「2023年の 広告事業 は、テレビと動画に大きな期待を寄せている」:ブルームバーグメディア CEO スコット・ヘイヴンズ氏

DIGIDAY

米DIGIDAYはブルームバーグメディア(Bloomberg Media)のスコット・ヘイヴンズCEOにインタビュー取材をおこない、景気低迷に逆らって海外展開を拡大するための戦略や、動画事業が利益の大きいセーフティネットとして期待される理由などについて話を聞いた。

  • ブルームバーグメディアの2022年の総売上高は前年比約16%増
  • 有料会員数は2022年に前年比約20%増の45万人に到達
  • ヘイヴンズ氏は次のようにコメントしている。「動画広告はジェット気流並みの勢いで成長している。景気が減速しているときこそ、正しい投資先を見定めなければならない。広告主はデジタルと動画の予算を大きく減らすつもりはないようだ」

昨年、ブルームバーグメディアは、英国メディアとの正面対決を皮切りに、さらなるグローバル展開をめざすという強気の発表をおこなった。グローバル化の計画や宣言を発した直後、メディア業界や広告業界は景気減速という逆風に見舞われたが、スコット・ヘイヴンズ氏によると、ブルームバーグメディアの国際化という野心的な計画が立ち止まることはなかった。

確かに、2022年は2021年ほどの大幅な売上増には至らなかった。ヘイヴンズ氏によると、最終的な数字はまだ出ていないが、当期の売上は20%増程度にとどまるようだ。下半期に広告が振るわず、その影響がもっとも大きかったという。それでも、「支出や投資の水準を下げることはなかったし、現時点でそのような想定もしていない」と同氏は語った。

ヘイヴンズ氏によると、新年度に向けてブルームバーグの英国版を立ち上げ、グローバル化の青写真を描きたいとしており、編集各部はローカルコンテンツの作成に注力するという。さらに、動画コンテンツの吹き替えや、スペイン語、日本語、ドイツ語などへの記事翻訳は、通常は現地メディアとのライセンス契約を通じておこなう作業だが、AIその他のテクノロジーを活用して迅速化を図るという。

国際的な事業拡大に加え、ヘイヴンズ氏はテレビとデジタル動画への投資にも意欲的だ。特にほかのメディアへの広告予算は削られる傾向にあり、テレビとデジタル動画をテコに広告事業の強化を図りたいとしている。

インタビューの内容は、分かりやすく読みやすいように若干の編集と要約をおこなっている。

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――2022年の業績は? 下半期は景気減速に見舞われたが、広告の売上増は達成できたのか?

順調な年だった。売上増はざっと16%。広告事業に関する限り、上半期は下半期より誰にとっても確実に好調だった。下半期もかろうじてプラス成長を維持できた。支出や投資の水準を引き下げたわけではないし、当面、引き下げるつもりもない。現在の戦略を積極的に進めれば、2023年も同程度の成長率を期待できると確信している。

昨年下半期は成長率が著しく下落した。支出の減少はなかったが、成長率は落ちた。広告予算の消化状況を見る限り、第1四半期末までこの状況が続くように思われる。

2022年の第1四半期は非常に好調だった。いまのところ、昨年の第1四半期ほどの好調ぶりではないが、これからさらに上向くだろう。まだ9日目なので予測は難しいが、この1週間は非常に好調だった。直近2週間ほどの広告枠販売も堅調だ。私の見る限り、現時点で財布の紐が締められる兆候は一切ない。

――2023年、広告事業でもっとも期待できる分野はどこか?

テレビと動画に大きな期待を寄せている。我々はOTTとCTVのふたつのネットワークを持っている。ブルームバーグテレビジョン(Bloomberg Television)とブルームバーグクイックテイク(Bloomberg Quicktake)だ。それぞれの運営体制を刷新し、新しい人材を採用しているところだ。近日中に、俳優のカル・ペンと数学者のハンナ・フライがそれぞれホストを務める新番組がスタートする。ほかにも大きなプロジェクトがいくつかある。

短編のTikTokからもっと長尺のYouTube、あるいはストリーミングまで、アテンションの向かう先は明らかに動画だ。そしてテレビの予算は桁外れに大きい。従来型のテレビの予算はCTVよりもはるかに巨額だが、NetflixやAppleらが参入すれば、誰もが本気になるだろう。この動きは今後ますます加速する。

そして我々のように、すでにふたつのネットワークを展開し、この数年をかけてあらゆる通信事業者、あらゆるプラットフォームに事業拡大の足がかりを作ってきたなら、かなり有利な位置づけにあるはずだ。これも、私が動画事業に楽観的な理由のひとつだ。動画広告はジェット気流並みの勢いで成長している。落ち目の活字広告で競争するつもりはない。景気が減速しているときこそ、正しい投資先を見定めなければならない。広告主がデジタルと動画の予算を大きく削ることはないだろう。減らすなら、それ以外のメディアの予算だ。

