これは、もっとも人気のある新興テクノロジーに関する調査シリーズの第2弾である。本シリーズはGlossyの姉妹サイト、DIGIDAYが5年前にまとめたレポートをフォローアップして、以前にレポートしたテクノロジーがどのように進化したかを考察、ブロックチェーンやロボッティクスなどの新しく登場したテクノロジーを探るものである。この記事ではマーケターが自然言語処理とデータドリブン型のパーソナライゼーションのAIツールをどのように活用しているかを考える。
Glossy+リサーチはエージェンシーやブランド、小売業者やパブリッシャーなどの組織の業界専門家388人にアンケートを行った。データドリブン型のパーソナライゼーションと自然言語処理を現在どのように使用しているか、そしてこれらのテクノロジーを将来どのように統合する予定であるかを尋ねた。また、Glossyは企業やエージェンシーの幹部にもインタビューを実施した。第2弾のレポートをお届けする。
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パーソナライゼーションの取り組みの推進に向けて顧客の購入データと閲覧履歴の使用が急増
マーケターが製品広告と商品推奨のパーソナライゼーションに注力する際、データドリブン型のパーソナライゼーションを強化するために使われる消費者データポイントのトップは、ウェブサイトでの行動(クリック、ページ滞在時間、カート放棄率など)、位置情報、ブラウザ・検索履歴などであり、マーケターはウェブサイトでの顧客の活動とIPアドレスを追跡することでこれらを取得できる。
マーケター回答者の74%が、広告クリエイティブやユーザーエクスペリエンスのそのほかの側面をパーソナライズするための主要な属性としてウェブサイトでの行動を考慮すると述べている。また、回答者の69%が位置情報を使用し、52%がブラウザ・検索履歴を考慮している。これにより、マーケターが、ユーザーがオンラインで検索している方法や位置情報、検索内容に主にフォーカスしていることが示されている。
リテールメディアの台頭に伴ってこのようなデータポイントのすべてがいっそう簡単に利用できるようになり、ブランドにとってデータポイントの直接的な関連性が高まっている。たとえば、最近発表されたクローガー(Kroger)とアルバートソンズ(Albertsons)のスーパーチェーンの合併は、ブランドらが広告ターゲティングに使うことができるいっそう幅広いデータを提供することによって、2社の合併企業がリテールメディア分野で2番目に大きなウォルマートと競合できる可能性を意味している。
両社はプレス発表で次のように述べている。「両社が組み合わさると、全米で約8500万世帯に拡大された国内オーディエンスと関わることができ、リテールメディア(Retail Media)、クローガーパーソナルファイナンス(Kroger Personal Finance)、カスタマーインサイト(Customer Insights)など、別の収益ビジネスの成長が促進される」。
この5年間においてマーケターのリテールメディアへの関心が高まっている。これはeコマースの巨大企業、Amazonが構築した巨大な広告ビジネスのおかげだ。現在、Amazonはリテールメディアの広告環境をリードしており、昨年の広告収入は310億ドル(約4.2兆円)に上っている。また、消費者はパンデミックの間に購入の多くを実店舗からeコマースへと移行している。
また、過去5年間でマーケターの回答者はGlossyの姉妹サイトであるDIGIDAYが2017年に尋ねた消費者属性カテゴリーのほとんどの使用を増やしているが、年齢、趣味、職業は例外だった。金融・購買データ(リテールメディアネットワークのおかげでかつてないほどの量がアクセスできるようになっている)とブラウザ履歴はそれぞれ10パーセントポイントを超える最大の増加を示している。
そして、このデータの用途は購入が完了したら終わりというわけではない。FGXインターナショナルのジェランタビー氏は、購入後のデータを分析して、同社のパーソナライゼーションの取り組みが効果的かどうかを理解することにもっとも価値があると述べている。「10万個の商品を売るつもりで10万個の商品を売ったとしても、それは全体像の半分にすぎない。成功を収められたかどうかが本当にわかるのは購入後だ」。
