変容する世界への適応を模索する メディアエージェンシー たち:異なるアプローチを取る2社の事例

DIGIDAY

これも時代の趨勢か。メディアエージェンシーたちがある種の自己省察を深めている。このままではクライアントの要求に応えられないと考えた結果だ。

人生を一変させるようなコロナ禍に続いて、本格的な不況はもはや不可避の様相を呈し、消費者とつながるメカニズムは加速的に変化している。メディア業界が大きく様変わりした市場への対応に苦慮するなか、ふたつのメディアエージェンシーが自らの姿を客観的に見つめ、この流れの速い新たな潮流に対応すべく、自社のサービスの改変を模索しはじめた。もちろん、これはこの2社に限った話ではないが、奇しくも両社は今日のメディアやマーケティングが例外なく直面する地殻変動への反応として、もっとも新しい事例を提示している。

IPGのメディアハブ(Mediahub)は、自らの事業環境たるメディアの世界が激変していることについて、クライアント向けにプレゼンテーションをまとめ、これをきっかけに内々の調査をおこなっている。一方、ハバスは、「エージェンシーとクライアントはその取引関係を相互に変える必要がある」という議論を報告書にまとめ、6月15日、ヨーロッパで開催された調達責任者のためのサミット、プロキュアコン(ProcureCon)で発表した。

メディアハブ

まず、メディアハブがまとめた実存主義的なプレゼンテーションは、あらゆる種類の変化について論じている。たとえば、ゲーム、Web3、eコマース、コンテンツ制作の活性化、インフルエンサーやクリエイター、AI(人工知能)、さらには文化的な変化、多様性への気づきなども網羅している。なお、DIGIDAYはこのプレゼンテーションに触れる機会を得たが、20数社のクライアントをのぞき、基本的には非公開となっている。

「メディアの新時代」と題されたこのプレゼンテーションについて、メディアハブのショーン・コーコラン最高経営責任者(CEO)は、メディア市場の動きの速さと流動性に照らせば、その内容は絶え間なく更新しつづける必要があると認めている。同時に、市場が変化するにともない、メディアハブは自らの内側に目を向け、この変化に適応する道を模索しなければならないとも語っている。

「コロナ禍を脱した世界では、誰もがQRコードを使い、ストリーミングは大躍進、ゲームも大きくなっていた。そしてWeb3の到来により、我々はようやく従来のマスメディアに終止符を打ち、新たな時代を迎えられると感じたものだ」と、コーコラン氏は話す。「しかし、それでクライアントの事業に拍車がかかるのだろうか。我々は実存的な問いに直面した。将来、我々の仕事はどうなるのか。ペイドメディアエージェンシーの役割とは何か。我々は本来、何をめざすべきなのか」。

コーコラン氏はある種のスローガンとして、グループ企業のIPGメディアラボ(IPG Media Lab)のこんな言葉を引用した。「『コロナ禍の終焉は、新たな時代の始まりとなる』。我々は、頑なに過去にしがみついてきた社会を、ばらばらの状態から作り直さなければならない。しかしその一方で、新たな世界に対応できない、あるいはしたくない者たちのニーズにも配慮する必要がある」。

メディアハブが得た知見

メディアハブの結論は、内向きというより外向きだが、同社がめざす変化との向き合い方を知る、ひとつの手がかりを与えてくれる。

  • エージェンシーの活動の大半は、メディアであれクリエイティブであれ、特に効果測定に関しては、データ中心でおこなう必要がある。また、そうするためには、AIや機械学習を活用して最良のインサイトを選択し、このインサイトに基づいてクリエイティブ、プランニング、戦略策定、実施などをおこなう必要がある。
  • メタバースとWeb3は将来的に非常に大きな役割を果たすが、それは数年先のことである。
  • 現在存在するウォールドガーデンは、消費者の反感により、今後5年のうちにその大半が瓦解する。
  • テレビのコンテンツ(必ずしもテレビの配信ではない)が復活し、そのコンテンツは広告主にとってこれまでよりも高価なものになるだろう。
  • 大量のデータに触発されて、クリエイティブエージェンシーが復活する。しかし、それは今日あるクリエイティブエージェンシーとは似て非なるもので、どちらかといえばスタジオに近いものとなるだろう。
  • 広告主にとってリーチ可能な消費者の時間はかつてないほど縮小している。消費者が広告の受け入れに対して前向き・好意的な状態のときに、その機会を逃さず、確実にリーチしなければならない。その方法を探るためによりいっそうの努力が必要となる。

「これは我々が検討してみたアイデアのほんの一部にすぎない」と、コーコラン氏は話す。「世界は変わった。いまこそ、この変化を受け入れ、新たな状況を活用して事業を成長させる道を模索すべきときだ。非常に困難な試みではあるが、我々の実力が試される」。

ハバスグループ

一方、ハバスグループ(Havas Group)は、自らの変革の必要性を、ほとんどのエージェンシーが遺憾にも必要悪と見なす「調達」という視点で調査している。この調査は、ハバスが毎年実施している「有意義なブランド(Meaningful Brands)」調査の一環としておこなわれ、その結果は「クライアント/エージェンシー関係のバロメータ」として報告された。

この調査報告書は、エージェンシーに対して、新しい分野(たとえばサステナビリティやブランドパーパスなど)の専門家や人材が互いに連携する場を作り、すべてを具体的な価値や実質的な投資効果の提供につなげることを求めている。

この調査を見る限り、期待値の格差が最も大きいのはイノベーションの分野だった。回答者の4分の3が「取引先のエージェンシーが正しい理由でイノベーションに取り組むことは重要だ」と考えている反面、「取引先のエージェンシーがおこなうイノベーションの取り組みが、実質的な事業ニーズに根ざしていることに満足している」という回答は半数にも満たなかった。

ハバスメディアグループ(Havas Media Group)でグローバルの最高事業成長責任者を務めるエリン・フラクスマン氏は、この結果について次のように語っている。「この数字からも分かる通り、有意義で長続きする顧客関係を構築するためには、あらゆる施策を持続可能な事業の成長とROIに結びつける必要があり、これは我々が掲げる重要な柱のひとつでもある」。

両社を知る側の評価は?

アテンション指標を扱うアデレード(Adelaide)のマーク・グルディマンCEOは、メディアハブとハバスメディアグループの両方と取引があり、どちらのメディアエージェンシーも、自らの進むべき方向を正しく定めるために真摯に努力していると述べている。

「彼らはエビデンス重視、データドリブンのアプローチを指向しており、どちらも科学的な手法の活用に前向きで、意思決定にできるだけ多くのデータを活用している」とグルディマン氏は話す。「歴史上、エビデンスに基づくアプローチを採用してこなかった人々の事例は、ほかの業界にも数多ある。歴史は彼らに優しくなかった」。

[原文:Media Buying Briefing: How two media agencies took differing approaches to learning how to adapt to a changing world

Michael Bürgi(翻訳:英じゅんこ、編集:黒田千聖)

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