ライゾマティクス真鍋大度が共感するSonosのサウンドデザイン

GIZMODO

新世代のワイヤレスオーディオを牽引するSonos。そのカリフォルニア・サンタバーバラ本社を取材した際、Sonos新製品発表のパネルディスカッション(テーマは空間オーディオの未来)に参加する真鍋大度氏と同行し、現地インタビューを敢行することができました。

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Photo: Kazumi Oda
音楽プロデューサーたちによるパネルディスカッションのようす。 (左から2人め以降)ジャイルズ・マーティン(ビートルズ、ローリングス・トーンズ、ポール・マッカートニー)、マニー・マロクイン(リゾ、カニエ・ウェスト、リル・ナズ・X、パラモア)、エミリー・レイザー(フォール・アウト・ボーイ、ティーガン&サラ、フー・ファイターズ)、テラス・マーティン(スヌープ・ドッグ、ケンドリック・ラマー、トラヴィス・スコット)、真鍋大度(ビョーク、オーケー・ゴー、スクエアプッシャー)

かれこれ2カ月間ほどの前の話ですが、インタビューの際に彼がSonosの新製品が対応する空間オーディオについて、カフェや商業施設などにSonosを導入するアイデアを語っていたのが印象に残っています。

Sonosとは関係なく至って個人的な感想で恐縮ですが、このインタビュー後に帰国して程なく、アカデミー作曲賞を受賞されるなど、世界的な功績も多大な坂本龍一氏が逝去されました。そして様々な媒体で報じられる中で、坂本龍一氏が通われていたNYの飲食店の選曲とスピーカーのチョイスを自ら申し出てサポートしていたエピソードを取り上げているメディアがありましたが、それと真鍋氏の空間オーディオのアイデアが自分の中でどうしても重なってしまうところがありました。

真鍋氏自身、生前の坂本氏をメディアアートやテクノロジー、ビジュアルオーディオの領域からサポートし続けていた関係値も勿論あります(真鍋氏のバイオグラフィーに坂本氏の名前があがるたび、各国の記者が驚嘆していた)。

両人とも、音響とテクノロジーの関係、サウンドデザインについて大きな知見と先見性を持つクリエイターでありエンジニアです。そんなことを考えながらこのインタビューを読み直すと、真鍋氏と坂本氏のコラボレーションがもっと続いていたらどうなっていただろうか、というまた一つ違った想いが湧き起こります。

まだ整理はつかないものの、これからの音楽とオーディオビジュアルの未来について、僕たちギズモードもその行く末を見続けていきたいなと強く感じたパネルディスカッションでもありました。

製品の背景にカルチャーが感じられる

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Image: Sonos

──今回はサンタバーバラのSonos本社まで一緒に足を運びましたが、オフィスに入ったらいろいろなミュージシャンのパネルが貼ってあるんですよね。伝説のヒップホッププロデューサーのリック・ルービンが瞑想している写真。あれが一番目立つところにあって「おおっ!」となりました。

真鍋:あの写真を選ぶセンスがいい。本当に音楽好きな人たちがやってる会社なんだなってのがよくわかります。

──リック・ルービンもSonosのスピーカーの愛用者なんですよね。Sonosは世界中のカッティングエッジで先端的なアーティストとも多くリレーションしています。

今日のトークセッションにもジャイルズ・マーティン(ビートルズのプロデューサー、ジョージ・マーティンの息子。Sonosのサウンドエクスペリエンス部門責任者でもある)が参加していましたけど、ビートルズって空間オーディオ以前の音楽ですよね。でも、そういう歴史的なアーティストたちをリスペクトして、ちゃんと今でも関係性を保っているんだなと実感しました。

真鍋:この会社のスタッフって、みんなミュージシャンたちと対等に音楽の話をできるのがすごい。みんな本当に音楽に詳しい。だから製品の背景にちゃんとカルチャーが感じられるんですよ。単なるスピーカーという製品を売るだけではなくて、音楽のカルチャーやコミュニティーを大事にしている。それはいろんなスタッフと話してみて実感しました。

ストレンジな手法から新たなジャンルが生まれる

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Photo: Kazumi Oda
瞑想するリック・ルービンの写真。Def Jam Recordingsの創始者で、ヒップホップのみならず数多くのアーティストのプロデュースを手掛ける。

──あと、スタッフもすごくプライドを持っていて、職人的な意識が高いですね。真鍋さんがSonosのプロダクトに出会ったのはいつごろですか?