「製品レビューに関するセンチメントはあまり注目されていない」とジェランタビー氏は付け加える。「人々が製品を気に入ったかどうかを本当に理解するために返品や様々なデータポイントをすべて調べるべきだ。現実的には何かを10万個売ってその6割が返品されたなら、成功とは言えない。同じことを繰り返す決断を下すべきではない。消費者が(製品に)どのように惹かれているかを本当に理解するために使えるデータポイントは大量にある」。
重要な調査結果
•マーケターがデータドリブン型パーソナライゼーションを強化するために使用する消費者データポイントのトップは、ウェブサイトでの行動、位置情報、ブラウザ・検索履歴である。
•消費者データポイントが使われるのは、マーケターが、ユーザーがオンラインでどのような方法で、どこで、何を求めているかに主にフォーカスしていることを示している。これらはリテールメディアの台頭に伴いいっそう利用しやすくなったデータポイントである。
マーケターはAIのプライバシー範囲を超えないために消費者向けクイズやオプトアウトオプションを利用
サードパーティCookieの廃止の実施が徐々に近づいているため、消費者データの収集はほとんどのマーケターにとって最優先事項である(GoogleはサードパーティCookieの廃止を2023年まで再延期している)。マーケターは顧客のプライバシーを尊重しつつ、パーソナライズされた広告や製品推奨のために顧客データを収集する最善の方法を検討している。また、より厳格なデータプライバシー法の出現とその施行にも対応している。
2018年5月、欧州連合は一般データ保護規則法(GDPR)を制定した。これは、個人の個人情報の収集と使用に関するガイドラインを設定しており、企業は、データをどのように使用しているか、いつデータが侵害されたかを消費者に通知しなければならない。同様に、同じく2018年に制定されたカリフォルニア州消費者プライバシー法(CCPA)は、企業が収集する個人情報と、それがどのように使用・共有されているかを知る権利を消費者に与えている。また、消費者には収集した個人情報を削除する権利と、個人情報の販売をオプトアウトする権利が付与されている。
マーケターの中には、D2Cブランドのドーラッシーズ(Doe Lashes)のようにデータ取得をゲーム化してデータ追跡規制を回避する方法を見つけているところもある。スティッチフィックスのスタイルシャッフルゲームと同様に、ドーラッシーズの「ラッシュクイズ(Lash Quiz)」は消費者がアイラッシュとメイクアップの使用に関する一連の質問に答えるもので、クイズの最後にアイラッシュに関する推奨事項が提供される。ソフトウェア会社のオクタンAI(Octane AI)とeコマースプラットフォームのクラビヨ(Klaviyo)によるケーススタディではこのクイズの平均コンバージョン率は4.6%だという。
オクタンAIのプレジデント兼共同創業者であるベン・パー氏は、データ追跡規制の変更に対する準備がまだ整っていないブランドはクイズを使うことによってプライバシー規則に違反することなくデータを収集できると述べている。
「消費者は同意なしに追跡されることを望んではいないが、パーソナライズされた体験は希望している」とパー氏。「クイズやアンケートを通して消費者は自分が情報を自発的に提供していることを知っている。これは根本的に異なるプロセスだ」。
ほかにも、消費者データの収集だけではなく、プライバシーのベストプラクティスにもフォーカスした独自の社内データチームを抱えている企業がある。ゼネラル・ミルズのジェンセン氏によると、同社の社内データチームは消費者にデータ収集をオプトアウトするオプションを提供しており、同社のプライバシー規制の遵守に役立っているという。
「規模やブランドに関係なく、(消費者は)ゼネラル・ミルズが持っているデータをワンクリックでコントロールできる」とジェンセン氏。「1クリックすれば管理したり登録解除ができる。ゼネラル・ミルズから二度と連絡を受けたくないなら、…混乱や手間はない」。
