こちらは、小売業界の最前線を伝えるメディア「モダンリテール[日本版]」の記事です
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支払い、ショッピング、ソーシャルメディアと、あらゆる目的のためにアプリが存在する。現在、一部の企業はこれらすべての機能をひとつのアプリに統合しようと試みている。
インスタグラム、Snapchat、Facebookは純粋にソーシャルメディアのプラットフォームとして誕生したが、近年になってショッピングや商品発見のための機能が追加されてきた。その一方、フィンテック企業のクラーナ(Klarna)は、支払い管理、配達のトラッキング、返品などの機能をひとつに結合したアプリを11月にリリース。ペイパル(Paypal)は、ショッピング、貯蓄、請求支払い、暗号通貨の機能を統合した、独自の「オールインワン」アプリを9月にリリースしている。そして、従来はレストランや食料品店に特化していた配達アプリは現在、医薬品からアパレルまで、あらゆる商品の配達に使われようとしている。
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単一のアプリで生活のあらゆる面に対応しようというアイデアは、中国で普及し莫大な利益をもたらしたスーパーアプリモデルと似ている。多用途メッセージングアプリのウィーチャット(WeChat)は2020年の時点で毎月12億人のアクティブユーザーが存在し、またデジタル支払プラットフォームのアリペイ(Alipay)は13億人のアクティブユーザーを擁し、2020年6月の時点で毎年17兆ドル(約1970兆円)分のトランザクションを処理した。
数十億ドルもの利益を得られるチャンスがかかっているため、各社は米国においてこのような多用途スーパーアプリに相当するものになろうと競っている。これらのスーパーアプリ戦略すべてを推進しているのは、人々が自社のアプリでより多くの買い物をするように仕向けたいという野望だ。人々が自社のアプリでより多くの時間と資金を費やすようになれば、これらの企業は収益のいくつものラインを伸ばすことができる。
プラットフォーマーたちの野望
ソーシャルメディアアプリ、支払プラットフォーム、さらにはデリバリーアプリまでが、近年になって次々と新しい機能や能力を搭載するようになってきた。たとえばSnapchatは、拡張現実機能を活用してコマースに賭けてきた。一方でインスタグラムの責任者であるアダム・モセリ氏は、このプラットフォームが写真共有アプリから転向したことを昨年発表。同プラットフォームは今後、中国のスーパーアプリと同様に、クリエイター、動画、ショッピング、メッセージングの分野に特化していく。
モセリ氏はこの発表で、パンデミックにより「コマースのオフラインからオンラインへの移行が何年も早まり、我々はそのトレンドに迎合しようと試みている」と語った。
スーパーアプリ戦略を推進するもうひとつの大きな要因は、市場シェア増大の可能性だ。より多くのサービスを提供することで、プラットフォームは別の収益ストリームを獲得でき、広告主や小売業者によってより有利なパートナーとなる。
昨年の米モダンリテールのインタビューで、クラーナのCMOを務めるデビッド・サンドストローム氏は、人々にもっとライブストリーミングなどの機能のために自社アプリを使わせるという野望に合わせて、広告ネットワークを構築していると語った。同社は当初、後払いサービスを主に提供していたが、同年にソーシャルショッピングの新興企業で、コンテンツクリエイターや小売業者を接続するプラットフォームであるヒーロー(Hero)とエーペル(Apprl)を買収したことで自社の能力を拡充した。
同氏はそのとき次のように語っている。「今から1年か2年後、ある会社が自社ビジネスを小売業として成長させようとしたとき、パートナーとしてクラーナが必要になるようにする方法はあるだろうか? 当社が抱えている野望はこれだと私は考えている」。
配達アプリのリブランディング
デリバリーアプリは、自らを独自のワンストップショップアプリとして再ブランディングしようと試みてきた。これらのアプリは次第に、レストランや食料品店に留まらず、さまざまな小売業者と契約を締結することで取り扱い範囲を広げ、デリバリーのワンストップショップに変わろうとしている。
