コロナ禍による巣ごもり需要で、思わぬ成長を得た企業は少なくない。しかしその成長をいかに継続するかは新たなる課題となっている。
株式会社ストークメディエーションが2019年9月にローンチした、パーソナライズヘアカラーブランド「カラリス(COLORIS)」も、パンデミック当初に認知度が高まり注目を集めたD2Cブランド。
「2019年ローンチ当初は、ネット上の目新しい商品に飛びつく20代を中心に浸透。2020年前半数カ月間は、コロナ禍のお役立ちサービスとして、メディアの露出やインフルエンサーによるオーガニック投稿も増え、徐々にブランドが認知されるようになった」。ブランドスタート当時の状況を語るのは、ストークメディエーションで「カラリス」ブランドマネージャーを務める稲葉菜月氏。
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想定ターゲット獲得が継続率アップへ
カラリスのサービスの根幹は、「パーソナライズ化」にある。ウェブ上にある診断テストに答えながら髪の状態をカウンセリングして、最適な処方を1万通り以上の組み合わせから選べる日本初のサービスだ。女性のライフスタイルは多様化しているなか、ヘアカラーに関するサービスはじつは少ない。市場に類似しないサービスだからこそ、丁寧なブランディングが必要となってくる。
認知度が高まった当時は、1回切りの購入で離れていく人が多かったが、サービスへの理解が深まるにつれその懸念も徐々に解消。スタートから丸2年経った現在、5万人を超えるユーザーがこのサービスを利用し、新規購入者の8割が定期購入を申し込んでいる。
「今までにないサービスの根幹を丁寧に説明していくうちに、メディアでの取り上げ方にも変化があらわれ、2021年に入ってからは、仕事や育児に追われている女性のライフスタイルにマッチするサービスとして紹介されることが多くなった。ローンチ当初想定していた、“仕事や結婚、育児などライフスタイルの転換期を迎えて時間に制限のある30代女性ユーザー”の割合が増加し、継続利用を選択する人が結果として増えた」と稲葉氏は語る。
「カラリス」の商品は、ヘアカラー剤において国内シェアNo.1のOEM工場である資生ケミカルに依頼。研究・開発・生産・品質管理を一貫して行う信頼度の高さを誇っているため、サロン商材と同等の高品質なカラー剤をリーズナブル価格で実現している。
UGC活用ツールを導入し、購買検討中の人の不安を解消
顧客の問い合わせや相談にはLINEを活用し、インスタグラム公式アカウントでは、疑問を解消する情報も投稿するなど、ユーザーとコミュニケーションをとるためのツールとして運営している。さらに、新規顧客に向けてサービスへの理解をより深めるため、新たな施策として仕上がりや使用感が伝わるUGC(ユーザー・ジェネレイテッド・コンテンツ)、いわゆる口コミに注目したという。
稲葉氏いわく、「カラリスユーザーの多くは、ヘアサロンで髪を染めていて、セルフカラー派の割合が少ない。そこでセルフカラーを実際に使うイメージが浮かばない人も安心して商品を購入できるようにしていく必要があった」。
そこで自社でコンテンツを用意するよりも効率よく運営できる、売り上げ向上にもつながるUGC活用ツールLetoro(レトロ)を導入したのが2021年7月。企業のマーケティングDX(デジタルトランスフォーメーション)をSaaS(サーズ)とデジタル人材によって支援しているアライドアーキテクツ株式会社が提供しているダイレクトマーケティング特化型のUGC活用ツールだ。
「ランディングページにUGCを掲載することで購買意欲を喚起させ、購入率の引き上げを支援できるツール「Letro」を“カラリス”のヘアカラー診断ページに活用したところ、導入開始わずか1週間で商品購入に至る割合CVR(コンバージョンレート)1.24倍、CPA(顧客獲得単価)改善率32%を実現した」と話すのは、アライドアーキテクツプロダクトカンパニーSaaS本部コンサルティング部の堀田哲郎氏。