衣料品会社のリーバイ・ストラウスは閲覧履歴とクリックストリームデータを使用して、検索結果をパーソナライズして購入客に推奨商品を提供している。ただし、同社の最高AI責任者であるカティア・ウォルシュ氏はオプトアウトの選択肢は消費者に明確に提示されていると述べている。「結局、データは消費者のものだ」とウォルシュ氏。「データをどうするかを決める権利は消費者にある」。
「企業がそのデータを使って何をしているのかを、効率的で迅速で、かつわかりやすい言葉で、責任を持って明確に消費者に説明する限り、基本的に消費者にコントロールがある」とウォルシュ氏は付け加える。
また、ウォルシュ氏はプライバシー規制の遵守とデータドリブン型のパーソナライゼーションは両立可能だと信じているという。「パーソナライゼーションとプライバシーは対立する必要はない。だが、企業が消費者にプライバシーに関する情報を確実に提供して、データ管理の権利を行使する機会を与えることは最大の責任であり、実際のところ不可欠だ」。
多くのブランドがデータプライバシーの遵守に対して強い姿勢を示しているが、ウェブサイトにアクセスしたときに消費者が経験する現実はそれとはかなり異なっている可能性がある。2021年の調査でDIGIDAYは、米国のトップデジタルメディアプロパティのランキングであるコムスコア50(Comscore 50)にリストされている(主にパブリッシャーに所有されている)メディアプロパティのウェブサイトを訪問してダークパターンの行動を測定した。ダークパターンとは、人々が実行したくない、または実行していることに気付いていない可能性のある行動を起こさせるために使われる戦術だ。これは、データプライバシーに関しては、データ収集の通知に明確なオプトアウトプロセスがない、またはオプトアウトオプションを隠しつつもっと目立つボタンでオプトインを強調するという形をとることが度々ある。
調査結果によると、DIGIDAYが測定したサイトのうちユーザーにプライバシー通知を表示していたのはわずか11%だったという。その11%のうち、62%には暗黙の同意のポリシーがあった。つまり、プライバシー設定を設定しなかったサイトユーザーや明示的にオプトアウトをしなかったサイトユーザーはデータ収集を続ける許可をサイトに自動的に与えていたのである。
DIGIDAYが多くのメディアプロパティサイトで見たダークパターンの行動は明らかな違法ではないが、全体的な戦略には大部分のブランドが表明した透明性のある顧客第一のポリシーが反映されてはいない。
重要な調査結果
•マーケターはCCPAなどのプライバシー規制の強化を踏まえて、パーソナライズされた広告や製品推奨のために顧客データを収集する最善の方法を検討している。
•一部のマーケターはクイズを使ってデータ収集をゲーム化することにより回避策を見つけており、多くはデータ収集をオプトアウトするオプションを提供している。
コロナ禍によりカスタマーサポートの最前線に躍り出たチャットボット
マーケターは過去5年間においてデータドリブン型のパーソナライゼーションを着実に使用しているが、NLPアプリケーション(主にチャットボットの形式)の使用は同期間に増えており、2017年の31%から2022年には44%になっている。ブランドの多くはカスタマーサービスをマーケティングの延長と見なしており、チャットボットもその役割を果たしている。
2017年と異なっているのは、2022年の調査で取り上げられた広範なNLPカテゴリーにはソーシャルメディアリスニングやテキストのセンチメント分析などの複数のテクノロジーが含まれている点だ。だが、チャットボットはマーケターが使用するNLPのもっとも一般的な形式であり、NLPを使うブランドの大半は2022年にチャットボットを使用していると述べている。ソーシャルリスニングとセンチメント分析については下のグラフを参照してほしい。
