計28件の研究を統合的に分析したメタアナリシス研究によって、新たに「亜鉛を摂取することで風邪やインフルエンザなどのウイルス性呼吸器感染症が予防される上に感染期間も短縮される」という可能性が示唆されました。研究者は今回の研究には複数の問題点があると断った上で「亜鉛には風邪の期間を短縮する可能性があります。また、症状のピーク期にあたる2~4日目における重症度を軽減する可能性があることを示すシグナルも多数発見されました」と述べています。
Zinc for the prevention or treatment of acute viral respiratory tract infections in adults: a rapid systematic review and meta-analysis of randomised controlled trials | BMJ Open
http://dx.doi.org/10.1136/bmjopen-2020-047474
NICM HRI | Zinc shown to prevent symptoms and shorten duration of common cold and flu-like illnesses
https://www.westernsydney.edu.au/nicm/news/zinc_shown_to_prevent_symptoms_and_shorten_duration_of_common_cold_and_flu-like_illnesses
New Study Reveals Zinc Really Might Help Treat a Cold, But There’s a Catch
https://www.sciencealert.com/zinc-is-back-in-the-light-as-a-potential-for-treating-respiratory-infections
今回メタアナリシス分析の対象となった論文28件は英語ないしは中国語で書かれたもので、総計すると被験者は成人5446人。いずれもウイルス性呼吸器感染症の予防ないしは治療を目的とした亜鉛製剤の投与に関するものですが、一口に「亜鉛製剤」といっても舌下薬・点鼻薬・トローチなど、投与経路については研究によって異なりました。
今回の研究で判明したポイントが以下。
・予防目的で亜鉛を摂取した場合、風邪に似た症状にかかるリスクは28%、インフルエンザに似た症状にかかるリスクは68%低下する。ただし、一般的な風邪の代表的な原因であるライノウイルスに意図的に感染させた場合は、4%の予防効果しかない。
・感染後の治療目的として亜鉛を投与した場合、症状の持続期間を約2日短縮し、症状のピーク期にあたる3日目前後の重症度を軽減する。ただし、全期間における症状の重さの軽減効果はほぼない。
・吐き気や口・鼻の炎症などの非重篤な有害事象のリスクは増加することが確認されたが、亜鉛の経口摂取によって引き起こされる銅欠乏症や亜鉛点鼻薬によって引き起こされる嗅覚喪失などのリスクは低かった。
亜鉛は欠乏するとT細胞などの獲得免疫の働きが低下して免疫不全が生じるという研究結果が存在することから、一般的に亜鉛の摂取は「亜鉛不足」の人にのみ効果があるとされるのが通例でした。しかし今回が分析対象となった研究はいずれも亜鉛不足の可能性が非常に低いグループないしは亜鉛不足の被験者を除外したグループで行われたことから、亜鉛の効果には一般性があると考えられるとのこと。
今回の研究について、筆頭著者であるウエスタンシドニー大学NICM健康研究所のジェニファー・ハンター准教授は分析の対象となった論文のうちいくつかは小規模だったり、被験者ごとに異なる量を投与していたり、報告内容にバイアスがあると考えられたりといった問題があると断っており、「臨床医と消費者は、さまざまな亜鉛製剤、用量、投与経路の臨床的有効性に関してかなりの不確実性が残っていることに注意する必要があります」「実験室で亜鉛から観測されるごくわずかな抗ウイルス効果が、現実の世界で、それもライノウイルスに対して適用されるかどうかについては疑問が残ります」と警告しています。
また、分析対象の論文では、それぞれの論文ごとに異なる投与方法が採用されていたため、「現時点では、点鼻薬・鼻用ジェル・トローチ・経口摂取のどの方法が優れているのを判断することはできません。ほとんどの試験でグルコン酸亜鉛または酢酸亜鉛の製剤が使用されましたが、それは他の亜鉛化合物の効果が低いことを意味するものではありません」とも述べました。
今回の研究には以上のように複数の注意点が存在しますが、ハンター准教授は「亜鉛製剤はウイルス性呼吸器感染症に対して不適切に処方される抗生物質に代わる存在になり得ます」とコメント。また、今回の研究は、研究開始当初は新型コロナウイルスに対する亜鉛の効果を調査するという目的がありましたが、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)単体と亜鉛の関連性を調べた論文はなかったため、既存の研究が複数存在したウイルス性呼吸器感染症を対象にしたという経緯がありますが、ハンター准教授は「他のウイルスに対して有効な治療法がCOVID-19に必ずしも効くとは限らないと判明しているので、今回の結果がCOVID-19にも適用できるとは言い切れません」と述べています。
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