「顧客起点の新たなメディアソリューションの提供に注力」:朝日新聞社 五老 剛 氏

DIGIDAY

ニューノーマルはすでにノーマルとなり、街の鼓動は再び力強く脈打ちはじめている――。

そんななか日本の業界関係者たちは、2022年にどんな課題を感じ、どんな可能性を見出しているのか? この年末年始企画「IN/OUT 2022」では、 DIGIDAY[日本版]とゆかりの深いブランド・パブリッシャーのエグゼクティブに伺った。

朝日新聞社にて、総合プロデュース本部長を務める五老 剛氏の回答は以下のとおりだ。

――2021年に得たもっとも大きな「成果」はなんですか?

長引く新型コロナショックは生活者のライフスタイルや価値観を大きく変えつつある。特にコロナ禍で政策や経済の動向がより直接的に自身に影響を及ぼす実感をもつ生活者は増えているだろう。アフターコロナ、ニューノーマルの世界の行方を探る動きが活発化するなかで、我々が果たすべき役割も明確になってきたと感じている。

「ともに考え、ともにつくる」を経営理念とする弊社は、この1年、DX化が進んだ社会背景を捉え、さまざまな手法で“オピニオン空間”を拡張させ、オーディエンスとのエンゲージメントを一層強化させてきた。朝日新聞デジタルでは、約100人の有識者や弊社記者が、記事に付帯する「コメントプラス」で付加価値のある情報を発信し、多様な視点が得られる場を読者に提供している。記者が各界のゲストとオンラインで語り合う「記者サロン」などの記者イベントは、今年度は合計100回を目指すペースで開催を続けている。親しみやすいトークが好評を博している「朝日新聞ポッドキャスト」は、2021年11月末には累計1300万ダウンロード超に達し、新たなメディアとしての価値を持ちつつある。弊社はさらにライフスタイルや趣味嗜好に合わせた30を超える多様なWebメディアやコミュニティを有しているが、ほぼすべてのコミュニティでオンラインイベントなどの施策を展開し、“顔が見えるメディア”として顧客とのインタラクションを強く意識した取り組みを重ねている。これらの活動を通じて蓄積された多くの“深い顧客理解とエンゲージメント”が、大きな資産となっている。

弊社は昨年10月にコンテンツマーケティングのソリューションプログラム「Asahi Digital Solutions(ADS)」を立ち上げたが、これも弊社の30を超えるWebメディアでの顧客理解に基づくソリューションの提供が大きな特長だ。オーディエンスを知り尽くした各メディアの編集長らがクライアントのコミュニケーション課題に向き合い、最適な文脈でのコンテンツの切り口を提示していく手法は、多くのクライアントから評価を頂いている。カテゴリースポンサーなどの大型のシリーズ展開、さらにはハイクオリティな動画や、オウンドメディアのコンテンツ制作とウェビナーなどを組み合わせた事例なども生まれている。複数のメディアを活用し、切り口も各ターゲットに最適化させながらワンストップでコンテンツを展開するプロデュースはADSの真骨頂である。顧客理解の蓄積を生かしたソリューションプログラムの受注伸長は大きな成果と考えている。

――2021年に見えてきたもっとも大きな「課題」はなんですか?

上述したような多くのオーディエンスとのインタラクションの機会を通じて強く感じるのは、生活者のさまざまなソーシャルイシュー(社会課題)やウェルビーイングなどへの関心の高まりである。注目すべきはSDGsの社会における認知率の高まりで、弊社の調査ではコロナ禍を経て急増しており、特に若い世代での認知率の向上が目立っている。先日開催されたCOP26が大きな社会的関心を集めたのも記憶に新しい。弊社も国際カンファレンス「朝日地球会議」を始め、小・中・高校生、大学生、企業関係者などさまざまなターゲットに向けたSDGsの関連施策も強化しており、SDGsに特化したメディア「朝日新聞SDGs ACTION!」や、若年層中心に社会課題解決を考えるメディア「朝日新聞DIALOG」などを軸にコンテンツと企画施策の両面で充実を図っていく構えだ。また弊社は「ジェンダー平等宣言」を行うなど、ジェンダー平等に関するテーマや、健康・ウェルビーイング領域のイベント・コンテンツ展開にも注力しており、毎度強い手ごたえを感じている。

