次の米ハイファッションブランドを目指す エバーレーン の野望【ファッションブリーフィング】

DIGIDAY

今回は、ハイファッションを目指すエバーレーンの野望に注目する。エバーレーン(Everlane)は、ファッションの大改革を敢行中だ。

昨年、創業者マイケル・プレイズマン氏からCEOの座を引き継いだアンドレア・オドネル氏のもとで、エバーレーンはスタイルの信頼性の向上に取り組んでいる。目標は、オドネル氏いわく、「ファッション・エリート」たちを取り込むことだ。

すでにエバーレーンは、服のバリエーションも増やしている。結婚式にぴったりのドレスやフォーマルなスーツ、さらにはセクシーなスタイルも、春までに品揃えを増やす予定だ(オドネル氏は「いわゆるセクシー」ではなく「知性を感じさせるセクシー」だという)。マーケティングでは、服のインスピレーションに重点を置くとともに、感情や人とのつながりを活用したストーリーテリングにシフトしている。また、リローンチで高みを目指すブランドではお決まりの動きとなっているが、同社も近々、よりクリーンで新しいロゴを発表する。そして、もちろん値上げも実施する。

オドネル氏は「ラグジュアリーなクラフトメゾンが目指すところに向かおうとしている」とエルメス(Hermès)を引き合いに出して述べた。「デザインと素材の正しいストーリーを確立し、より高い価格帯で勝負することを自らに許している」。

オドネル氏は、アメリカ人デザイナーのカルバン・クライン氏、ダナ・キャラン氏、クレア・マッカーデル氏から刺激を受けた。そして最近、同ブランドのクリエイティブディレクターに、キム・ジョーンズ(Kim Jones)やマルニ(Marni)で活躍していたマチルド・メイダー氏を起用している。イギリス出身で小売業では20年の経歴があるベテランのオドネル氏は、直近ではデッカーズブランズ(Deckers Brands)に在籍し、話題性のあるキャンペーンやブランドとのコラボレーションでアグ(Ugg)を変貌させたという功績がある。

持続可能性と品質は重視しつつファッション性を高める

多くのブランドがパンデミックという内省的な時代に編み出した新たな手法を導入するなかで、創業12年のエバーレーンは、オドネル氏の言う「ファッション対地球」におけるバランスを取ろうと努力している。12年前に市場に登場した際「ラディカル・トランスペアレンシー」というコンセプトを導入し、D2Cモデルの台頭を促進してきた同ブランドは、消費者が気持ちよく購入できるベーシックなファッションで知られるようになったが、2020年にはその倫理観が厳しく問われることになった。ハイファッションブランドがエバーレーンと同レベルのサステナビリティを達成する目標を掲げているいま、エバーレーンはファッション性を高める動きを見せている。時代を感じさせないスタイルとサステナビリティはブランドの核であり続けるが、より重要性を増すことになるのはクリエイティビティだ。

エバーレーンの市場でのポジショニングについて、オドネル氏は新しいファストファッションが売れ続けているなかで、「矛盾している」と言う。だが、新たな社内体制で商品戦略とブランド戦略を同調させて構築することによって、エバーレーンの価値と現在の顧客を維持しつつ、進化と成長を遂げることができると彼女は確信している。オドネル氏はメイダー氏とともに、ブランドの認知からブランドの声にいたるマーケティング全般の担当者として、かつてナイキ(Nike)やユニクロ(Uniqlo)にいたシュウ・ハン氏を採用した。ハン氏の肩書きもクリエイティブディレクターだ。

同ブランドのマーケティングは、サステナブルな取り組みと高品質の素材を重視する一方で、オドネル氏いわく、「アカデミックで退屈な」メッセージは戦略的に回避することを目指す。さらに、ブランドと同じ価値観を持つ人々がエバーレーンのストーリーを語ることができるような、「人間中心」で「志の高い」マーケティングを活用していくという。エバーレーンは現在、毎月異なる「意識の高い」インフルエンサーをチャネルで紹介しており、そうしたインフルエンサーたちにエバーレーンの製品を選んでもらい、スタイリングして自宅で着用したところを写真に撮らせている。最新作を披露しているのは、ブログのバイオグラフィーに自然への愛を綴っている中国系アメリカ人のファッションインフルエンサーで、母親でもあるステファニー・リウ・ヒェルメセス氏だ。

マーケティングではトレンドに触れない

エバーレーンは製品ラインごとに新たなロゴも導入している。バックパックのコレクションで検討されているアイコンは、ゴールデンゲートブリッジをモチーフにしている。これはサンフランシスコにある本社を示すと同時に、「その場所独特の感覚」を与えるとオドネル氏は話す。また、すべてのマーケティングでトレンドには一切触れないつもりだという。

ブランドの製品により明確な視点があることも、マーケティングの取り組みに有利に働くとオドネル氏は述べた。「これまでの課題のひとつが、タイムレスなスタイルは目立たないというものだった」と話す彼女は、インフルエンサーが黒いパンツやカシミアのセーターを着用しても、ブランドは往々にして「評価されない」と指摘している。今月初めに発表されたエバーレーンの「ザ・パワーオブテン(The Power of 10)」カプセルは、これまでのコレクションと同様、繰り返し着用できる定番アイテムで構成されている。しかし、そのオックスフォードシャツは独特なボクシーシルエットで、スーツはチェックプリントやオーバーサイズのカットといったアップデートが施されている。

