多様性に乏しい eスポーツ 業界。性的マイノリティ混合チームの勝利をファンは歓迎

DIGIDAY

eスポーツチームのニューヨーク・エクセルシオールが2022年11月、来シーズンのオーバーウォッチ・リーグ(Overwatch League:以下OWL)では性的マイノリティを含めたロースター(チームメンバー)を編成すると発表したところ、一部のファンの間では懸念の声があがった。だが、2023年のシーズンが始まってから、エクセルシオールは驚くほど好調で、懐疑的だった人たちも見方を改めはじめている。

「男女混成チームの編成を約束することで、ニューヨークが拠点のブランドとしてそのアイデンティティに多様性と公平性を確立した。これは意図して行われた変化である」。エクセルシオールのクリエイティブ・ディレクター、マット・ルセロ氏はそう話している。

「ニューヨークはある種の人々を惹きつける。そしてここで成功を収めることができるのは、自身のコンフォートゾーンから抜け出して新しいことに挑戦し、世界に強い印象を残すことに前向きな人たちだ」と同氏はいう。

「さまざまなバックグラウンドを持つ人々や性的マイノリティである人々のことを、そうした社会問題に関与するためのとっかかりのようにとらえているわけではない。われわれは彼らをアスリートとしてみているのであり、成功のために必要な存在としてアスリート集団の一員に組み込んでいるのだ」。

売名か、多様性推進か

エクセルシオールの戦略からは、eスポーツ団体が、単なる最多勝利チームというだけではないブランド・アイデンティティを、これまで以上に重要視していることがわかる。eスポーツ団体というものは、大会で優勝できなければ、あまたあるありふれたチームのひとつに落ちぶれてしまうリスクを抱えている。これは2023年4月に発表されたカウンターロジックゲーミング(CLG)の解散の一因ともなった問題である。最近ではイービル・ジーニアシズ(Evil Geniuses)やエックスセット(XSET)などの団体が他ブランドとの差別化を図ってDE&Iブランディングに力を入れているが、エクセルシオールの男女混成「オーバーウォッチ」チームの創設はeスポーツ業界における多様性推進としてはこれまででもっとも野心的な取組みかもしれない。

eスポーツ界団体はすでに何年も前から女性のみのチームを編成してきているが、歴史的にみて女性がeスポーツ競技に参加する機会はオーバーウォッチの「コーリング・オールヒーローズ(Calling All Heroes)」やヴァロラント(Valorant)の「ゲームチェンジャーズ(Game Changers)」など、多様性推進に特化した大会に限られていた。そのためエクセルシオールが性的マイノリティ問題への取り組みを発表すると、一部のオーバーウォッチファンから、この動きがリーグ全体の多様性向上を目指した真剣な努力ではなくむしろ売名による金儲けが目的ではないのかと心配する声があがったのだ。

トランスジェンダー女性でオーバーウォッチのファンであるリトル・キャッスル氏は、エクセルシオールの発表をうけて、この動きを批判するRedditのスレッドを投稿した。「ただ性的マイノリティを利用して注目を集めようとしているだけのように思えた」と同氏はいう。「OWLに社会的マイノリティな競技者を増やすという話であれば、それはいち組織にできることではなく、OWLとしてやらねばならないことだ」。

現時点で「当初の目的は達成」

発表後の数カ月間、エクセルシオールは完全に性的マイノリティの選手のみからなるOWLチームのロースターの人材調達に苦心したと伝えられており、代わりに一部社会的少数者の選手を含めたロースター編成へと切り替えることにした。現在、エクセルシオールの8名の選手のうち、ヘイリー・ハマンド氏(ハンドルネーム:ヘイロー)とユンヒ・チ氏(ハンドルネーム:アニユン)の2人が女性だが、これはトップレベルのeスポーツチームにおける女性選手の割合としては、これまででもっとも高い。

エクセルシオールのサポーターズクラブである5デッドリーヴェノムズ(5 Deadly Venoms)のメンバー、ショーン・ドノバン氏(ハンドルネーム:サニーサイド)は、「落としどころとしては、それでよかったと思う」と話している。「マイノリティな選手がOWLでプレイするのは見たい。でもチームメンバーの全員がそうであるよりも、きっとこの業界には受け入れられやすい」という。

実際、ハマンド氏とチ氏をロースターに迎えたエクセルシオールは、ここ数年でもっともよい成績を収めている。OWLでの同チームの成績は、2021年は14位、2022年は19位だった。2023年はすでに上位争いに食い込んでおり、ファンはここまでの成績に満足している。

大学でオーバーウォッチのコーチを務め、エクセルシオールのファンでもあるジョン・グリーン氏(ハンドルネーム:スピークイージー)は、「彼らは基本的に当初の目的は達成したといえるだろう」という。そして、「今現在、エクセルシオールはリーグ最下位に低迷しているわけではないのだから、この問題への取り組みを話題にするという部分では非常に上手く運んだと思う。これまでのところ、先発ロースターのうち少なくとも20%にマイノリティな選手を起用してきた」と続けた。

マイノリティの人々が輝ける場所を

エクセルシオールの男女混成チームの好成績に加え、同団体が女性選手や女性ゲームクリエイターをさまざまな形でサポートしていることから、ファンも、多様性推進を目指す彼らの信念に偽りはないと意を強くしている。たとえばエクセルシオールは、TikTokスターのチアガール(Cheer Gurl)のような女性やLGBTQのクリエイターを採用したり、多様な社会的少数者のメンバーからなるチーム、NYXLアカデミー(NYXL Academy)を出場させたりしている。なお同チームは、OWLのBリーグであるコーリング・オールヒーローズとオーバーウォッチ・コンテンダーズ(Overwatch Contenders)に参戦し、勝利を収めている。

「ファンは、性的マイノリティの人々がエクセルシオールのロースターに含まれているという事実よりも、むしろ彼らが参戦して勝利したという部分にはるかに強い感銘を受けている。コンテンダーズとコーリング・オールヒーローズの両方に参加するロースターを組織をあげて信任するというのは極めてまれなことであり、彼らが性的マイノリティのプレイヤーにどれほど大きな信頼を寄せているかを示している」と、長年にわたりOWLを見続けてきたレポーターのリズ・リチャードソン氏は話している。「性的マイノリティの人々が本当に輝ける場所で注目を集めるのは素晴らしいことだし、彼らにとっても今後のOWLでのキャリアにつながるようなスキルを磨くチャンスになる」。

[原文:Why fans are coming around to the New York Excelsior’s mixed-gender “Overwatch” team

Alexander Lee(翻訳:SI Japan、編集:分島翔平)

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