クオンティックバンクが メタバース 空間に拠点を開設:「現実逃避の場ではなく、機能的な日常空間に」

DIGIDAY

5月19日、ニューヨークの銀行クオンティックバンク(Quontic Bank)はディセントラランド(Decentraland)内に初の拠点を開設した。この仮想世界の出先機関を、ゆくゆくは物理的な銀行が提供するすべての金融サービスを完備した、正真正銘の仮想銀行へと発展させる計画だという。多くのブランドはメタバース空間において持続的に有用であることの重要性を認識しているが、それを実現することの難しさもよく分かっている。クオンティックバンクの拠点開設は、この現実を如実に示すものだ。

この仮想銀行にはクオンティックCEOのスティーヴ・シュノール氏の姿も見られ、ユーザーは同氏のアバターと言葉を交わすことができる。金庫を開けると、DJブースや限定版のNFTを配置したバックヤードが現れる。CMOのアーロン・ウォルナー氏によると、本格始動の暁には、NFTの保有者に新しい機能やサービスへのアクセスを付与する考えだという。とはいえ、現時点ではこの仮想銀行で実際に預金や引き出しができるわけではないため、いまのところこの拠点は、実際に機能する空間というより概念実証の場という性質が強い。

「これは始まりであり、終わりではない」とウォルナー氏は話す。「我々が描く未来は、顧客が来店して、インテリジェントな窓口係が応対し、実際に銀行業務をおこなう未来だ」。

ウォルナー氏はこの場所を指して「支店」と呼ぶことを慎重に避けている。「支店」とは、法律上、その場所で金融取引が行われていることを示唆するため、クオンティックがディセントラランドの拠点を「支店」と呼ぶには、規制当局の承認が必要となる。このため、同社はこの空間の呼称として、出先機関もしくは前哨基地、拠点、バーチャルプレゼンス、さらには「要塞」などを使用している。

日常的に使用する機能的な空間に

法的な懸念はともかく、ディセントラランドの拠点に関するクオンティックの将来設計は、同社がメタバースを現実逃避の場ではなく、日常的に使用する機能的な空間と見ていることを示している。

同社が拠点開設にディセントラランドを選んだのも、サンドボックス(The Sandbox)などの競合するメタバース空間や、ブロックチェーンに重点を置かないメタバースプラットフォームよりも、実用向きだと考えたからだ。「ディセントラランドには人々を引き込むための臨界量と勢いが備わっている」とウォルナー氏は述べている。「見たところはまだビデオゲームの域を出ないが、我々はディセントラランドが最善の選択だと考えた」。

確かに、ディセントラランドの比較的質実な気風を見る限り、フォートナイト(Fortnite)やロブロックス(Roblox)のカラフルでポップな世界観よりも、メタバースバンキングにはふさわしいプラットフォームといえるかもしれない。

「ディセントラランドはセカンドライフを彷彿(ほうふつ)させる」。そう語るのは、ピープル・オブ・クリプト・ラボ(People of Crypto Lab)の共同創設者、シモーヌ・ベリー氏だ。Web3のイノベーションハブを謳う同ラボは、サンドボックス内でメタバース体験を設計している。「そこには家があり、行きつけの場所があり、友人たちと交流する場所があり、そして銀行がある」。

ディセントラランドがブロックチェーンに注力していることも、クオンティックにとっては好材料となった。クオンティックは2020年にFDIC保険付きの米国金融機関としては初めて、ビットコインで特典を還元するデビットカードを発行している。

銀行にDJブースを設けた理由

クオンティックにはブロックチェーン技術と分散型金融に長年関わってきた実績があり、そのこともメタバースで営業する銀行としての信頼性を高めている。

同社の拠点開設について、暗号通貨に関する調査会社クリプト・コンパラティブ・リングウィスティクス(Crypto Comparative Linguistics)のCEOで、Web3に詳しいトム・ヘッド氏は次のように述べている。「メタバース空間で金融教育をおこない、次世代の金融リテラシーを育むための学習機会やリソースをどう提供できるか模索するなど、計り知れない可能性を秘めている。ただし、バックヤードにDJブースを設けるというのはちょっと笑える。現実的に考えれば、メタバースで友だちと遊ぶ場所に銀行を選ぶことはないと思う」。

クオンティックがディセントラランドの拠点のバックヤードにDJブースを設けたことは、ヘッド氏の笑いを誘ったかもしれない。しかし、実用的な仮想空間や仮想サービスを提案するブランドが増えれば、ディセントラランドのユーザーたちが、メタバース銀行のような「実務的な」場所に集まってわいわい騒ぐ未来図は、それほど現実離れしたものでもなくなるだろう。物理世界の銀行はダンスパーティの許可など出さないし、そもそも社交の場でもない。しかし、このDJブースやNFTの配置は、クオンティックがメタバースの拠点を実用的な空間であると同時に、クオンティックコミュニティ(それが何を指すかは別として)が集う場所として認識していることの現れだ。「これは同心円的なアプローチであり、最初の内円は我々の顧客だ」と、ウォルナー氏は述べている。

そのうち、銀行のような実務的な場所にソーシャルやコミュニティの機能が設けられても、メタバースの住人たちはいちいち驚かなくなるかもしれない。「仮想世界に6時間もいれば、それは新しい現実となる」。そう語るのは、コマースソフトウェアを提供するプロダクツアップ(Productsup)で最高イノベーション責任者を務めるマルセル・ホラーバッハ氏だ。「メタバースの利用が進むにつれて、人々の認識も変わるだろう」。

[原文:Quontic Bank’s metaverse outpost demonstrates the importance of brand utility in metaverse activations

Alexander Lee(翻訳:英じゅんこ、編集:黒田千聖)

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