も、デルタ株との違いを強調する。

「感染者数だけを見ていてもまったく意味がない。オミクロンは軽症患者が圧倒的に大部分をしめて、発熱してもすぐに治ってしまう。これまでの診断からハイリスクとされる人はピックアップできて病床に余裕があるから入院できる。今のところオミクロン株で肺炎になる患者は非常に少なく、リスクがあってもすぐ元気になる人が多い。他の病気なら入院は不要、退院させても問題ないという患者ばかり。デルタ株とはそもそも見えている風景が全然違う」

第1波から重症患者の治療にあたってきた医師はどうだろうか。

「一定の割合で一気に重症化する患者をどう救っていくかが課題だったのは第5波まで。(オミクロン株の)焦点の一つは65歳以上のワクチン未接種者に感染が広がるかどうかだが、ハイリスク層を早めにピックアップできれば治療のツールはあるので対応はできる」

これらの声を総合すると、問題は圧倒的大多数の軽症者をどのように診察するか、医療システムに早い段階から組み込み、ハイリスク層を早めにチェックすること、これに尽きることがわかる。いち早く流行した沖縄でも専門家からは「肺炎が少なく、インフルエンザのような症状」が多いと報告があった。

高まる「5類相当」の声 感染拡大防止策から被害軽減へ切り替えできるか

インターネット上では最初期から根強く「新型コロナをインフルエンザと同等の感染症法上の5類にせよ」という声がある。最近では大阪府の吉村洋文知事をはじめとする行政からも、また取材の範囲内では保健所の内部から流行の波がやってくるたびに同様の意見が上がっていた。

新型コロナは「新型インフルエンザ等感染症」という類型に位置付けられており、感染症法の2類相当の病気として運用されている。これをインフルエンザ並みの5類相当とすることで、多くの医療機関で診察を可能にせよという主張である。これに対し「5類相当ならインフルエンザのように病院での3割負担が必要になる」「流行時に分類変更は悪手」といった批判が上がっており、岸田政権も見直しには消極的だ。

分類変更は重要な論点だが、私が見るに、目下、必要な取り組みは現実に即した医療体制構築に移っている。2類相当にせよ、5類相当にせよ必要なのはウイルスの特徴に応じて医療資源を振り分けることだ。そのために必要なシナリオはすでにある。

日本政府が策定していた「最悪のシナリオ」――。それが2009年の新型インフルエンザをもとにした「政府行動計画」である。すでに2013年に策定しており、東京都など自治体も同様の計画を作っていた。そこで、東京都はこんな想定をしている。

「流行予測のピーク時の被害
①1日新規外来患者数: 49,300人
②1日最大患者数 :373,200人
③1日新規入院患者数: 3,800人
④1日最大必要病床数: 26,500床」

この数字は、オミクロンと同様かそれ以上の感染力をもった感染症といっていいだろう。流行期の医療体制についても現実を踏まえた想定がされている。疫学調査で患者を追えなくなった状態では――これは現在のような新型コロナ流行期と同じと考えればいい――「感染拡大を止めることは困難であり、対策の主眼を、都内発生早期の積極的な感染拡大防止策から被害軽減に切り替える」と定めている。

そして「新型インフルエンザ等の診療を特別な医療提供体制で行うのではなく、内科や小児科など通常の感染症診療を行う全ての医療機関等で担うことになる。このため、患者は新型インフルエンザ相談センターを介さずに、直接受診する。入院が必要と判断された新型インフルエンザ等の患者についても、通常の感染症診療を行う全ての医療機関が受け入れる」と切り替わる。

簡単に言えば、流行した場合は、特別な病気とせず「感染症診療」をしてきた全ての医療機関で治療を担うということだ。こうした危機時の医療体制を構築することで、被害軽減を図ることは日本政府や東京都が従前から決めていた。今回のように①肺炎など重症化のリスクがデルタ株よりも低く②ワクチンの効果もあり、現実の患者の症状が想定よりも軽く③しかしながら、感染力が強いため大多数の軽症者が出てくるといった特徴を持つウイルスならば、より多くの医療機関が治療にあたることで、早めにハイリスク層をピックアップできる。

それだけに、こちらのほうがウイルスの特性と相性の良い医療体制だという声は医療現場からも上がっている。

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