人々はなぜ、 TikTok で「衝動買い」をするのか?:博報堂調査から読み解くTikTokユーザーの3つの特徴

DIGIDAY

サービスというフレームの実態を形作るのは、ユーザーの動向だ。マーケティングチャネルとして、広告プラットフォームとして、国内外でその地位を確立しているTikTokにおいてもそれは同様だろう。

とはいえ、日々供給される膨大なコンテンツと、それを取り巻くユーザー像を捉え、TikTok上に構築されているエコシステム全体を把握するのは容易なことではない。そんなときヒントとなるのが、博報堂DYグループの共同プロジェクトであるコンテンツビジネスラボによる「コンテンツファン消費行動調査」だ。全国の15~69歳の男女約5000人を対象に、エンタテインメントやスポーツなど計11カテゴリのコンテンツに対する消費行動の実態を調査したもので、主要なプラットフォームにおけるユーザーの消費実態を把握することができる。

DIGIDAYによる2021年版コンテンツファン消費行動調査の取材では、同調査から導き出された平均年齢をはじめとするTikTokのユーザー構成にフォーカスしたが、2022年版の調査で注目したのは、コンテンツに対するユーザーの接し方を調査した「意識項目」から読み解いた行動特徴だ。コンテンツビジネスラボに所属する谷口由貴氏は、「興味がなかったものを急に欲しいと思う」「レコメンドを楽しみつつも、自分の好きなものを他者へおすすめもする」「好きなものを軸につながっていく」という3つが、TikTokユーザーならではの特徴だと指摘する。「この3つの特徴こそが、TikTok上での商品認知や情報共有、他ユーザーへのおすすめという、購買に結びつく独自のサイクルを形作っている」。

DIGIDAYは、DX推進プロジェクトチームであるhakuhodo DXDにも所属する谷口氏と、そのチームリーダーの入江謙太氏に取材を実施。調査から見えてきた3つの行動特徴を詳しく分析し、それらを踏まえて企業やブランドがTikTokをどのように活用していくべきかについて語ってもらった。

2022年の調査から見える数字

まずは具体的な数字から読み解いていく。今年度の調査からわかったTikTokユーザーの平均年齢は34.7歳で昨年度から大きくは変化しておらず、主要なSNSやプラットフォームと比較すると若年層比率がもっとも高いという結果も変わらなかった。だが、各年代の構成比率は昨年よりも全体平均に近づいており、マス化が進んでいる。

また、Twitterやインスタグラムなどほかの主要プラットフォームと比較すると利用者数は2019年以降増加し続けており、2019年と比較すると週1回利用者は4倍、月1回利用者は3倍に達している。

しかし今回のレポートで一番興味深いのは、意識項目の調査結果だ。コンテンツに対してユーザーがどのような気持ちで接しているのかを約200項目の質問から読み解くもので、TikTokユーザーと調査対象者全体平均で顕著な差が見られたものをTikTokユーザーの特徴としている。そこから見えてきたTikTokユーザーならでは3つの特徴が、「興味がなかったものを急に欲しいと思う」「レコメンドを楽しみつつも、自分の好きなものを他者へおすすめもする」「好きなものを軸につながっていく」だ。以下に事例を挙げながらこれらの特徴を詳しく読み解いていく。

「衝動買い」のトリガーは「出会い」と「体験」

SNSやプラットフォーム上のコンテンツでなんらかのアイテムに出会い、欲しくなった、購入したという経験はないだろうか。TikTokユーザーは特にその傾向が顕著で、意識項目の結果でも「動画コンテンツを見て、ふと欲しくなったものを購入したことがある」「今まで興味がなかったものを、急に欲しいと思うようになることがある」と答えた回答者が、全体平均の約1.7倍に達する。

TikTokユーザーは衝動買いをしやすい傾向にあると言える結果だが、その要因として考えられるのがTikTokのレコメンドシステムの特性だ。谷口氏も、「TikTokでは、ユーザーの潜在的な興味・関心に刺さるコンテンツが提示されるレコメンドシステムが確立されている。それが結果的に『衝動買い』のような行動を喚起しているのだろう」と指摘する。