生活者のソーシャルイシューへの関心は、確実に企業活動にも目を向けられることになる。SDGsに積極的に取り組み、パーパスの表明も意識して行う企業は、生活者の強い信頼を獲得し、IR面やリクルーティング、社員とのエンゲージメント構築にも良い影響を及ぼす。弊社としては、ソーシャルイシューに関心の高い層と企業の懸け橋となることに大きな使命感を感じている。新聞社のもつ豊富なアセット――編集記事やコミュニティ、新聞広告、デジタル広告、オンライン/リアルイベントやSNS展開、教育ツールや顧客データなどを組み合わせたコミュニケーションを企業向けソリューションとして昇華させ、これまで以上に多くの企業に提供していきたいと考えている。

こうしたソーシャルイシューに関連したブランディングの重要性や価値をどう伝えるかは大きな課題と認識している。新聞広告は元来、企業ブランディングに有効と認識されているが、いわゆるリード獲得施策を中心に予算がつくことが多いデジタル広告領域でも、中期的視野で展開するコンテンツマーケティングやソーシャルイシューに合わせたオンラインイベントは、ブランドリフトやトップファネル~ミドルファネルの育成に大いに貢献すると考えらえる。海外ではグローバルブランドを中心に社会性のあるコミュニケーションの事例も増えている。メディア環境が変わりゆくなかで、“デジタル領域の社会価値ブランディング”の活性化は広告業界を挙げて取り組むべきテーマかもしれない。

――2022年にもっとも注力したい「取り組み」はなんですか?

デジタル広告業界が直面する大きな課題は、クッキー規制がもたらす「クッキーレス」時代への対応であることは言うまでもない。テクノロジーの進化がもたらす利便性と生活者のプライバシー保護の均衡が、時代とともに常に修正を求められていくということだろう。特に昨今の規制強化とその対応策を模索する動きは、各メディアにおいてUI・UXの議論とともに生活者目線でメディアや広告はどうあるべきかを改めて見つめ直す契機になっており、デジタル広告がよりユーザーフレンドリーで価値あるものになる次へのステップへ向けた、前向きな動きであると捉えたい。

弊社はポストクッキー時代に対応したソリューションとして、このほど記事コンテンツの文意・文脈をAIによって解析し、関連した広告を配信する「コンテクスチュアルターゲティング」のサービスをIntegral Ad Science(IAS)と共同で開発した。IASとの共同開発としては、日本のメディアで初めての展開になる。
このサービスでは、ユーザーフレンドリーなコンテンツ体験を重視し、コンテンツ閲覧時(モーメント)の心情・心理(エモーション)を汲み取ることを目指して開発されており、これを「エモーショナルアド」という概念に進化させていくつもりだ。このサービスは運用型広告での活用だけでなく、コンテンツマーケティングへの誘導策でも有効な施策になる。

一方で、ポストクッキー時代の重要施策と位置付けているのが、弊社の豊富なコンテンツやサービスを生かしたファーストパーティーデータの蓄積・活用である。記事コンテンツやデジタルサービスはもちろん、BtoC、BtoB含む多様なターゲットに向けたオフライン/オンラインイベント施策、販売チャネルからのデータ化などを含め、朝日IDを核としたCDPをさらに充実させ、運用を進めていく。すでにクライアントとの共同サイトを構築しデータエクスチェンジを行っている例もある。ユーザーに十分配慮したセキュアな運用を前提に、弊社の扱う領域の広さを生かしたさまざまなデータ活用の取り組みを進めたい。

コンテクスチュアルターゲティング、ファーストパーティーデータの蓄積・活用はともに、パブリッシャーが展開するコンテンツやさまざまな活動の価値を高めるものであり、生活者とメディア、クライアントの新たな関係づくりが進む契機になる取り組みとも言えるだろう。

顧客起点での実効性の高い新たなメディアソリューションの提供、その高度化。これが今後価値を生むと考えており、我々が注力したい取り組みである。

Edited by DIGIDAY[日本版]編集部

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