犬のような散歩や しつけ がいらず、手間なく飼えると思われがちな猫。たしかに何も教えなくとも賢く穏やかで気持ちの安定した猫もいるが、個体差がとても大きい。
縄張りを主張して尿を飛ばすスプレー行為や、大きな鳴き声、分離不安などに悩む飼い主も実は多いと思う。
そんな猫の行動に「効く」「効かない」と評価二分のアイテムがある。フランス生まれの猫用フェロモン「フェリウェイ®」だ。なかなか高価な品なのだが、我が家の猫に試してみた。
・苦手な人も多い、猫の鳴き声
我が家にいるオスの兄弟猫。元野良なのだが、同じ環境で育ったはずなのに性格が真逆だ。
今回、効果を期待するのは弟猫(同時にたくさん産まれるので兄も弟もないと思うが、便宜的に弟と呼んでいる)のほう。
メンタル弱めの筆者が見習いたいほど自己主張が強く、押せ押せゴーゴーの陽キャ。朝起きてフルパワーになったときや、食後に気分が高まったときなどに、大声で鳴くのが気になっていた。ガタイのいいオス猫なので声も大きく、迫力がすごい。
当初は「飼い主がいるとき限定のアピールかな?」と思ったのだが、ペットカメラで確認したところ留守宅でも鳴いていたので血の気が引いた。止める人もおらず、多大な近所迷惑になっている可能性がある。
猫には、飼い主が「ほとんど声を聞いたことがない」という静かな個体がいる一方、去勢・避妊手術後にもかかわらず吠えるような大声を出す個体もいる。鳴けば人間が反応するのを見て、「要求鳴き」を覚えてしまうこともある。
・「フェリウェイ®専用拡散器+リキッド」(税込6252円)
そこで購入したのが今回の製品だ。スプレータイプとリキッドタイプがあるうち、効果が持続するリキッドタイプを選択。
中身は猫の「フェイシャルフェロモンF3類縁化合物」を液体にしたものと、その拡散器。このフェロモンは猫が頬をスリスリするときに分泌されるもので、自分の「縄張り」や「所有物」を示す印になるらしい。
部屋がこのフェロモンで満たされることで、リラックス効果が期待されるのだそう。世界40カ国以上で販売されており、日本でも動物病院の待合室で焚かれていたりする。獣医師に猫の行動を相談すると勧められることもある。
交換用リキッドは公式通販サイトで税込4168円、およそ4週間分なので、年間5万円ほどの支出となる。筆者の洋服代よりも高いが、背に腹は代えられない。
キャップを外して、拡散器を取り付ける。ちょうどリキッドタイプの蚊取りを焚くような構造だ。あとはコンセントに差し込む。
この時点では猫たちは無反応。人間にも匂いは感じられない。しばらくすると本体が温まって揮発が始まる。スイッチのオンオフはなく、24時間稼働させておくことが前提だ。
10分ほど経つと、もしかしたら部品の匂いかもしれないが、ウッドチップをいぶしたような「香ばしい」匂いが漂ってきた……
その瞬間、猫たちがごろりと横に! 図ったようなタイミングである。まるで記事にすることを知っているかのような演技派だ。
※たぶん偶然です。即効性のある製品ではありません。
ちなみにネット上では「行動が落ち着いた」という声がある一方、「まっっったく効かない」という声もあり、フィフティ・フィフティといった印象だ。
副作用や依存性のある製品ではなく、長期使用も可能だというが、念のため猫たちに異常がなさそうなことを確認。手の届かない位置に付け替え、常設体制に移行した。
・翌朝の奇跡
翌朝、自動給餌器からキャットフードが出る音がした。「ご飯が欲しくて人間を起こす」という行動を避けるため、長年定刻にセットしてある。
ところが、その後の様子がいつもと違う。普段なら「オレ起きたぞ!」なのか、「ニンゲンよ起きろ!」なのか、1時間でも2時間でも大声で鳴き続ける声が、今日は聞こえない。
そっとのぞいてみると……
ひ、ひ、日向ぼっこしとるー!!!
嘘だろ……お、お前は誰だ……
普段は人間が近づいてきただけでテンションがぶち上がりする陽キャなので、こんなにリラックスしているなんてあり得ない。
うちの猫のふりをしているが……中身は別猫なんじゃ……!
・一週間後……
その後も「人間が起きる気になるまで、マイペースに待っている」という日が増えた。さらに、昼間は常に人間をストーキングしていたのが、ひとりでフェリウェイのある部屋で過ごす時間も長くなった気がする。
こんなに効くなんて、ちょっとやばい薬なのか……? それとも「効いて欲しい」と願う人間のエゴがすべてを都合よく解釈させているのか?
もし効果が感じられなければ、危うく猫用ルームランナー(輸入価格およそ6万円)を購入するところであった。運動不足が原因かもと思ったのだが、人間の渾身のアイテムに、猫は見向きもしないことがよくある。盛大な散財の危機を免れた。
ただし「お腹が空いた」「ドアを開けて」など、明らかに理由や目的があって鳴いているときには効果がない。この場合は人間側にも要因があるので、折り合いをつけていくしかない。また、もとからおっとりした性格の兄猫には、とくに変化は見られなかった。
想像するに「なんとなくソワソワする」「不安になる」「ムシャクシャする」といったネガティブな感情の起伏が少なくなったような印象。
それにしても、フェロモンって「その猫特有」なのかと思っていたら、人工的に、あるいは画一的に作り出せるものなんだなぁ……。
・ときに深刻化する行動問題
猫の問題行動はほとんどの場合、人間側に原因がある。トイレが汚い、運動不足、多頭飼いがストレスなど、理由を理解して環境を整えれば解消するケースも多いとされる。まずは自分の対応に不足がないか、自戒してみるのは正しいと思う。
けれど、中には猫の気質や能力や個体差、育った環境など「猫側の要因」もあると筆者は確信している。
それはときに「飼い猫を可愛いと思えなくなった」というほど深刻な問題に発展するケースもある。保護猫活動の現場でも「どうしても無理」とトライアルから返される子もいた。
こういった悩みがネット上で取り上げられると、「無責任だ」「飼う資格がない」といった自己責任論に陥りがちなのだが、真剣に悩む飼い主こそ自分を責めていたり、思いつく対策はすべて実行済みだったりすると思う。
たとえば保護した野良猫が外に出たがって一晩中鳴くときに「飼い方が悪いからだ」と言えるだろうか。
月並みだが、それでも「やれること」をひとつひとつ試していくしかないのだろうと思う。だって、人間の子どもなら「問題があるから育てるのをやめる」というわけにはいかないんだから。
まだ「長期に渡って効果があった」とは言えないものの、我が家の猫には期待できそうな「フェリウェイ」。
ただし使い始めたら年5万円程度の支出が続くこと、「効果が感じられない」というクチコミも相当数あること、大きく個体差がありそうなことはお伝えしておきたい。