「奇妙な大会」海外が報じた五輪 – PRESIDENT Online

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8月8日に東京オリンピック(五輪)が閉幕し、24日にパラリンピックが開幕した。すったもんだが続き、緊急事態宣言下で行われた五輪を、海外メディアはどう報じていたのか。ジャーナリストの大門小百合さんがリポートする――。

閉会式のフィナーレで場内に表示された「ARIGATO」の文字=2021年8月8日、東京・国立競技場

閉会式のフィナーレで場内に表示された「ARIGATO」の文字=2021年8月8日、東京・国立競技場 – 写真=時事通信フォト

開会式寸前まで混乱が続いたが、無観客でなんとか開催された東京五輪。もちろん、我が家でもテレビに向かって声援を送ったし、参加した選手たちの頑張りには、本当に感動した。普段、スポーツにほとんど興味を持たない高校生の娘は、新種目のスケートボードに釘付け。五輪は多くの人をとりこにする、4年に一度のスポーツの祭典なのかもしれない。

24日には、パラリンピックが開幕した。開会式は、「WE HAVE WINGS(私たちには翼がある)」をテーマにして統一感があり、「オリンピックよりもよかった」との声が、ネットのトレンドワードにもなった。

さて、海外のメディアは今回の五輪をどう報じたのだろうか。そこから、今開かれているパラリンピック、そして今後に生かされるべきことを考えてみたい。

今までで一番「奇妙な大会」(Strangest Olympics ever)

「観客も拍手もまばらな閉会式。空中に浮かび上がった光の粒が五輪のマークに変わった。しかし、国立競技場にいた人には、それは見えなかった」という描写で五輪の締めくくりを伝えたのは、ニューヨークタイムズ。今大会を「近年の歴史で一番奇妙なオリンピックの一つ(One of the strangest Olympics in recent memory)」と表現した。

「それは、無観客で開催された、今までで一番奇妙なオリンピックだったのだろうか?」と報じたのはAP通信だ。ホスト国の日本人の多くが反対した「今までで一番怒りが大きかったオリンピック(angriest Olympics)」だったのか、コロナにおびえた「一番恐ろしいオリンピック(scariest Olympics)」だったのだろうかと問いかけた。

「復興五輪」だったのに

多くの海外メディアは、東京大会が「2011年の東日本大震災からの復興を象徴するものになる」と喧伝されていたにも関わらず、いつの間にかコロナとの闘いにすり替わっていたと指摘する。

安倍晋三首相(当時)が、2013年9月に五輪招致に向けた国際オリンピック委員会(IOC)総会で、「福島原発の状況は『Under control(制御下にある)』」と語ったことは、今でも多くの人の記憶に残っているはずだ。

「次々に起こる大惨事の中で始まった日本のオリンピック(Japan’s Olympics kick off amid a cascade of disasters)」という見出しで、五輪関連のCMを流さないと決めたトヨタ自動車の話や、開会式の演出を担当する小林賢太郎氏が、過去のコントでホロコーストをネタにしていたため開会式前日に解任されたことなどを報じたのは、ワシントン・ポストだ。

森喜朗オリンピック・パラリンピック組織委員会前会長の辞任から始まった一連のドタバタは、国際的なイベントだからこそさらに問題視されたという側面もあるだろう。日本の中だけの内輪の論理は、そろそろ終わりにしなくてはならない。

権力者は誰なのか(Who’s actually in power?)

「オリンピックをフォークにのせ、嫌がる幼児に無理やり食べさせているのがIOCだ」と書いたのは、ワシントン・ポストのコラムニストのバリー・スバルガ氏だ。

東京が、もし五輪を中止しようとしても、IOCはそれを許さない。つまり一番権力を持っているのはIOCだと指摘する。さらに、無観客であってもテレビ放映権の収入が入り、結果的に一番得をするのもIOCだという厳しい主張を展開した。

手を挙げる都市は減っている

記事の中で、五輪招致に詳しいスミスカレッジの経済学者、アンドリュー・ジンバリストは、開催を希望する都市の需要と供給の構図は、過去20年の間に様変わりしたと語っている。

最近では、開催地候補に名乗りを上げるも、途中で降りる都市が続出。たとえば、来年の冬季五輪の開催地北京の対抗馬には当初、オスロ、ストックホルム、ポーランドのクラクフなど6都市が立候補していたが、国内の支持を得られず4都市が途中で断念している。また、オーストラリアのブリスベンが2032年夏季五輪の開催地に選ばれているが、そもそもほかに立候補した都市があったのかすら明らかにされていない。その2年前に行われる2030年冬季五輪の開催地はまだ決まっていない。

調べてみると、2004年のアテネ夏季大会の時に立候補表明したのは11都市。しかし、2016年のリオデジャネイロ大会では7都市に減り、2020年東京大会では6都市に。2024年パリ大会では、パリ、ハンブルグ、ローマ、ロサンゼルスの5都市が立候補していたが、相次いで撤退。残ったのはパリとロサンゼルスのみだった。結局IOCは、将来の開催地を確保する意味もあり、2024年大会をパリで、その次の2028年大会をロサンゼルスで開催するという異例の同時決定をした。

開催地には財政負担が重くのしかかり、国民の賛同を得にくい。よほど財政的に余裕がなければ開催できなくなってきているのではないか。

前述のジンバリスト氏は、五輪は「スポーツの祭典」ではなく、巨額公共事業投資のための「建設イベント(construction events)だ」と言う。100年前と違い、通信環境も整っている中、わざわざ世界中の都市をまわる必要はなく、いっそこれからは、一つの都市で開催すればよいのではと提言する。

日本が払う“コスト”(Japan will pay the price.)

最後まで開催にこだわった菅義偉首相。感染者数が増大する中、「この首相の賭けが、人気取りに寄与したとは思えない」という主張が、海外メディアには多かった。

選手村の「バブル」の中では厳しいコロナ対策が行われていたが、「それを取り囲んでいる巨大な首都の中では、全くそのようなことはなかった」「フェンスの外では、パンデミックが日常であるかのような生活を送っている」と伝えたのは、ロイター通信だ。

厳しい対策にもかかわらず、大会終了の8月8日までに、五輪関係者だけでも458人が感染。開催都市である東京全体では、感染者が爆発的に増加し、1日の感染者数が4000人を超えるまでになった。

ブルームバーグニュースは、開会式の2日後に発表された内閣支持率が、昨年9月の就任以来最低の34%だったと報じている。

海外からの要人はほとんど訪れず、「菅首相は、外交上の評価を上げる機会を失った」という。

新国立競技場

※写真はイメージです – 写真=iStock.com/kanzilyou

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