反差別明確にしたムーミンの英断 – 赤木智弘

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Moomin Official Siteより

フィンランドの作家「トーベ・ヤンソン」が生み出し、世界中で愛されているキャラクター「ムーミン」が差別の問題に巻き込まれている。一体何があったのだろうか。

ムーミン公式サイトが「お詫び」を発表

8月24日。ムーミンの公式サイトが「お知らせ」を掲示した。(*1)そこではライセンス管理をする一部の製品が、ファンの方々に不快な思いをさせたということで謝罪を行っている。

そして「今後は、ライセンス許諾時点において、反社会勢力に対する確認に加えて、人権関連についても厳しく審査をし、仮に認識がなく契約された場合においても、それらが判明した時点において、速やかに契約更新停止や生産終了等の働きかけをしていきます。」という、極めて強い決意が示されている。

つまり、ライセンス商品が何らかの「差別的な活動」に巻き込まれてしまったのである。何があったかと言うと、サプリメントなどの販売で知られる「DHC」とのコラボレーション商品として、ムーミンが描かれた製品を販売したことが問題になったのである。(*2)

DHCと言えば、一般的にはコンビニで買えるサプリメントなどで有名な会社である。なおDHCは、発足当初は研究室向けに洋書の翻訳業務を中心に行っていたことから「大学翻訳センター」の略として名付けられたというのは豆知識だ。

さて、そのDHCが先日、騒動を起こしたことを覚えているだろうか。DHCの会長である吉田嘉明氏が、記名したうえで、サプリメント市場でのライバル企業であるサントリーを指して民族差別的な内容の文書をサイトに掲載したのである。(*3)

問題が発覚すると、DHCと提携していたうちの一部の自治体が解消を表明。これに対してDHCは提携先の自治体や取引先などに謝罪の文書を提出するなどしていた。しかしその一方で、公式な形での謝罪はまだ行っておらず、サイトから文書は消えたものの、民族差別的な認識を改善したとは言い難い状態が続いている。

マイノリティだったムーミン作者

さて、ムーミンの作者であるトーベ・ヤンソンはフィンランドに生まれ、スウェーデン語を母語として育った。(*4)スウェーデン語もフィンランドの公用語ではあるが、スウェーデン語系の人たちは国民全体の一割程度であり、言語少数派のマイノリティであった。

また、女性作家と交際をするなど、性的マイノリティでもあったことから、スウェーデンでムーミンの権利を管理しているムーミン・キャラクターズは、性的マイノリティのイベントなどに積極的に協力をしている。

そんな彼女の生み出すムーミンの世界は多様性に溢れ、誰もが自分らしく生きていくことのできる社会が表現されており、日本でも人気が高い。

そんなムーミンのキャラクターと、韓国などの他民族を見下す文書を自サイトに掲載し、まだ問題が解決していないDHC。そんな2つがコラボをしたものだから、DHCの問題をニュースなどで把握していた日本のムーミンファンから、このコラボを問題視する声があがった。

そうした声がムーミン・キャラクターズに伝わり、日本でムーミンのライセンスを管理している代理店に「DHC会長の発言が、トーベ・ヤンソンの価値観とは相容れない」と伝え、コラボ解消の指示を行った。(*5)その結果が、最初にあげた「ムーミン公式サイトより重要なお知らせ」という文章なのである。


ありえなかったコラボ 無視できない代理店の責任

この一件、ハッキリ言えば日本でムーミンのライセンスを管理していた代理店のやらかし案件である。作者のトーベ・ヤンソンの思想と、件のDHCについてちゃんと理解していれば、そもそもコラボ自体がありえなかった。最初からしっかりと断ればよかったのである。

ムーミン・キャラクターズ側からすれば、差別的な問題を引き起こし、未だに公式の謝罪文すら出すことのできない企業に対して、多くの人に長年愛されているムーミンを貸し出すことは、ムーミンというキャラクターに傷を付けることになる。

普通の企業でもそう考えるのが当たり前だし、ましてや前述したような背景を持つトーベ・ヤンソンによって生み出されたキャラクターなら、なおさらである。そうした意味でも、事前のチェックを怠った代理店の責任は大きい。

キャラクターを守るのは当然 的外れなアンチフェミの批判

Twitterではフェミニズムを憎む、いわゆる「アンチフェミ」の一部が、コラボが解消に至ったことを指して「フェミによるテロだ」などと吹き上がったり、DHC会長の思想に近しい人たちが「ムーミンは反日」などと騒いでいたりする。その中には、いわゆる「表現の自由戦士」も散見される。

彼らは「一度決まった企業の活動」を批判する人たちを執拗に叩き、企業の味方のフリをすることで、さも自分たちが正論を主張し、企業活動という表現の自由を守っているかのような態度を取りがちである。

今回も「一度決まったコラボが、フェミニストらしき人たちの反対で取り下げられた」という部分だけを見て「フェミテロだ!」などと騒いでいるのだろう。

しかし、キャラクターイメージを守るのはライセンスを持つ管理会社としては当然の仕事である。原作者が決して望まないような企業とのコラボレーションが行われていれば、コラボの破棄も含めてしっかりと対応するのは当たり前のことなのである。

ムーミン・キャラクターズも、いち早く問題を知らせてくれた日本のファンに感謝をしこそすれ、「企業活動を邪魔されて迷惑だ」などと思うことはありえない。ムーミンの作者も、管理会社も、そしてムーミンのファンも、ムーミンの世界を愛する誰もが望まないコラボを「決まったことだから」で継続する必要など、どこにもないのである。

キャラクターを守るために誤ったコラボを解消することは、作者の意思を守るための「企業活動」に他ならない。そしてそれは作者の思想から生まれたムーミンの世界という表現を守ること、そのものなのだから。


*1:ムーミン公式サイトより重要なお知らせ(ムーミン公式サイト)https://www.moomin.co.jp/news/other/95191
*2:ムーミン商品、DHCコラボに批判相次ぐ…管理会社が謝罪 「人権関連についても厳しく審査していく」(J-CASTニュース)https://www.j-cast.com/2021/08/24418857.html
*3:追跡:在日コリアン差別文章 自治体、次々DHC批判 連携協定解消相次ぐ(毎日新聞)https://mainichi.jp/articles/20210629/ddm/002/040/056000c
*4:トーベ・ヤンソンについて(ムーミン公式サイト)https://www.moomin.co.jp/tove
*5:フィンランド「ムーミン」権利者、DHCとのコラボ解消を指示。差別発言を問題視、日本の代理店はお詫び(BuzzFeed)https://www.buzzfeed.com/jp/kotahatachi/dhc-moomin

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