メディアエージェンシーが、プログラマティック広告が普及したことで失った影響力があったとしたら、その力は再び復活しつつあるようだ。
プログラマティック広告が持つ、オープンでありながらも複雑な市場が抱える問題が、その流れを生み出している。
混乱に秩序をもたらせるか
プログラマティック取引はマンネリに陥っている。買い手側は、オークションを行うことにはお金がかかるため、その数を減らしたい。売り手側は、利益が得られるため、できるだけ多くのオークションを運営したいと考えている。
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プログラマティックの市場は、極度にオープンであるが故に、低品質かつ時に虚偽的な性質の広告在庫に悩まされている。アドテック・セラー、広告在庫、ウェブサイトをキュレーションすることができ、上記の問題がないようなより安全なスペースを(プログラマティックにおいて)持つことができたら、というのが広告主たちの願いとなっていた。
そこで、メディアエージェンシーの役割が生まれている。
彼らは混乱に秩序をもたらそうとしている。公平を期すために言うと、彼らは長らく、努力してきた。信頼できるマーケットプレイス、サプライ経路の最適化、カスタム入札アルゴリズムの出現がその証拠である。しかし、ある程度までしかうまくいかなかった。結局のところ、エージェンシー側ではプログラマティックで購買力をそれほど集めることしかできなかった。しかし、それはゆっくりと、しかし確実に変わりつつある。
ギブ・アンド・テイク
この変化はゆっくりと進行している。アドエージェンシーが(クライアントの)広告支出を、少数のアドテックベンダー、すなわちサプライサイド・プラットフォームと呼ばれるプログラマティック市場に集約し始めた数年前に始まった。変化は着実に進んでいる。以前、エージェンシーたちは彼らが持つ購買力を使って、数量ベースの割引を交渉することを目的として取り組んでいた。現在見られているような統合は、そのような意味での在庫のコントロールを与えるものではない。
「購入する先のSSPの数を統合しようとしているエージェンシーはまだあるが、多くのエージェンシーはその先に進んでいる。SSPツールを使用してプログラマティック在庫をどのようにキュレーションするかを検討している」とアドテックベンダーのパブマティック(PubMatic)のアメリカ事業の最高収益責任者であるカイル・ドーズマン氏は述べた。
大手メディアエージェンシーはパブマティックのようなアドテック企業に対し、オープン・オークションで良い在庫と悪い在庫を分離するために自分で使えるツールの作成を求めている。これは、アドテックベンダーがこれらの市場のキュレーション、アクティベーション、管理に関与しないことを意味する。
彼らは単に、エージェンシーが望む、広範な在庫全体でそれを行うためのツールを提供するだけである。要するに、最大手のエージェンシーが価値を見出すようなプログラマティックの市場を、SSP自身が作ろうとする時代は終わりつつある。
混雑し、コモディティ化しているプログラマティック
「私たちは、広告エージェンシーの(プログラマティック広告提供の)サービス強化を助けてきた。と同時に、パフォーマンスを向上させ、広告主の作業を削減するのに役立つ、独自のマーケットプレイス・ソリューションを構築しながら、クリーンでより直接的な広告サプライ経路をサポートしてきた」とアドテックベンダーであるアドフォーム(Adform)の英国マネージャーであるフィル・アクトン氏は述べた。
「これにより、エージェンシーは透明性を高め、自ら積極的に特定のクライアントのニーズに合わせて最適化できるサービス層を構築できる」。
もちろんまだ変化としては初期の段階だ。とはいえ、エージェンシーの今後がこれらの取引の成果に大きくかかっていることはすでに明らかである。プログラマティック分野はすでに混雑し、コモディティ化している。エージェンシーによる取り組みが成功するかどうかは、この分野における差別化戦略がうまくいくかにかかっている。失敗すれば、この分野においてエージェンシーはさらにその役割を失うことになるかもしれない。
そもそも、プログラマティック業界では、わかりやすい指標と、妥当なレベルの結果を獲得するために最も簡単なルートを辿ることで成果を上げる傾向にある。そのような業界で顧客に価値を示すことがいかに難しいかを考えると、これは簡単な取り組みではない。