加えてもうひとつの要因として谷口氏が指摘するのが、「体験」というキーワードだ。TikTokでしばしば見かけるコンテンツのひとつに、追体験型の店舗紹介がある。たとえばレストランであれば、入店から料理の提供まで一貫して自分の目線で見ているかのように展開される3分ほどのコンテンツだ。

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追体験型コンテンツの一例。スマートフォンのカメラ目線で店舗での「体験」が紹介される。

「これまでのSNSでは商品やサービスをただ紹介するものや、ビジュアルの追求が一般的だったが、TikTokでは『体験映え』とでも言えるような動きが見られる。利用することでどんな体験を得られるのか、を伝えるコンテンツがユーザーのニーズや興味・関心にマッチし、購買行動を喚起しているのでは」と谷口氏は推測する。

入江氏も「あくまでも動画での疑似的な体験ではあるが、程よい情報量で自分目線での追体験として受容しやすいのだろう」と指摘する。「結果として、自分も実際に体験してみたいと考え店舗を訪れたり、さらに同じ体験がTikTok上に投稿されることで、より多くの人に拡散していく。誰もがカスタマージャーニー追体験を共有できるシステムがTikTokにはあるとも言えるのではないか」。

レコメンドを楽しむだけにとどまらない、「推し活」マインド

TikTokというサービスを特徴づけるもののひとつが、独自のレコメンドシステムによる「おすすめ視聴」だろう。検索などをせずとも、ユーザー自身が思いもよらないコンテンツへ出会えることはもちろん、そもそもレコメンドがTikTokユーザーの大半を占めるZ世代のニーズにうまく合致した機能であることも大きい。

谷口氏によると、博報堂の「ミライの事業室」の調査でZ世代のユーザーは自分が詳しくない、苦手な領域の話題については、自分で調べるよりも専門家の考えや意見をクイックに入手しようとする傾向が見られることがわかっているという。意識項目でも「有名人・著名人が薦めるコンテンツを利用することが多い」と答えたユーザーは全体平均の約2倍に達している。Z世代のメディア行動については、知りたい情報だけ能動的に動き、トレンドは追いかけず見過ごす受動的なものになっているという指摘もあり、レコメンドがよりフィットしやすいと言えるかもしれない。

一方で、TikTokユーザーはただただ受動的にコンテンツを見ているだけというわけでもない。「自分自身も何らかの専門家(こだわりや好きなものがある、いわゆるオタク的な要素を持つ存在)であり、自分が好きなもの、よく知っていることは自分が率先して広げていこうという、いわば『推し活』意識も持っている」と谷口氏は分析。この特徴を「自分の『すき』を広げる」行動と表現する。

実際、TikTokユーザーのうち、意識項目で「自分が好きな作品を、幅広い人に薦めたい、または薦めている」「好きなコンテンツの画像や動画を自ら編集してSNSにアップしたことがある」と回答しているのは全体平均の約1.7倍となっている。多くのTikTokユーザーが自身の投稿を通して、自分の好きなものを積極的に他ユーザーにも薦め、自発的に「自分の好きを広げ」ているという。

入江氏は「TikTokは心理的安全性が高いプラットフォームであると感じているユーザーが多いのでは」と指摘する。「自分が好きなものを好きだと言っても否定されない環境であることは重要だ。TikTokではそれが実現できているように思える」。

「好き」でつながるプラットフォーム

さらに、こうしたユーザーの「好き」はただ投稿されるだけではない。同じものを好きだと感じているファン同士で語り合うのを楽しんだり、交流するという行動へとつながっているのだ。意識項目で「ファン同士で好きな作品について話し合うことがある」「ファン同士の交流を目的として、SNSのアカウントを作ることがある」と回答したTikTokユーザーは全体平均の2倍以上となっている。

