Amazon、プライム会員の特典強化で解約抑止へ:ウォルマートなど競合サービスの急伸に対抗

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Amazonは、成長の維持が困難と予測される今年のホリデーシーズンを前に、自社のプライム(Prime)サービスに新しい特典を加えようとしている。

同社は11月1日、プライムのサブスクライバーが無料でアクセスできる広告なしの曲とポッドキャストの数を増やした。1日時点で、プライムの会員は1億曲にアクセスできる。これまでの局数は200万曲で、これは有料のストリーミングオーディオサービスで通常提供されるカタログ全体と同程度の数だった。「当社は顧客のためにイノベーションを続け、プライムの会員がすでに享受している利便性と価値に加え、さらに多くのエンターテイメントを提供していく」と、Amazonミュージック(Amazon Music)のバイスプレジデントを務めるスティーブ・ブーム氏はプレス発表で述べた

小売アナリストは、Amazonが、ウォルマートプラス(Walmart+)やベストバイトータルテック(Best Buy Totaltech)など、急速に新規顧客を獲得しようしている競合他社のほかのサブスクリプションサービスに、多くのホワイトスペースを作らないようにしていると語る。シアトルを拠点とする大手テック企業であるAmazonは、ホリデーシーズンを目前に控えて将来の厳しい課題にも直面している。

ピュブリシス(Publicis)の最高コマース責任者を務めるジェイソン・ゴールドバーグ氏は次のように米モダンリテールに語った。「Amazonは、ほかの小売業者が同様のプラットフォームモデルに真剣に取り組むにつれて、競合を余儀なくされている。同社はプライムプログラムで引き続き成長を見せることを望んでいるため、新しい顧客を引き入れるために新しい特典を加える必要を感じたのだろう」。

競合他社の急速な伸び

Amazonは2022年4月、株主への手紙で、プライムサービスの会員が2億人を超えたと明かしている。「Amazonはすでにプライムの普及度が極めて高いため、新たなプライム会員の獲得はますます難しくなってきているようだ」と、同氏は述べている。

ライバルのウォルマートも同様の戦略を推し進めており、ウォルマートプラスの会員向けにパラマウントプラス(Paramount+)の無料サブスクリプションを9月に追加した。ウォルマートは、会員特典以外にも、ウォルマートプラスの顧客に、アイテムをより早く届けることに取り組んでおり、同時に店舗で処理する注文の数を大幅に増やすことで配送コスト削減をめざしていると、第2四半期の決算発表で語った。ウォールストリートジャーナル(The Wall Street Journal)が引用したモーガンスタンレー(Morgan Stanley)の世論調査によれば、ウォルマートのウォルマートプラスサービスは推定で1600万人の加入者が存在する。「アカウント総数は昨年より9%増加しており、プラス会員の普及率は上がり続けている」と、ウォルマートの最高経営責任者を務めるダグ・マクミロン氏は決算発表で語った。Amazonは4月以降、プライム会員数の増加について公表していない。

「Amazonは圧倒的首位にいるものの、ウォルマートプラスやベストバイの「トータルテック」といったプログラムが急速に進化し、急速に新規顧客を獲得していることは事実であり、Amazonはこれらの他社に対して多くのホワイトスペースを生み出したくないと考えているはずだ」と、ゴールドバーグ氏は述べている。

ベストバイは昨年、年間サブスクリプションサービスであるトータルテックを199.99ドル(約2万7800円)で開始した。このサービスでは会員限定割引、無料配送、商品の保護、テック商品の標準インストールに加え、無制限の技術サポートを受けられる。「マクロ環境と、当社商品の売上減少のなかで、新しい会員の獲得ペースに勇気づけられている。第2四半期にプログラムに加入した新規会員の半分近くは新規顧客または休眠顧客であり、これは、このプログラムの価値が、既存のロイヤルカスタマー以外にも共感を呼んでいることを示している」と、ベストバイの最高経営責任者を務めるコーリー・バリー氏は、8月に行われた同社の直近の第2四半期決算発表で語った。

消費者が解約する2つの理由

Amazonは、Amazonミュージックのカタログを拡充したほか、今年は、プライムエコシステムの会員維持のために、サードパーティーの小売業者からの当日配送特典を新たに追加した。8月には、パックサン(Pacsun)、ジーエヌシー(GNC)、スーパードライ(Superdry)、ディーゼル(Diesel)などの小売業者と提携し、10都市以上の特定の郵便番号の地域で、プライム会員に即日配達を行うと発表した。7月には、グラブハブ(Grubhub)と契約を結び、一部のレストランでプライム会員の配送料を免除することになった。

調査会社ガートナー(Gartner)のマーケティング実践ディレクターアナリストを務めるブラッド・ジャシンスキー氏は次のように述べている。「プライム会員向けにAmazonミュージックのカタログを拡充するなどの特典を追加することで、プライム会員がサブスクリプションを続ける理由を増やすことができる。消費者はインフレへの対処に悩まされるなか、コストを切り詰める場所を探している。そして、プライムなどのサブスクリプションの解約は、切り詰めの対象として選ばれる場所のひとつとなる」。

ガートナーの調査から、消費者がサブスクリプションを解約する大きな理由は、サブスクリプションのコストと、使用頻度の低さの2つだと明らかになっていると、ジャシンスキー氏は語る。そこで、プライムの主な特典である無料配送と会員向け価格に加え、Amazonミュージックやプライムビデオ(Prime Video)などの特典を加えることで、消費者がAmazonプライムを使用する頻度を上げることができると、同氏は説明している。

ライフスタイルにより密接に

つまるところ、プライムの会員プログラムは単なるショッピングプログラムや配達プログラムの枠を超えたものへと進化しつつある。これまで、プライムの主要な特典は、商品の迅速な配送であり、同社の中核であるeコマースビジネスの成功に大きく貢献してきた。しかし最近になって戦略を転換し、会員のメディア消費の習慣とリンクした、よりソフトな機能と特典を作り上げようとしている。

「Amazonが追加している特典は、消費者のライフスタイルにアピールするものへと変化しつつあり、必ずしもショッピングだけに限ったものではない。同社は家族のライフスタイル全般に密接した特典をさらに追加しようと試みている。これは、より多くのコンテンツ消費、利便性、驚きと喜びの瞬間を意味するものだ」と、ゴールドバーグ氏は述べている。

[原文:Amazon Briefing: Why Amazon is boosting Prime subscription perks]

VIDHI CHOUDHARY(翻訳:ジェスコーポレーション、編集:戸田美子)
Image via Amazon

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