コロナと失政が招く「使い捨て医療」崩壊を防ごう!

アゴラ 言論プラットフォーム

年明け早々、コロナで医療崩壊とのニュース記事が出た。前々日の筆者の仕事始めそのままの内容だった。救急搬送困難も多々報道されている。国民皆保険とフリーアクセスかつ低負担を世界に誇る我が国医療が、新型コロナで崩壊の危機にある。防ぐ手立てを「かかりつけ医」制度化と合わせて真摯に考えるべきだ。

筆者の在籍する外来は発熱外来を標榜「していない」が、仕事始めの1月4日朝から電話が鳴り止まなかった。ホームページに「発熱外来はやっていません」予約システムにも「発熱、風邪症状の初診の方は予約できません」と明記してあっても、電話し予約してくる。その度に電話対応し受付業務も看護師業務も滞り、通常受診患者を無駄に待たせしてしまう。患者の院内滞在時間が延びれば、万一の感染リスクも増大し好ましくない。

新型コロナ上陸後、医療機関外来の対応はざっと3つに分かれた。1)発熱外来を開設 2)かかりつけ定期通院者(ときに受診歴がある人)のみ対応 3)発熱、風邪症状は一切診療拒否 である。

若い人は基礎疾患も無く、風邪等での受診歴すら無い人も居る。そのような若い人と、持病、基礎疾患がある高齢者でも3)の医療機関に通院していた人が、1)2)の医療機関に殺到することになる。

ここで問題がいくつか発生する。

1)他医療機関で専門的治療中の患者の対応
2)本来自然治癒が見込める特に若い人の不急の受診・問い合わせ
3)高齢者含め無症状や軽微な症状や時間経過した人

等である。

1)の場合、電話で話を聞いた時点で「引く」。コロナではなく基礎疾患との兼ね合いである。新型コロナの抗ウイルス薬は処方制限が多く副作用も懸念される。経過を知らない難病や基礎疾患がある場合、初対面で十分な情報も無く、特例緊急承認された副作用リスクが通常より高い抗コロナウイルス薬を処方し問題が生じたら、その責任の所在は?「わけのわからない患者は恐ろしい」。

2)の場合、国も若い人健康な人は自宅療養して欲しいとの方針を示し、陰性証明を求めない(無用に受診検査させない)よう求めている。 にも関わらずメディアも当初施策も国民の不安を煽り立てたためか、受診検査の求めが多い。微熱で一日に3回電話してきた人もいた。

3)の場合はさらに悩ましい。高齢者は発熱その他症状がはっきり出ないことも多いが、基礎疾患が有ればハイリスクになる。休日を挟んだり自分の都合で発症や接触から大分時間が経っている人もいる。今更と思っても万一重症化したらと考えると断れない。定期受診先に診療拒否されお薬手帳すら持参しない高齢者も居て、情報が無く実に悩ましい。

さらに、多くの小規模なクリニックは構造上、感染者や感染疑い者と他患者を隔離できない。感染疑い者同士を同室させると、実は感染していなかった人が感染者と濃厚接触し感染するリスクがある。従って感染症疑い患者は各個個室隔離対応すべきだが、複数の個室を備えることは大病院でないと困難だ。

予防措置としてマスク、ゴーグルを装着する筆者

新型コロナを2類感染症つまりコレラやペストより恐ろしいものとして扱うとなると、PPEいわゆる予防措置としてのガウンやゴーグル、手袋等をフル装備し物品環境も消毒しての対応となり、一人の診療に15分から30分かかり効率が極めて悪い。

今回コロナでは臨時の診療報酬加算や時に報奨金も設定されたが、設備投資や減収補填には足りない。

上記の理由から、発熱者を診療しないことを短絡的に非難することは、適切ではない。

結果として発熱外来は全国で約4万か所、全国で病院が約8000か所、診療所が10万2000か所に比して大分少ない。筆者の在籍する医療機関のように、かかりつけ患者や余裕があれば初診患者の発熱患者を非公式に診療している医療機関も加えて存在するが、コロナ疑いや風邪症状者の診療を行う医療機関は半数以下である。

第八波が終息しつつあり、インフルエンザも騒がれたほど流行せず幸いだった。ただコロナ診療している医療機関と職員の負担、疲弊は甚だしい。対応能力を超えやむなく診療を断ればネット口コミに悪し様に書かれる。重症度も感染力も高い「超新型」が発生したら、「最前線」の外来診療はパンクしかねない、というのが実感である。

この問題の根底には、

  1. 風邪のウイルスの一種(風邪の最大35%程度と言われる)のコロナウイルス感染症を、新型といえど3年間もコレラ、ペスト以上の伝染病扱いにしていたことは適切だったのか
  2. インフルエンザ同様の5類扱いなら簡単なマスク手袋、病院では個室隔離、程度でどの医療機関でも対応可能だったのに、フル装備のPPEを(ソンタクで)求め対応困難にした
  3. 人類史上経験の無い短期間に莫大な人数にワクチン接種するため医療リソースを浪費した
  4. 本来医師と医療機関には応召義務があるのに、定期通院患者を診療拒否することを看過した
    という主に政策施策的問題と、
  5. 高度な専門的治療が必要無いのに大病院にかかろうとしたり、いくつもの病院を受診する病院・ドクターショッピングにより責任をもって診療してくれる医師を持っていない患者。フリーアクセスの弊害
  6. コロナ診療を公費無料にしたため無症状や軽微な症状でも「コンビニ受診」する という患者側のマインド

を政策施策が助長し一部専門家がメディアで煽り立てたことが問題である。

筆者はコロナワクチン接種開始当初の混乱について、定期通院者はかかりつけ医(療機関)での接種を第一にすべき「やってる感」場当たりポピュリズム政治施策が招いた新型コロナワクチン接種の問題と提言したが、発熱や風邪症状もかかりつけ医の対応を第一義にしていれば、現在の混乱には至らなかったはずである。

その点で「かかりつけ医制度」が議論されている今、定期通院者の診療の「責任者」を定める制度化は今後重要と考える。

また定期通院していない者のために、地域の基幹病院は感染症診療対応を義務付け予算設定し施設整備と教育を為すべきだ。小規模な診療所に無理に診療させるより、規模の大きい病院を隔離対応可能に整備するほうが合理的だ。

何より政策施策が科学的検証に基づき迅速で合理的である必要がある。コロナ上陸後すぐ4月には、世界的医学誌ランセットにコロナウイルスが血管内皮細胞を障害するという論文が掲載され、この時点で高齢者にはハイリスクだが健康人には風邪程度と予測可能だった。我が国には国立感染症研究所という立派な研究機関があるのに、予算削減で情報発信すら不十分だ。新興感染症へのBCP、初動体制を感染症専門機関中心に明確化し予算配分すべきだ。

古来より我が国は何度も神風に加護されてきた、今回も間一髪の感であるが、次もそうとは限らない。必死で発熱風邪症状対応している医療機関が報われず口コミで悪し様に言われては、かつての大野病院事件による産科医療崩壊の二の舞すら起こりかねない。

第八波去って良かったマスク外そう、ではなく、今こそ使い捨て医療を改め、フリーアクセス見直しやかかりつけ医制度そして感染症対策体制整備など、今後の備えを考えるべきだ。

【参考】

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