コロナ禍によるロックダウンが解け多くの人々が街に戻りつつあるなか、カリフォルニアが拠点のCBD(カンナビジオール)ブランド、サンデー・スケアリーズ(Sunday Scaries)は道行く人々の目を捉えるべく、同社史上初となるOOH広告キャンペーンを展開している。
実際、OOHへの広告支出を増やしている企業は、同社のほかにも数多くいる。全米屋外広告協会(OAAA)によれば、71億ドル(約8900億円)だった2020年に比べ、2021年は17%近い伸びを見せた。
顧客獲得ツールとしての期待
5月前半、同社は悩みを抱えるミレニアル世代の労働者に狙いを定め、サンディエゴ地区の12箇所に8週間の静止ビルボードキャンペーンを開始した。OOHへの進出は、創業5年目以来初めてのことであり、ブランド認知度の向上と新規顧客の獲得が狙いである、と同社の共同創業者でチーフグロースオフィサーのボー・シュミット氏は話す。
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「再び扉が開かれ、ほぼすべてがコロナ禍前に完全復帰したいま、OOHのメトリクスはインプレッションとCPMにおいて、投資に見合うだけの堅実性を取り戻したように思える」とシュミット氏。具体的な支出額については明らかにしなかった。
2022年度第2四半期までに、サンデー・スケアリーズはメディア予算の約20%をOOH戦略に投じており、同分野への支出はこれまでなかったものだと、シュミット氏は語った。残りの予算はコネクテッドTVといったメディアチャネルと、インフルエンサーおよびアフィリエイトマーケティングに振り分けているという。具体的な数字については同じく明かさなかった。
2021年、サンデー・スケアリーズはメディアに15万5000ドル(約2000万円)以上投じており、2020年の7万ドル弱(約900万円)に比べて、顕著な増加が見られたと、カンター(Kantar)は報告している。ただし、ソーシャルメディア費はカンターの調査対象でないため、この数字に含まれていない。
「メディアミックスの割合の変化に関して言えば、我々は現在、基本的にマーケティングファネルのトップ、つまり認知フェーズに投資している」とシュミット氏は話す。
同キャンペーンの効果について語るのは時期尚早だが、同チームはOOHに顧客獲得ツールとしての働きを期待しており、屋外広告を打った地域およびその周辺における売上増といったかたちで効果が現れて欲しいと、シュミット氏は語った。
規制の壁に直面するCBDブランド
CBDブランド勢はデジタル広告界において長らく苦戦を強いられている。その原因は、ヘンプが合法化された2018年の農業法案(2018Farm Bill)以降も続く、不透明なマーケティング規制にある。たとえば、セイグリー・ナチュラルズ(Sagely Naturals)はデジタル動画広告に切り替えた。一方、ナグ・クラブ(Nugg Club)はインフルエンサーを利用することで回避策を見出した。
「Facebookとインスタグラムには独自の方針があるが、いずれも規制が非常に厳しく、通常のマーケティング戦略がほぼ通用しない。Snapchatは特にそうだ」とシュミット氏。「eコマースの従来のチャネルはどこも困難であり、摩擦が多い」。
米DIGIDAYが以前に報じたとおり、Facebookは社の方針として、CBDを含むレクリエーショナルドラッグの販売または使用を促す広告の全面禁止を謳っている。TwitterとGoogleの子会社であるYouTubeも同様の方針を打ち出しており、これはCBDブランド勢にしてみれば痛手にほかならない。
差し当たり、OOHがサンデー・スケアリーズにとっての回避策なのだが、静止ビルボード以外にも手を広げるには、いくつかハードルを越えねばならない。屋外広告エージェンシー、クリア・チャネル・アウトドア(Clear Channel Outdoor)を通じ、サンディエゴ市内を走るトロリー車内と空港近くに広告を出そうと試みたところ、大麻規制方針に反するとして、同社は市当局の激しい反発に遭った。
ただそれでも、ビルボードは一般にブランド認知度向上に極めて効果的なチャネルであり、サンデー・スケアリーズにとってはやはり、投資する価値は十分にあると、シュミット氏は言い添える。
ビルボードであることの価値
コロナ禍が落ち着きを見せ、人々が通常の活動に戻るなか、OOH広告支出は一気に増大しており、スイムウェアのアンディ(Andie)、非常用キットのジュディ(JUDY)、ダイニングアプリのシーテッド(Seated)、バーチャルヘルスケアアプリのKヘルス(K Health)といったスタートアップブランド勢もこれに注目している。いずれも2021年、ニューヨークやロサンゼルス、アトランタ、ダラス、フロリダ州オーランドといった都市においてOOHキャンペーンを実施した。
広告エージェンシーR/GAでは、クライアントのメディアミックスにおけるOOH投資額の割合が、2020年はわずか3%未満だったのに対し、30%以上に急増したと、R/GAのメディアおよびコネクション部門SVPグローバルヘッド、エリー・バムフォード氏は話す。「街は再びその扉を開いており、人々が積極的に出歩くようになったいま、ブランド勢はターゲットであるオーディエンスの目に確実に触れたいと考えている」と、バムフォード氏はeメールで語った。
事実、OAAAの報告書「2021 Facts and Figures」(2021ファクツ・アンド・フィギュアズ)によれば、米国における広告支出は、2020年は61億ドル(約7700億円)という、2010年以来最低の数字だったが、2021年は71億ドル(約8900億円)にまで復活した。OAAAによれば、ビルボードはその内77%を占めた。
「通りを歩いたり、地下鉄や電車を待っていたりすれば、目の前にビルボードは存在する。その際、人々はいやが応でも目を奪われる、いわゆる囚われの聴衆となる」と、メディア調査分析会社レベンド(Leavened)のマネージングパートナーで共同創業者のサラ・ムーアジー氏は話す。「つまり、そこには価値があるということだ」。
しかも、デジタルOOHの技術進歩が効果測定の精度を上げたのは確かだが、オフライン広告は依然、混み合うデジタルマーケットプレイスのなかで、ブランドがほかよりも目立つための一助になりうると、ムーアジー氏は指摘する。
「デジタル疲れのおかげで、OOHの復活が起きている。『デジタルバナー広告』は、要するにオンラインビルボード広告であり、効果はないに等しい」と、ムーアジー氏は説明する。「ユーザーが消そうと思えば消せるからだ」。
シュミット氏は今後もサンデー・スケアリーズのブランド認知向上により努め、そのなかでOOHのさらに大きな市場への拡大を考えていくという。
シュミット氏いわく、「最終目標は、『OOHキャンペーンが売上増に貢献してくれた、よし、この調子でもっと成長させよう』と、いまよりもさらに自信を持って断言できるくらいの顕著な伸びが見られるようになることだ」。
[原文:Why a CBD brand is experimenting with OOH advertising to counter e-commerce buzzkills]
Kimeko McCoy(翻訳:SI Japan、編集:黒田千聖)