eスポーツ への投資リターン。「結果」を求める欧米、「ブランド認知」を求めるアジア

DIGIDAY

2023年5月第3週の週末、世界中のチームが25万ドル(約3250万円)の賞金プールをかけて競い合う「リーグ・オブ・レジェンド(League of Legends)」の国際大会(Mid-Season Invitational、以下MSI)が、今年も幕を閉じた。この大会は、数少ない毎年開催される国際的なeスポーツ大会であり、世界中のeスポーツファンから多くの注目を集めている。

MSIは、ブランドにとって2つの大きなeスポーツ市場に同時に参入できるチャンスだ。しかし、それを目指すマーケティング担当者にとって、これらの離れた地域におけるファン層の大きな違いを理解することは極めて重要となる。そこで、米DIGIDAYはマーケティング担当者、eスポーツ担当役員、メディアバイヤーなど、さまざまな専門家に話を聞いてみた。

ウェーブメーカー(Wavemaker)のスポーツライブゲーム部門グローバルヘッドであるダン・コンティ氏は、「一律ではありえない」と述べている。「インドやオーストラリアと、アメリカやヨーロッパ、そのほかの市場では、まったく異なる」。

アジアのeスポーツファンは、競技の成功をより重視している

欧米では一般的に、業界のベテランが「リーグ・オブ・レジェンド チャンピオンシップシリーズ(League of Legends Championship Series)」や「オーバーウォッチ・リーグ(Overwatch League)」のようなフランチャイズリーグの下で行われるプロゲームを指して、「eスポーツ」と呼んでいる。しかし、これらのリーグは欧米のプロゲーマーたちのごく一部に過ぎず、一般的にはハイレベルなチーム戦よりも個人クリエーターに関心が高い。

eスポーツコンテンツ制作会社ウィプレイ・スタジオ(Weplay Studios)の最高事業計画責任者兼ゼネラルプロデューサーであるマキシム・ビロノゴフ氏は、「米国では、ほとんど誰もeスポーツに関心がなく、完全にインフルエンサー主導の市場だ」と述べている。「パーソナリティ、番組、そして競技ゲームといったものは、eスポーツではなく、ツイッチライバルズ(Twitch Rivals)のようなインフルエンサー間でのゲームであることが重要なのだ」。

一方でアジアでは、競争はキラーコンテンツと言える。多くのユーザーの支持を集めることができる数少ない個人インフルエンサーは、たとえば韓国のeスポーツチームT1のプレイヤー兼オーナーであり、「フェイカー」という名で知られるイ・サンヒョク氏のように、最も成功したプロ選手であることがほとんどだ。欧米では、勝利はeスポーツ組織が独自のブランドアイデンティティを確立するためのひとつの手段に過ぎない。アジアでは勝利が唯一の方法であり、アジアのeスポーツ組織と提携しようとするブランドは、この点に注意するのが賢明だ。

東南アジアのeスポーツメディア企業であるワンEスポーツ(ONE Esports)のCEOカルロス・アリムールン氏は、「これは相対的な違いであると強調することが非常に重要だ」と述べている。「東南アジアでインフルエンサーが重要ではないと言っているわけではない。インフルエンサーが重要なのは自明の理だ。私が言っているのは、重要度に違いがあるということだ」。

アジアのeスポーツオーディエンスは、欧米に比べて「バルカン化」している

欧米の競技ゲームファンは、リーグ・オブ・レジェンド、コール・オブ・デューティ(Call of Duty、以下CoD)、カウンターストライク(Counter-Strike)といったいわゆる「Tier 1」eスポーツと呼ばれるいくつかの主要タイトルを中心に動いている。たとえば、CoDは北米で人気があり、カウンターストライクはヨーロッパで人気があるなど、大まかな地域差はあるが、たいていの場合、アメリカの州やヨーロッパの国が違っても、eスポーツファンは同じコアゲームを楽しんでいると思われる。

アジアでは、このような圧倒的なeスポーツタイトルは存在しない。アジア諸国は近接しているものの、国同士の文化的・経済的な違いが大きい。そのため、アジアのeスポーツファンを獲得しようとするブランドは、それぞれの国でとくに人気のあるゲームについて学ぶ必要がある。包括的な解決策はないのだ。

「それぞれの国は、独自の焦点を持っている。シンガポールは一人当たりのGDPが高い国であり、ここで人気のあるタイトルはPCタイトルになりがちだ」とアリムールン氏は述べている。「海峡を挟み、数百キロ離れたマレーシアでは、モバイルゲームのモバイルレジェンド(Mobile Legends)が主流となっている」。

一般的に、欧米ではコンソールゲームが主流であるのに対し、アジアではモバイルゲームやPCゲームが人気の傾向にある。北米でもモバイルeスポーツの人気が高まっているが、市場ではまだまだニッチな存在だ。

アジアと欧米でKPIは異なることが多い

現在、欧米のマーケティング担当者はeスポーツの冬の到来を十分に理解しており、eスポーツパートナーシップの費用対効果について懐疑的な見方を強めている。その結果、欧米のeスポーツチームは、ブランド活性化に寄与したと証明することに重点を置くようになった。

これは、ブランド認知度により重点を置いているアジアのeスポーツ企業とは対照的である。ブランド認知度は、アジア諸国の文化的な要素におけるeスポーツの中心的な役割なのだ。

ウィプレイ・スタジオのCMOであるイリナ・チューハイ氏は、「北米市場にとって、結果が全てだ。ゲームコンテンツに投資したり、チームに協力したりすると、その成果を見たがる」。

アジアでは政府の方針がゲームに対して否定的なことも

アジアのeスポーツファンに向けて広告を出そうとするブランドは、この地域の政府によってゲームに課された制限に注意する必要がある。近年、ゲームがエンターテインメントの一形態として台頭するにつれ、アジアではゲームに対する否定的な見方が増えている。中国政府は子どもたちが1日に1時間以上オンラインゲームで遊ぶことを制限しており、インド政府は、ガレナフリーファイア(Garena Free Fire)などの人気ゲームを全面的に禁止している。

「私が言えることは、そういった方針にブランドは屈していないということだ。なぜなら、ミレニアル世代やZ世代の関心が今どこに向かっているかを知っているからだ」とアリムールン氏は述べる。「eスポーツは、参加者が安心して参加できるブランドセーフティな環境を作るために努力してきた」。

それでも、中国やインド政府のような行動は最近、ゲームやeスポーツの発展を公式な立場で支援する政策を決定したヨーロッパの政府とは、一線を画している。文化的な観点からは、eスポーツはアジアで巨大な影響力を持つ。しかし、欧米諸国はアジアに追いつくためできる限りのことをしているのだ。

「デンマークやスウェーデンのようなヨーロッパの国々は、eスポーツを血肉としており、国の政策によって人々がeスポーツをプレイしたり、eスポーツの知見を得たりすることができる」とチューハイ氏は述べている。「スウェーデンの首相がカウンターストライクをプレイしているのは知っている。このゲームの熱心なファンだ」。

[原文:Why brands should care about the differences between Eastern and Western esports audiences

Alexander Lee(翻訳:SI Japan、編集:島田涼平)

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