なぜ広告費はテレビから デジタル動画 にシフトしないのか?:「ほとんど惰性だが、テレビを信じている」

DIGIDAY

YouTubeが広告主やメディアバイヤー向けに主催する年次イベントが、今年は「アップフロントウィーク」の真っ最中に開かれる。アップフロントは主要なブロードキャストネットワークやケーブルネットワークが参加する、テレビ広告枠の先行販売イベントだ。2月の下旬にこの日程が発表されたおり、多少話題にはなったものの、驚天動地の大ニュースとはならなかった。

しかし、そもそもこれはそれほどの大ニュースなのか。メディア業界で最大の広告収入を稼ぎ出すGoogleが、200億ドル(約2兆5000万円)を超えるアップフロント市場に狙いを定め、大きなシェアを獲りに来た。リニアテレビにとって、これは憂慮する事態なのか。さらに視野を広げるなら、メディアバイヤーも、そしてクライアントである広告主も、リニアテレビ以外の選択肢にもっと目を向けるべきではないのか。

実際、古典的な意味でのテレビ視聴から消費者が遠のく傾向はもはや止めようもなく、時代はZ世代が主導するTikTok、Snapchat、Twitch(ツイッチ)、さらにはインスタグラムやYouTubeなどのプラットフォームに向かっている。このシフトは、まだ本格的には起きていない。あるエージェンシー系の持株会社で投資の責任者を務める人物は、できるだけ率直に意見を述べるために匿名での取材を希望しつつ、その理由について語った。

「我々のクライアントの多くは従来的なマーケティングミックスモデリングにとらわれている。視聴者が新たなプラットフォームに注目し、価値を見いだす一方で、こうしたモデルの多くはこの視聴者の傾向に見合うほどにはデジタルを重視していない」とこのベテランバイヤーは述べている。「このようなモデルがリニアテレビへの予算投下を助長しつづけている」。

「長いものには巻かれろ」

「問題の一端は、テレビ業界のマーケティングミックスモデリングが旧態依然のままで、分析に時間がかかることだ」と、クロスチャネルのマーケティング分析を手がけるオプティマイン(OptiMine)のマット・ヴォーダCEOは指摘する。臨機応変に軌道修正する必要のある広告主にとっては、特に問題であるという。

「従来的なマーケティングミックスモデリングでは、テレビは常に有利だ。ソーシャル動画であれば、予算やアクティベーションを機動的に修正できるところ、テレビではそれを可能とするほど詳細な分析には至らない」とヴォーダ氏は話す。「我々が注目するのは収益だ。長期的なブランドインパクではない。その反面、投資効果を詳細に分析するなら、常にテレビよりもペイドソーシャルに軍配が上がるだろう」。

あるデジタルビデオ会社のCEO(潜在的なクライアントへの配慮からオフレコで取材に応じた)はこう述べている。「長いものには巻かれろ。エージェンシー関係者の常套句だ。クライアントには長年使い続けてきたマーケティングミックスモデルやアトリビューションモデルがある。ほとんど惰性とはいえ、クライアントはこのモデルを信じている。過去20年間うまくいっていることを推奨しても、誰もクビにはならないというのが彼らの言い分だ」。

とはいえ、ビデオゲームであれSNSであれ、オーディエンスはデジタルとソーシャル動画に集まりつつある。しかもその多くは、従来のテレビではなかなかリーチできない若者層だ。デジタル全般の視聴率を測定するチューブラーラボ(Tubular Labs)が最近発表した数字によると、Z世代とミレニアル世代では、ソーシャル動画の視聴がテレビの視聴を大きく上回る。

2022年2月の数字に基づいて、チューブラーが推定したところでは、米国在住の25歳から44歳の人々が、米国のメディアあるいはエンターテインメント分野で活躍するトップ10クリエイターのコンテンツを視聴した時間は、YouTubeとFacebookだけで、延べ58億5000万分にのぼった。

そう、50億だ。5億ではない。

予算シフトを妨げるもの

それでも、根強い抵抗はある。「YouTubeはほんとうにイメージ通りの結果を出してくれるのだろうか」。前出の持株会社の投資責任者はそう問いかける。YouTubeなどへの予算を増やすように勧めると、顧客からはいまだに反発を受けるとこの人物は語る。「YouTubeなどのコンテンツは、プライムタイムのテレビ放送に比べて、質が落ちると考える人々は少なくない」。

チューブラーラボのジョッシュ・シュミージングCMOによると、同ラボでもっとも成長著しい顧客層はエージェンシーやマケーターであるという。そのため、メディアエージェンシーのあいだでも、ソーシャル動画の活用を増やす方向へと流れが変わってきているのは肌で感じるという。シュミージング氏は、この潮流を1990年代に野球界で見られた「マネーボール」現象になぞらえる。当時、斬新な選手の評価基準がドラフト戦略やチーム戦略に導入された。従来とはまったく異なる評価方法だったが、いまでは主流となっている。

「人々の視聴傾向や文化的な関係性が分かれば、従来のメディアプランに縛られないインスピレーションが生まれる」と、シュミージング氏は話す。「オーディエンスは何を好むのか。ブランドや広告主はどう位置づけられるのか。クリエイターとして、この流れにどう乗るべきなのか。これらの答えが収斂するところに、大きな力が生まれると思う」。

オプティマインのヴォーダ氏は、古い形の動画から新しい形の動画へと、さらに予算をシフトさせる際、もうひとつ妨げとなるものがあると指摘する。それは、アップフロントの予算とソーシャル動画の予算が一元的に管理されていないという問題だ。

「テレビの予算を管理しているのはブランドチームだが、多くの場合、ペイドソーシャルの予算は別の部門が担当している。しかも、指揮命令系統が異なるケースさえある」とヴォーダ氏は語る。「広告費の移動がスムーズに進まない理由のひとつがここにある」。

変化は確実に訪れる

とはいえ、前出のデジタルビデオ会社のCEOによると、こうした壁は崩壊しつつあり、より頻繁に正しい問いが問われるようになっているという。

「変化のただなかにいると、その変化は見えにくい。それでも、オムニチャネルで、画面の種類を問わず、より包括的なアプローチは確実に勢いを増している。2年前は我々に見向きもしなかった人々が、いまでは我々のもとに教えを請いに来る。この拡大する市場機会をどう捉えるべきか、クライアントのために理解したいのだという」。

[原文:Media Buying Briefing: ‘It’s tough to fight City Hall’ Why more TV ad dollars aren’t following audiences to digital and social video

Michael Bürgi(翻訳:英じゅんこ、編集:分島翔平)

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