マーケターがほかのタイプのNLPよりもチャットボットを多く使用しているのは、それがカスタマーサービスとデータ収集のための実用的な方法であるからだ。チャットボットは、事前にプログラムされた単純な質問に答えるだけでなく、注文状況の更新、製品推奨の提供、メールアドレスの収集、製品の好みに関する消費者への質問にも活用できる。質問への回答はターゲットを絞ったマーケティングキャンペーンやカスタマイズされたエクスペリエンスのために後日使われる。
ますます複雑になるリクエストを処理するチャットボットに対するマーケターのニーズと、マーケターと消費者のやり取りにおけるチャットボットの全体的な役割は時が経つにつれて進化して拡大している。2017年にはマーケター回答者の52%が、主に製品についての教育を消費者に提供するための情報リソースとしてチャットボットを使ったと述べている。
2022年にはチャットボットの役割はカスタマーサポート機能に大きくシフトしている。回答者の65%がチャットボットを使ってカスタマーサポートを提供していると答えており、チャットボットを消費者の情報リソースとして使っているマーケターは32%にすぎない。
カスタマーサービスにチャットボットを使用するという変化は、コロナパンデミックの最盛期に対面型のショッピングが一時停止したことが一因であるかもしれない。ブランドは、顧客データを収集してeコマースの売上を伸ばすと同時に、製品の推奨など販売員が顧客に提供する店内体験の一部を再現するためにサイトでチャットボットをホストすることに注目した。
トロント拠点の紳士服小売業者、ハリーローゼン(Harry Rosen)は2020年11月にチャットボットを導入して、eコマースの売上の増加に伴う顧客からの問い合わせの増加に対応した。チャットボットは当初、店舗の営業時間やプロモーションに関する問い合わせなどプリロードされた簡単な質問に答えることにフォーカスされていた。2022年3月までに、注文状況のライブアップデートやキャンセル、交換、衣服の仕立て直しなどのほかのカスタマーサービスも提供するようになった。
「最初にAIチャットを決定したとき、AIがカスタマーサービス担当者の仕事を奪ってしまうのではという懸念があった」と述べているのはハリーローゼンのエグゼクティブバイスプレジデント、マヌエル・マシエル氏である。「だが、AIを統合して、従業員が同じような問い合わせを何度も担当するのを減らしたいと思った。…問い合わせチケットが7日間も遅れて未処理になっていて、社員の士気は最悪だった時期もあった」。マシエル氏は、チャットボットによりカスタマーサービス担当者が顧客とやり取りする前に問い合わせに関するコンテキストが提供されると付け加える。
パンデミックがどうやら収束ししつつあり、消費者とマーケターが複雑な質問やタスクにチャットボットを使うことに慣れてきているために、マーケターがカスタマーサービスのやり取りにチャットボットを使い続ける可能性は高い。FGXインターナショナルのジェランタビー氏は、ショッピングシーズンやトラフィックが多いほかのショッピングサイクルでもチャットボットを使う価値があると語っている。
「特にカスタマーサービスに関しては対応するのに十分な人員がいない場合がある」とジェランタビー氏。「ホリデーシーズンなどの多忙な時期に単純な質問への答えを待たされるほど(顧客にとって)イライラさせられることはない。私は、一般的なFAQやサイトで回答を調べる以外に、もっと簡単なセルフサービス方法として顧客にまずチャットボットを提供することを強く支持してきた」。
「注文の追跡や、保証に関する質問に答えるなどの非常に単純なタスクはおそらく人の手を煩わせずにできることだ」とジェランタビー氏は付け加える。「人が対応しなければならない時点になったとしても、(企業はそれまでに)少なくとも作業の一部を軽減できている。顧客とビジネスの両方に便利な側面がある」。
重要な調査結果
•マーケターのNLPアプリケーション(主にチャットボットの形式)使用は、過去5年間で増加し、2017年の31%から2022年には44%になった。
•消費者向けの情報リソースとしてではなく、主にカスタマーサービスのためにマーケターがチャットボットを使用することは、パンデミックの最盛期に対面型ショッピングが一時停止したときに増加した。
CATHERINE WOLF and LI LU(翻訳:ぬえよしこ、編集:山岸祐加子)