エージェンシーの柔軟性
それでも、非常に順応性が高いのがエージェンシーだ。
オムニコム・メディア・グループ(Omnicom Media Group)のデジタルアクティベーション担当マネージング・ディレクターであるライアン・ユゼイニオ氏は、「十分な市場情報を持った人物がサプライ側でキュレーションを行い、デマンド側が購入できるように在庫をパッケージ化するニーズが存在する」と述べている。「最近、エージェンシーがこの分野に参入してきたのは、在庫を購入しようとする実際のエンドクライアントと非常に近いからだ。彼らの目標を念頭に置いてキュレーションしている」。
この規模でのキュレーションは難しい。エージェンシーは、サプライサイド・プラットフォームの在庫をキュレーションしようとしているだけではない。キュレーションされた在庫による、独自のサプライ・パイプラインも作成している。これを成功させるには、データサイエンスにおける専門知識、製品エンジニアリングの知識、人工知能、機械学習の入札アルゴリズムをある程度組み合わせる必要がある。さもなければ、間違った方法で間違ったデータが収集され間違った結果を生む原因となり、利益よりも害の方が大きくなるだろう。
オムニコムのようなエージェンシーが、すでに数年前からこの種のオークション・パッケージに取り組んでいるのも不思議ではない。これは多くの要素が動く中で、完成へと近づけていかなくてはならない大規模な事業である。
例えば、顧客のために、キュレーションするための在庫に「ガードレール」のようなものを設定しなければならない。しかし、そのある種哲学的な要件を満たすために必要なデータを精査し、収集し、処理するための専門知識と技術がなければ、それを実現することはできない。その場合でも、このような巨大で複雑な事業を運営するコストを削減するための商業的な影響力をエージェンシーが持っている場合にのみ、これは理にかなっている。この種の取り組みには前提条件があるのだ。
「我々の在庫グラフを通しての広告購入で、一つのサイトだけで、300×250の広告ユニットを購入する方法が1400種類以上ある。しかも、これは1月に限った話だ」とユゼイニオ氏は言う。「これらすべての前提条件が整っていない状態で、このキュレーションを実行しようとすると、長期的には有益ではない短期的な最適化を行うリスクがある」。
鍵を握るSSP
ここまでの話で明らかな点だが、SSPがこれらの計画の鍵となる。DSPよりも在庫に関するデータが多い。データが多ければキュレーションが良くなり、マーケターはオープン・オークションで購入する必要が少なくなる。これは一朝一夕には起こらないのは明らかだ。しかし、透明性を高め、サードパーティーのクッキーを使わないリッチなデータを提供する必要性が高まったことで、この機能はさらに強化されるだろう。この二つのニーズはお互いに異なる性質だが、どちらもエージェンシーがプログラム広告の供給側に近づくことを前提としている。
例えば、ホライズン(Horizon)は自社のブルーID(Blu.ID)識別子を直接統合する最初のプログラマティック広告パートナーとして、売り側のプラットフォームであるオープンX(OpenX)を選んだ。これによって、同社のマーケターたちが取引を通じて自社データセグメントを活用できるようにするためのものである。
オープンXのセールス担当シニア・バイスプレジデントであるマット・サッテル氏は、「これは間違いなく市場の変化である。広告主がより大きなコントロール、透明性、パフォーマンスを達成できるように、パブリッシャーに隣接したターゲティング機能を獲得すべくサプライ側に目を向けていることを示している。サプライサイドは、(それぞれのパブリッシャーが抱える)自社データと彼らが好む識別子とのより深い統合を通じて、買い手側が持つコントロールへの欲求を満たし、また偏った選別ではなく、データ駆動型の取引へと移行させている。このことは、元々プログラマティック取引が業界に対して約束していた内容だ」と述べた。
[原文:‘A shift in the marketplace’: Media agencies’ influence over programmatic is growing]
Seb Joseph(翻訳:塚本 紺、編集:分島翔平)