真鍋:自分のスタジオで音を聴いたのは去年の8月ごろかな。Sonosのプロジェクトをノサッジ・シングとUAと一緒に手がけたのがきっかけで、Sonosのプロダクトで音楽を聴く環境を手に入れました。実際に音を体験するとクオリティが高くて、モニターではなく普段のリスニング環境でこういう音を体感したいアーティストって絶対多いだろうなと感じました。

──まだ空間オーディオのフォーマットがなかった時代から音楽を作っている真鍋さんからすると、Sonosの環境で作った音のクオリティをエンドユーザーにどう届けるかっていうのが、一番気になる部分なんじゃないですか?

真鍋:作品を最終的にLとRのステレオにミキシングするときって、今まではとにかくどう音の引き算をするかの勝負だったんです。全部の音をステレオの2chには詰め込めないので、どの周波数帯域を削っていくかの試行錯誤をずっと続けてきたんですが、そういう作業を体験してきたアーティストが空間オーディオの環境を手に入れたら、今までの煩わしさから解放されるなって思いますね。

ちょっと具体的な話をすると、例えば音圧を揃えるコンプレッサーってエフェクターがあって、それを使ってキックとベースのグルーブを作る。キックのタイミングに合わせてベースや上ネタの音圧が変わることでウネリが生まれるんですが、それってやっぱりLとRのステレオだから気持ち良かったりするんですよね。ステレオの音源をDolby Atmosなどの空間オーディオにすると、もともとあった低域が失われちゃう。ノサッジ・シングと作業している時に、空間オーディオのミックスにしたらステレオの時に存在していたフレーバーがなくなってしまった、みたいなこともありました。

だからジャンルによっては空間オーディオよりステレオの方がいいってこともあるし、ステレオに音を詰め込んだことで適度な歪みが生まれて、それが気持ち良かったりもするんですよ。フライング・ロータスや、J・ディラみたいなヒップホップがそうですよね。

従来の考え方ではそれは間違った機材の使い方なんだけど、それがカッコいいってことになるとむしろそっちが主流になって、ジャズなどほかのジャンルの人も真似するようになる。それと同じように、空間オーディオならではの新しい変な使い方が出てくるかもしれない。

──それって今のAIに対する人々の反応に近いですよね。AIですごくシリアスに世の中が変わっちゃうことはともあれ、どれだけ面白いことが起きるのかって期待もあるんですが、空間オーディオもそういうのにちょっと近いのかな。

真鍋:今はAIが黎明期で社会的な影響力が強すぎるっていうのもありますけど、同じような期待はありますね。スクエアプッシャーやエイフェックス・ツインみたいなテクノのアーティストが、ドラムマシンやシーケンサーなどの機材を本来あり得ない使い方をして、IDMってジャンルが生まれた。AIも空間オーディオも誰かが変な使い方をして、それがまた新たなジャンルを生んだりするかもしれない。

──真鍋さんは映像演出も含めてステージを俯瞰して見ているので、イマーシブな(没入できる)コンテンツとして空間オーディオと映像との絡みもいろいろ実現させてくれるのではないかって期待感があります。

真鍋:僕はライブの表現でも臨場感みたいなことよりは、現実では絶対こんなのありえないって方向に行きたいんですよ。

あと視覚に頼らずに、音だけでステージがどう感じられるかということにも興味がある。例えば空間オーディオを使えば、目の不自由な人にも現実にはない新たな世界を音像で体感してもらえるかもしれないですよね。

──音による新たな視覚体験みたいな?

真鍋:そうですね。たとえば目の不自由な人たちは、例えばこの5m先に壁がありますってことも、音の反響などで感じ取っていると思う。自分のなかでは目を閉じて音楽聴いたときの体験を映像に変換してイメージしたり、根本的なテーマとして視覚と聴覚の関連性があります。

今までだとそれを体感するためには、スタジオなどのいいスピーカーのある環境じゃなければ没頭できなかったんですが、Sonosのスピーカーを使うことで、自宅のオーディオでもある程度楽しめるようになると素晴らしいと思います。

Sonosには無駄なものがない

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Image: Sonos

──実際にSonosのスピーカーをテストしてどんな印象を持ちましたか?

