カニエ・ウェスト とのコラボをブランドが 辞められない理由

DIGIDAY

昨年「イェ(Ye)」に改名したカニエ・ウェストは、コラボするブランドにとってとても魅力的な存在だ。同氏のデザインに対する審美眼や知名度は、GAPやアディダス(Adidas)、バレンシアガ(Balenciaga)に至るまで、手掛けたパートナーブランドに大金をもたらしてきた。

しかしここ数年は物議を醸す行動が目立ち、その雲行きも怪しくなっている。2009年のMTBビデオ・ミュージック・アワードでテイラー・スウィフトの受賞スピーチを妨害したのは、まだ序の口だった。最近では元妻のキム・カーダシアンと交際中のピート・デヴィッドソン(コメディアン/俳優)への数々の嫌がらせについて、ハラスメントだと批判が集まっている。一例を挙げると、先日発表されたクレイアニメーションによるMVでは、ピートと思しき人物を拉致して生き埋めにする様子が描かれていた。

これまでであれば、カニエに対する批判や論争がブランドに与える影響は少なくて済んできたが、今回は状況が異なる。今年のグラミー賞の司会を務める予定のトレバー・ノア(「ザ・デイリー・ショー」の司会者)に対してネット上で人種差別的な中傷を繰り返してきたことを理由に、同賞はカニエのパフォーマンスを禁止した。Instagramも、デヴィッドソンへの嫌がらせを理由にアカウントを24時間凍結した。また、カニエが出演を予定している今年のコーチェラ・ミュージック・フェスティバルを降板させるよう求める嘆願書には、30,000名以上の署名が集まった。

このような言動はエキセントリックなアーティストによる奇妙だが無害なものとしてではなく、恐ろしくて性差別的で到底容認できないものだと広く批判されてきた。エル(Elle)やジェザベル(Jezebel)など複数のメディアは、「カニエ・ウェストのキム・カーダシアンに対するハラスメントは冗談ではない」「カニエ・ウェストの行動はストーカー行為だ」といった見出しの記事を掲載している。同氏の言動は、 #MeToo 運動によってブランドが広くから非難されて厳しい立場に追いやられたのとよく似ている。

パートナーへのストーカー行為やハラスメントを批判されるセレブリティーの多くは、躊躇なく即座に切り捨てられるだろう。しかしカニエとの関係を断つことは、ブランドにとっては非常に難しい選択だ。いまも同氏によって、大金を儲けることができるからだ。

スニーカーのニュースサイト「ザ・ソール・サプライヤー(The Sole Supplier)」のデータによるとカニエの衣服への需要は、カーダシアンとデヴィッドソン関連のニュース・サイクルにおいて、GAPと提携したものも彼自身が手掛けたスニーカーブランド「イージー(Yeezy)」も平均59%増加したという。2月には、需要がたった一日で56%増加したこともあった。

英国のファストファッション・リテーラーである「ブーフー(Boohoo)」がGlossyに語ったところによると、パリ・ファッションウィークでカニエがバラクラバで顔を覆ったことで、ブーフーのオンラインストアでは「バラクラバ」の検索数が24時間で6900%増加したという。

「カニエは強烈な存在感で、自身の考えを発言することに定評がある。過去数週間の言動がカニエや彼のブランドに大きな影響を及ぼすとは思わないが、カニエが発言すればするほど、彼自身や協働するブランドをリスクにさらすのではないかという懸念がある」と、ザ・ソール・サプライヤーのスポークスパーソンは語る。「カニエがこれまで自身のプロジェクトを大々的に宣伝するために、このような戦術を用いてきたことは知られている。通常はこのようなナラティブをコントロールできているが、キムとの間の騒動はさらなる痛手となる可能性がある」。

GAPはこの件について、コメントを避けた。同社はカニエとのパートナーシップに、これまで多額の投資を行ってきた。イージーとGAPのパートナーシップは10年間の契約で、その折り返し点となる2026年までに年間10億ドル(約1200億円)以上を売り上げることを見込んでいる。カニエは製品デザインだけでなく、アイテムのマーケティングや販売方法に至るまであらゆるクリエイティブを管理している。昨年9月29日に発売されたパーフェクト・フーディは、同社のeコマースでの1日あたりの売上が最高額を記録した。また2月のバレンシアガとのコラボレーションにも、大きな期待が寄せられた。

2021年9月、GAPのCEOであるマーク・ブライトバード氏はGlossyにこのように語っている。「イェはクリエイティブフォースだ。このパートナーシップのエネルギーはブランドと会社にとって素晴らしいものであり、協業できることにわくわくしている」。

年間約10億ドル(約1221億円)の売上が推定されるパートナーシップを、GAPは簡単に手放すとは考えにくい。10億ドルは、同社の年間売上高(契約締結の前年度)の約4分の1を占める規模だからだ。カニエに関するネガティブな報道が続くなかで、GAPは賛否がますます分かれる人物と協働することのコストとメリットを検討する必要があるだろう。

「あらゆる企業が自問すべきなのは、『広告キャンペーンで自分たちの真の価値を表現できているか』という本質的な問いだ」と、カミノPRの代表でクライシス・コミュニケーションの専門家でもあるエリザベス・トレド氏は指摘する。「いかに逃げ切って荒稼ぎするかという観点でアクションを測定する企業は、最終的につまずくものだ」。

[原文:Why brands can’t quit Kanye West

DANNY PARISI(翻訳:田崎亮子、編集:黒田千聖)

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