――経済が広告事業に与える影響を考慮して、大きな目玉イベントや新しい製品の投入を下半期に先送りする考えはあるか? 営業チームにはスポンサーを確保するための時間が必要だし、高額な広告費や協賛金を求められる広告主も投資を検討する時間が必要だろう。

不況や景気後退を恐れて、意図的に先送りすることはない。一般論としていえば、我々は非常に多くのイベントを手がけており、世界的に見れば週にひとつは開催している。短期間にいくつものイベントを集中させるのは不可能だ。私の知る限り、当初の日程どおりにおこなわれている。下半期に延期するとすれば、計画や準備により長い時間を要するか、あるいは新規の企画を立ち上げる場合だ。

下半期に延期するという戦略は、上半期よりも下半期のほうが好調だろうという見立てに基づくものだが、それは危険な賭けだと私は思う。何が起こるか誰にも予想がつかない。いくつものイベントを延期して、あれもこれもキャンセルすることになれば、それこそ悲惨な1年になるだろう。一部のパブリッシャーにとっては、危険な判断となるかもしれない。

――サブスクリプション事業の調子は? 解約率とリテンションについてだが、特に高額のプレミアムコンテンツの場合、購読を継続してもらうのに困難はあるか。

全体的に良い感触を得ている。有料会員の総数は約45万人で、毎日500人から1000人ほどが新規登録するが、成長はやや鈍化している。昨年の成長率は20%前後で、今年もほぼ同程度の成長率になると予想している(記者註:ブルームバーグの広報はサブスクリプションの解約率や更新率を公表しないと述べている。仮に2022年に毎日500人の新規会員が追加されるなら、同年の新規有料会員数は18万2500人で、既存の会員がひとりも解約しないなら、同社のサブスクリプション事業の成長率は68%となる)。

いくらか軟調な展開は予想されるが、いずれにしても競争は激しい。ダイエットアプリのヌーム(Noom)であれ、フードデリバリーのサンバスケット(Sunbasket)であれ、ネットフリックスであれ、あるいはその他7つにもおよぶストリーミングサービスであれ、必ずどこかの時点で、「37もの定額サービスに毎月会費を支払う必要があるのだろうか」と自問するようになる。答えはおそらく「ノー」だ。会社から解雇された人ならなおさらだろう。

我々のオーディエンスは不況にそれほど敏感ではないと思う。おそらく、彼らの多くは購読料を経費で落としている。自分の懐が痛むわけではないので、その分不況には強いと思う。会社から解約しろといわれることもあるが、それはまた別の話だ。そういうことで、今年は良好な成長が期待できるだろう。もちろん、このような環境で更新率を改善するには、よりいっそうの努力が必要にはなるだろうが。

――2022年5月、ブルームバーグメディアはブルームバーグ英国版を皮切りに、グローバル化計画をスタートさせた。あれから1年近くが経過した。英国版の経験はその他の国々への展開にどう活かされているか?

もともと、英国版では日々の雑事は深く扱わず、英国のオーディエンスにはグローバルな視点とアジアおよびラテンアメリカ発信の記事を配信していた。

しかし、自社のプラットフォームに人々を呼び込みたいのであれば、彼らが求めるものを提供する必要がある。それは日々配信される、政治経済に関するその国の地方あるいは全国のニュースにほかならない。我々はそれを実行し、成功した。英国版へのトラフィックは、月にもよるが、30%から40%増加し、収益の機会も劇的に広がった。我々の市場成長率をもっとも大きく牽引したのは英国だ。すでに多くの従業員を抱えていたため、大幅な増員はおこなわなかったが、数人のライターやプロデューサーを新規に採用した。

このモデルは、ROIの観点からも、ブルームバーグLPの戦略全体から見ても、非常に理に適ったものだと思う。地域内における認知度や影響力を高めれば、我々の基幹事業の一角をなす端末事業(ブルームバーグターミナル)を含め、どんな仕事もやりやすくなる。今後、このモデルをほかの地域にも拡大していく計画だ。オーストラリアやカナダなどの英語圏は、当然この構想に入っている。今年度の計画をすでに承認したわけではないが、対象地域であることは間違いない。それに、オーストラリアもカナダも我々がすでに参入しているマーケットだ。

――収益上の懸念や経済状況によって、この事業拡大に遅れは出ているか?

いまのところ、遅れは出ていない。我々の見る限り、状況は安定している。成長の減速と全体的な減退は別物で、我々はいまも成長を続けている。どの企業も成長が止まったわけではないと思う。ただ、2021年ほどの熱狂はなく、おそらく2022年と同程度にとどまるのではないか。いずれにしても、質問に対する答えは「ノー」だ。我々はまったく減速していない。募集中の職種もたくさんある。

[原文:Media Briefing: Bloomberg Media bets global expansion, TV and video will help weather the storm

Kayleigh Barber(翻訳:英じゅんこ、編集:分島翔平)

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