ヘアカラーの仕上がりの状態が分かりやすいUGCを掲載することで、購買を検討している人の不安を払拭し、目的でもあったCVRも向上した。「売上向上にフォーカスしているツールなので、Letroを提供すると同時にコンサルテーションを行いながらサポートしている。選択するUGCの内容だけではなく、キャッチコピーや表示デザインの改善など、掛け合わせて検証している」。
それらの改善については管理画面だけで完結し、スピードをもって対応できるのもLetroの強み。数字が下がらないよう維持していくことが重要で、効果検証と改善を繰り返えし行うことで、さらなるCVR改善を目指せるのも特徴だ。「CVRの維持と向上にも貢献し、ほかの施策の検証も進めやすくなった」、と導入してまだ4カ月程度だが手応えを感じていると稲葉氏も話す。
最先端ARとAI技術を活かした機能が購買をさらに後押し
セルフカラーへの不安要素という点では、一度失敗すると色を戻すことが大変なので、購入時に慎重になる人が多いという。「広告を見たあとも髪色を検索したり、ヘアカタログを見たりと、なかなか即購入にいたらない。バーチャルでも染めた状態を事前にチェックできる機能があると、使用前と使用後の期待値の差を埋めることができるのではないかと考えていた」と稲葉氏。
2021年9月に取り入れたのが、ARとAI技術を活用したソリューションサービスを提供し、美容業界におけるDXを牽引するパーフェクト株式会社が手がけている「バーチャルヘアカラー」機能だ。
パーフェクト代表取締役の磯崎順信氏は、「AR技術によるヴァーチャル体験から、AIを活用したシェードファインダーやフェイスアナライザーなどのパーソナル診断まで、さまざまなプラットフォームを用意している」と話す。「カラリス」では、パーフェクト社が契約する国内、海外ブランドでも需要が多い、“JavaScriptとしてウェブ上に埋め込むことができるARとAIの機能”を活用している。画面に映した自分の顔、もしくは既存のモデル画像を選択して、商品で染めた仕上がりイメージをバーチャルで体験できる。
この機能を他ブランドと違う独自カラーを出すには、ブランドの力量が問われる。バーチャル機能の導入でむずかしかったのは、「他社との差別化も出せる、本物の仕上がりに近いナチュラルなカラー設定だった」と稲葉氏。できる限り仕上がりに近い色を表現するために、モデル画像を複数用意し、約300パターンのカラーをチェックしながら設定し、購入までの導線を守りつつ、UX(ユーザーエクペリエンス)をより良くするための構成や配置の策定にも時間をかけたと話す。
磯崎氏は「インフラとしてプラットフォームを提供する会社としては、それをいかに使い倒し、ユーザーにより良いデジタル体験をさせてあげられるか、その点を考慮してニーズに対応している」。機能の改修は常に行い、見せ方を含めユーザーが求めている内容に今後もブラッシュアップしてく予定とのこと。
ユーザーのショッピング体験をさらに向上させるために
日本で唯一のセルフヘアカラーサービスとしてまずは知ってもらい、ブランドがもたらす価値をしっかり認識してもらったのち、ユーザーが会員となり定期購入する。「このユーザーの消費動向を分析し、施策を一環して考えて必要なことを取り入れてきたからこそ、数字に繋がっている」と総括する稲葉氏。
リアル店舗での販売の期待も高まるが、「引き続きデジタル上でユーザー拡大を目指し、セルフカラー業界で確固たる地位を獲得できればと考えている。そしてトリートメントなどヘアカラー周辺のアイテムを充実させていく必要性も感じている」と稲葉氏は今後の展望を語ってくれた。
顧客に寄り添いながら、ショッピング体験の充実や納得感を高める機能をスピーディにプラスし、さらに次のステップへ。セルフヘアカラー業界を新たにリードする会社として、今後のさらなる発展に注目したい。
Written by Manami Ren