たとえば、ドアダッシュ(DoorDash)は現在、処方箋不要の医薬品やジェーシーペニー(J.C. Penney)のマーチャンダイズをデリバリーしている。インスタカート(Instacart)もまた、マイケルズ(Michaels)、ファミリーダラー(Family Dollar)、セブンイレブン(7-Eleven)などの小売パートナーを増やし続けてきた。ウーバー(Uber)は現在、バイバイベイビー(BuyBuy Baby)の乳児向け必需品やコストコ(Costco)の食料品など、膨大な数の商品をデリバリーできる。
消費者からの要求も、スーパーアプリ戦略の成長を促進している。昨年のデロイト(Deloitte)のレポートによれば、パンデミックがはじまって以来、米国の消費者の約1/3(32%)は、扱わないといけないデバイスとサブスクリプションの多さに圧倒されていると感じている。
インサイダーインテリジェンス(Insider Intelligence)でプリンシパルアナリストを務めるスージー・デビッドカニアン氏は次のように述べていた。「消費者を最優先に考え、ショッピング行動の全体にわたって操作が円滑かつ効率的で、障害がないようにすることがもっとも重要だ。顧客がプラットフォームから別のプラットフォームに移るときに、その顧客を失ってしまうこともある。このため、これは小売業者やブランドが消費者を特定のエコシステムに維持するための非常に簡単な方法となる」。
スーパーアプリ化のリスク
各プラットフォームは新しい機能を追加し続けてきたが、それによって自社ブランドのアイデンティティを失うリスクに直面する可能性があると、ヒューズクリエイト(Fuse Create)でカスタマーエクスペリエンス担当ディレクターを務めるラニー・ゲフィン氏は語る。「あまりにも多くの機能を搭載すると、自社の強みが弱まってしまう可能性がある」。
スーパーアプリ戦略にはいくつかの落とし穴の可能性がある。まず、データのプライバシーとセキュリティに関する懸念が米国内で高まってきている。これは顧客のトランザクションを扱いたいと考えるブランドにとって問題になり得ると、ゲフィン氏は語る。2020年のマッキンゼーアンドカンパニー(McKinsey & Company)のレポートによれば、圧倒的に多くの消費者(87%)は、セキュリティの実践方式について懸念がある会社とは取引しないと述べている。
「もし、バンキングをあるアプリで行い、ソーシャル投稿を別のアプリで行えば、これらの情報すべてをひとつのアプリで保持するより多少は安全に感じるだろう」とゲフィン氏は述べる。各ブランドは、「自分のブラウジングの傾向だけでなく、金融情報もアプリで管理することについて、人々が安全と感じ、不快感を覚えない」ようにする必要がある。
米国の消費者は、各業界でプラットフォームの独占が起きる可能性についても心配していると、エンプリファイ(Emplifi)でソリューションマーケティング担当ディレクターを務めるダニエリー・ネットー氏は語っている。各社は、すべてをコントロールすることを望んでいると捉えられないよう注意する必要があると、同氏は述べている。
普及するかどうかはわからない
専門家たちは、米国におけるスーパーアプリは依然初期段階で、米国の消費者がこのアイデアを受け入れるかどうかはまだわからないということで一致している。このトレンドが進展するにつれ、米国においてスーパーアプリというものが何なのかは、中国での定義とは異なったものになる可能性もある。
ネットー氏は、スーパーアプリが中国と同様に米国でも普及するかどうかについて懐疑的だ。「米国と、欧州、中国、南米などとでは消費者の行動に多くの相違点があると考えている。しかし普遍なのは、人々がモバイル機器でさらに多くの時間を費やすようになるということだ」。
[原文:From Instagram to Klarna, a super app strategy gains traction in the U.S.]
Maria Monteros(翻訳:ジェスコーポレーション、編集:黒田千聖)