これは前述した2つ目の特徴の延長線でもあり、自分の好きを発信した結果、それに共感した他ユーザーとつながっていくというサイクルを生み出している。「ユーザーによってコミュニケーションへのモチベーションは異なるとは思うが、たとえばコメント欄でもただ語り合うのではなく、情報交換に近いやり取りが行われている。動画だけではわからなかった情報や自分が把握していないポイントを、コメントで少しずつ解消していく。ここでのコミュニケーションが別の誰かへの後押しとなって、1つ目の特徴である『衝動買い』へとつながっていく」と谷口氏は話す。

つまり、ここまでに取り上げたTikTokユーザーの3つの特徴が、TikTokにおける認知、購買、共有のエコシステムを形作っているのだ。

谷口氏はコスメの購買を例に挙げ、このエコシステムを次のように紐解く。「他人が薦めているコスメにTikTok上で出会い、そのコスメを購入する。実際にコスメを使用し、レビューを共有するためTikTokに投稿する。その投稿に対して共感する人が集まり、コメント欄で交流する。そしてその投稿が、また次の人の購入を後押しするというサイクルがTikTok内に存在している」。

TikTok広告をいかに活用するか

では、今回読み解いた3つの特徴を踏まえて、ブランドはTikTokをどのように活用していくべきだろうか。谷口氏は「TikTokは好きなものを共有し、本音を語る場所。企業の投稿もUGCに混ざるため、企業にも本音が求められる」と話す。「UGCのコンテンツのなかに広告然としたコンテンツが出てくるのは、ユーザーにとって受け入れにくいだろう」。

またTikTokは、「体験」が知れるプラットフォームであり、その商品・サービスが自分に何をもたらすのか実感を持って知ることができる場でもある。そのため、ユーザーには「動画を見た先にどんなおもしろい体験が待っているのか」を感じさせるコンテンツが求められるという。さらに、TikTokユーザーは自分の知らない領域において、プロフェッショナルの声を参考にしたいと考えている。「ユーザーに『参考にしたい』と思わせることが重要だ。ブランドもまた特定の事業領域におけるプロフェッショナル・専門家であり、そのようなコンテンツを提供できるポテンシャルはあると考えている」。

入江氏は、自分ですら気づいていなかったニーズを明らかにするTikTokのレコメンド機能に着目し、ポテンシャルターゲットにリーチできるプラットフォームだと指摘する。デジタル広告におけるターゲティングはすでに顕在化されたターゲットやニーズにコンテンツを届ける仕組みだ。一方でテレビCMであれば、ターゲットではないオーディエンスにコンテンツが届き新規顧客を獲得する可能性があるが、その確度は高いとは言い難い。「TVのような広いコミュニケーション、デジタル広告のターゲティング、その中間にいるのがTikTokというイメージだ」。

さらに入江氏は、ユーザー特徴が織りなすエコシステムそのもののユニークネスも注目すべきだという。「TikTokにおけるエコシステムは、従来マーケティングにおいて広告やメディアを駆使して実現しようとしていた、認知から購入までのファネルの動きそのものだ。それがユーザーの自発的な動きによって成立しているのはとても興味深い。そうした意味でも、ブランドにとって無視できない存在だと言えるだろう」。

入江 謙太 hakuhodo DXD チームリーダー

マーケティング/クリエイティブ/デジタルを統合したコミュニケーションプラニングの知見と、広告を超えた新しいサービス開発の知見をかけ合わせ、企業や事業やブランドの成長に貢献。日本マーケティング大賞、ACCグランプリ(マーケティング・エフェクティブネス部門)、モバイル広告大賞、東京インタラクティブアドアワード、カンヌ、アドフェストなど受賞。

谷口 由貴 hakuhodo DXD / コンテンツビジネスラボ

2017年博報堂入社。同年より研究開発局にて研究員として若者研究やARクラウドを用いたサービス開発に従事。また、コンテンツビジネスラボのメンバーとして、エンタメ領域のコンテンツ消費行動研究を行い、音楽分野担当として音楽ヒット分析等を行っている。2020年よりマーケティングプラナーとしてサービス開発などの戦略立案やアクティベーション・企画を行う。2022年よりhakuhodo DXD所属。

Written by 分島翔平 & 黒田千聖

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