今後エバーレーンは、世の中の流れが「地球よりもファッション」という時期に、サステナビリティ重視のブランディングのアクティベーションに投資する計画だとオドネル氏は語る。これに含まれるのはホリデーショッピングシーズンや、2年に1度のニューヨーク・ファッションウィークだ。またアースマンス(Earth Month、地球月間)には、大規模な教育的・体験的イベントを主催することも検討している。

多様性に富むブランドこそ、健全なブランドだ

最近では、アパレルの定番商品を専門とするほかのブランドは、クリエイティブな新たな人材を組織に受け入れ、マーケティングの取り組みを再び魅力的なものにすることに力を入れている。2020年以降、J.クルー(J.Crew)はストリートウェアブランドのノア(Noah)の創業者ブレンドン・バベンジン氏とオリンピア・ガイヨー氏というふたりのクリエイティブディレクターを起用した。最近のインスタグラムの投稿では、ダイアン・キートン氏が同ブランドを着用する姿を紹介し、1万8000の「いいね!」を牽引している。そして2020年にGAP(ギャップ)がカニエ・ウェスト氏と今はなき10年契約を結び、イージーギャップ(Yeezy Gap)を販売したのも有名な話だ。同ブランドは今年、バレンシアガ(Balenciaga)とコラボレーションを行った。

エバーレーンの場合、成長の余地が大きい。現在、エバーレーンのビジネスの95%は米国で、売上の80%は同社のeコマースサイトで行われている。オドネル氏はサステナビリティの観点でより先進的なヨーロッパにチャンスがあるとみており、グリーンウォッシングに効果的に対抗でき、ブランドにとって有利に働くと考えている。同時にエバーレーンは、同社の価値観を共有し、ディスカウントを避け、新規顧客獲得への扉を開く小売業者との提携も模索している。最後にオドネル氏は、エバーレーンの靴とアクセサリーのカテゴリーに新たな息吹を吹き込みたいと語った。そして2024年には、メンズ事業にも着手する予定だ。

「もっとも多様性に富んでいるブランドこそが、もっとも健全なブランドだ」と、彼女は言う。

ラグジュアリーのステイタスに上り詰めるのは、同ブランドにとってすぐには難しい。オドネル氏の考えでは、エバーレーンは最近ファッション業界では「よい」セグメントに昇格し、今後1年半ほどはその地位に留まるつもりだ。そしてブランドを高めて拡大する一方で、顧客の生活のより多くの局面で服を提供するために、価値を伝えて顧客の信頼を得ることを優先する計画である。

アメリカを象徴するブランドを目指す

次のグッチ(Gucci)になるというのは、エバーレーンが目指すところではない。そうではなく、エバーレーンはアメリカを象徴するデザイナーのあとを追っている。オドネル氏いわく、彼女とチームは、9月上旬までニューヨークのメトロポリタン美術館で1年ほど開催されていた「In America: A Lexicon of Fashion」展のいわば「生徒」だった。ヨーロッパのファッションがそのデザイナーに着目しているのに対し、この展覧会ではアメリカのブランドが「機能、実用性、着やすさ」そして人々に注力していることにスポットが当てられており、エバーレーンのチームにより多くの刺激を与えることとなった。

それに関連してエバーレーンでは、2023年夏に、たとえば「完璧なTシャツ」や「完璧なデニム」といったアメリカンファッションの「アイコン」となっているスタイルを賞賛する計画がある。そのカプセルのインスピレーションとなったのは、キャロリン・ジャンヌ・ベセット=ケネディ氏、ジョニー・デップ氏、スティーブ・マックイーン氏などだ。

エバーレーンのセクシー路線に関しては、オドネル氏はブランドがそこに向かっても許されるようになるには時間がかかるだろうと述べた。ドレスに新たに焦点を当てたことは、正しい方向への一歩である。オドネル氏はブランドのアップグレードされたルックを、1999年の映画『トーマス・クラウン・アフェアー(原題:The Thomas Crown Affair)』でレネ・ルッソ氏が着用していたドレスにたとえている。何点かはアニマルプリントが特色だ。最終的には、70年代に体にぴったりフィットしたスタイルを作ったジョルジオ・ディ・サンタンジェロ氏からもっと直接的なインスピレーションを得たいと考えている。「なぜ、それをやってはいけないのか?」と彼女は言う。

同社には挑戦するための資金がある。今月初め、Glossyの姉妹サイトであるModern Retailは、エバーレーンが9000万ドル(約129億4000万円)の借り入れによる資金調達を行ったと報じた。同社はこの資金で、さらに10店舗を増やし、新商品の開発も行う計画である。2016年、同社の評価額は約2億5000万ドル(約359億4500万円)だった。直近の資金調達は8月26日に終了している。

最近の製品路線の変更について、オドネル氏は「私たちがすでに成し遂げたことは、奇跡としか言いようがない」と語った。「今は、それをどう表現するかということを学ばなくてはならない。それは、当社にとってまったく新しい力となる」。

[原文:Fashion Briefing: Everlane’s plan to become the next great American fashion brand]

JILL MANOFF(翻訳:Maya Kishida 編集:山岸祐加子)

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