真鍋:スタジオにはもっと大きなスピーカーを置いているんですが、自宅に置けるこのサイズで、これだけのサウンド体験ができるのはすごいことだと思います。リビングに置いて、ふだんリスニングに使うのにちょうどいい感じ。行きつけのバーやカフェに置いてもらえれば気持ち良く音楽が聴けますよね。あとワイヤレスで管理できるのも便利ですよね。設置コストも低いし、日常生活に簡単に取り込めます。

──Sonosはアプリの評価も高いですね。

真鍋:ワイヤレスのヘッドホンやスピーカーって、メーカーによってそれぞれアプリが出ていて、それぞれ本当に特徴がありますよね。メーカーによっては、使っていてなんだかスムーズじゃないなってものもある。でも、Sonosのアプリはユーザー体験、ユーザーインターフェース(UI)もすごく洗練されていて、使っていてストレスがまったくなかったですね。

シンプルに作るってとても難しいことなんですよ。Sonosには設計思想の根本に、引き算の美学みたいなものがあるんだろうなという気がします。アプリにしても製品自体のデザインにしても、足していったら情報量は増えるけどどんどん使いにくくなる。Sonosは無駄なものがないっていう印象を受けますね。

──製品デザインもエンジニアリングの意見が優先されていて、意味のないデザインにはなっていない。

真鍋:そうですね。機能ありきのデザインになっているし、無駄な装飾みたいなものは排除してますよね。だから僕のライフスタイルには合うんですよ。家でもできるだけモノを少なくしたい感じなので、こういうデザインのスピーカーは好きです。

僕の祖父の家にはJBLの4350って巨大なモニタースピーカーがあって、小さな頃から音楽や効果音を大音量で体験していたのですが、Sonosの小さなスピーカーシステムでもかなり迫力ある音響体験ができるんですよね。ちょっと前までは、スピーカーって大きい方がえらいみたいな感じだったけど、今は小さくてもこれだけ鳴るのかって感じます。

──ちょっと高級感がある音ですよね。

真鍋:ブランディングもうまいんだと思います。僕のミュージシャンやDJの友達ってLA在住が多いんですが、実際にリスニングで使っているスピーカーがほとんどSonosなんですよね。最初はもちろんメーカー側の宣伝やマーケティングで普及していったと思うけど、いつからかみんな自然にSonosを買っている感じ。みんな称賛するし、ミュージシャンやクリエイターからの信頼はすごいですよ。

──あと、Sonosってサウンドロゴが面白いですよね。

真鍋:あれ、フィリップ・グラス(ミニマルミュージックの巨匠アーティスト)が作ってるんでしょ? その辺のセンスもさすがだなって思います。ボーカルや楽器がどうきれいに聴こえるかって、すごく大事にしてるんだなっていうのはメーカーの思想として感じますよね。そういう思想のもとにフィリップ・グラスが手がけているんでしょうね。

──真鍋さんの今後の活動としては?

真鍋:ブライアン・イーノがやっているような映像的な音楽を作ってみたいですね。あとカフェでジェネレイティブミュージックを流したりというのはちょっと興味あります。

──Sonosってカフェでジェネレイティブミュージックを流すような用途に合っていそうですね。

真鍋:絶対に最適ですね。Sonosってマイクを内蔵しているし、ネットにもつながりますからね。だからスピーカーなんだけどセンシングデバイスでもあるんですよ。音を出すだけでなく情報のインプットも可能なので、アプリと組み合わせて周囲の情報から音を生成したり、新しい使い方もできそうですよね。

ああ、そういえば基調講演でも、Sonosの空間オーディオをカフェとか商業施設で利用したら面白いってことを言うのを忘れてましたね。実際に空間オーディオの音素材を作るところからパッケージでやってみたいぐらいです。

──それ面白いですね! プロジェクトになったら、ギズモードもご一緒したいところです(笑)。

Source: Sonos

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