パブリッシャー各社、記事の パーソナライズ 化をテスト中:「記事の1本1本に、必ず読者がいる」

DIGIDAY

ニューヨークタイムズ(The New York Times)やワシントンポスト(The Washington Post)など、従来型のパブリッシャーはいま、自社サイトのパーソナライズ化に向けて実験的施策をおこなっている。個々人の関心や行動に合わせてキュレーションしたニュース記事などをホームページ(ウェブサイトのトップページ)に表示することで、読者のエンゲージメントを高めるのが狙いだ。

ニュースパブリッシャー各社は以前から、アプリ内でコンテンツのパーソナライズ化を進めてきたが、最近、新たな試みとしてPCサイトのホームページ内での実験に力を入れはじめた。読者個々人の関心事、居住地、閲覧履歴に特化したコンテンツ用のセクションを設置するパーソナライズ化により、記事閲覧の増加、エンゲージメント率の向上、購読継続率と有料会員へのコンバージョン率の改善を期待している。サイトのトラフィックが減少傾向にあるニュースパブリッシャーでは、新規購読者の獲得と既存購読者の維持が難しくなり、こうした施策が求められている。

また、ChromeブラウザでのサードパーティCookieのサポート廃止が近づくなか、サイト訪問者のトラッキング目的で収集するファーストパーティデータの重要性が増してきたのはいうまでもない。

「カスタマージャーニーを支援したい」

2022年3月末、ワシントンポストは自社サイトのホームページ内に、有料会員とメール登録会員向けにパーソナライズ化した「For You」というセクションを立ち上げた。アプリ版For Youタブ内コンテンツの成功を受けて展開した施策だ。購読者維持のため、5月にも新たなパーソナライズ化機能を公開する予定だという。同社のキュレーション/プラットフォーム部門長に1月25日付で昇進したコリーン・オリア氏に取材したところ、詳細は明かされなかったが、新機能の導入で「以前に比べユーザーは、ウェブサイトとアプリ上の閲覧履歴がはるかに把握しやすくなる」という。

「当社のサイトを頻繁に訪れるユーザーには、過去に読んだ記事の更新版や、新着記事を読みたいというニーズがある。そんなカスタマージャーニーを支援したいと我々は考えている」とオリア氏は語る。

ニューヨークタイムズも購読者の記事閲覧数を増やすべく、PCサイトとアプリのホームページでパーソナライズ化実験をおこなっている。4月に新設した「実験/パーソナライズ化」チームは、編集部、商品部と連携しながら、居住地または閲覧履歴にもとづいた読者層のターゲティングを試みており、「In Case You Missed It」と称するモジュールを追加してアクティブテストを実施している。チームを率いるパーソナライズ化担当副編集長のデリック・ホー氏は、一連の試験について「当社が手がける幅広いジャンルの報道記事を紹介し、得意分野のコンテンツを展開していくための取り組みだ」と述べている。

ワシントンポストの「For You」

オリア氏によれば、ワシントンポストの「For You」セクションは次の要素をもとに構成される。①有料・無料購読申し込みの際に読者が「興味がある」として選んだジャンルのトピック、②当該読者の閲覧履歴、③各種プラットフォームで配信される記事のパフォーマンス統計データ(詳細は非開示)。読者とFor You間のエンゲージメントが増えれば増えるほど、おすすめコンテンツを抽出するアルゴリズムの精度が上がり、読者のニーズに合った記事を表示できるようになる。

「読者にとって関連性の高いコンテンツは、購読体験の充実には欠かせない」とオリア氏はいう。「適切なコンテンツを適切なタイミングで配信することがもっとも重要で、的確なキュレーションと高度なパーソナライズ化をバランスよく組み合わせて対応する必要がある」。

ニューヨークタイムズの「In Case You Missed It」

ニューヨークタイムズのサイトではテスト運用として、ホームページのオピニオン欄の下に「In Case You Missed It」のセクションが追加された。アルゴリズムによる運用が基本だが、表示される記事の候補一覧をとりまとめるのは編集者だ。個々の読者向けに設計されたこのセクションは、読者が記事を閲覧したら30日間は同じ記事を再表示させない仕組みになっている。

ニューヨークタイムズは地域ターゲティングのテストも実施し、特定の読者セグメント向けに関連性の高い記事を表示した。たとえば2021年9月、ギャビン・ニューサムカリフォルニア州知事解職の是非を問う住民投票(リコール選挙)の際にはサイト訪問者のうちカリフォルニア州在住者を対象に配信コンテンツを拡大した。また同社は、地域に特化したおすすめコンテンツ(カリフォルニア州在住者向けに山火事発生時の緊急情報など)の配信も検討したと、アソシエイト・マネージングディレクターのカロン・スコーグ氏は述べている。

こうした取り組みの多くは、商用化には少し時間がかかるかもしれない。「当社はまだ、必要なツールを開発し改良を重ねている段階で、ユーザーに関する調査研究を進めている」とホー氏はいう。

ニュースパブリッシャーがパーソナライズ化を重視する理由

ニューヨークタイムズもワシントンポストも、ホームページに毎日表示される主要ニュースについては、キュレーションの大半を人的作業でおこなう意向を示している。しかし、パーソナライズ化セクションやモジュールは、編集者の負担を軽減しながら関連性の高いコンテンツを表示する役割を果たし、購読者のエンゲージメント向上と購読者基盤の維持および有料会員へのコンバージョンにつながると、両社の担当チームは期待を寄せる。

ニューヨークタイムズの場合、1日に配信する記事のリンク先URLは200に上る。「毎日200本もの記事を閲覧できる読者はいない。一連のテストを通じて得た知見を活かし、適切なコンテンツを適切な読者に、適切なタイミングで届けたい」とスコーグ氏は語る。

電子版購読者数が800万人に達したいま、同社幹部が望むのは、サイト上での購読体験をさらに充実させることだ。「それを実現する手段のひとつがパーソナライズ化だ」とホー氏はいう。「読者には、当社配信の記事を他社サイトで読むときより、はるかに質の高い体験を享受してもらいたいと我々は考えている」。

ワシントンポストのオリア氏は、パーソナライズ化により、メール登録会員から有料購読会員へのコンバージョンを促進できるとしている。また、有料会員、とくにサイト訪問回数の多い購読者にとってもパーソナライズ化はお得感があり、購読継続の誘因となるという。「そんな読者にとって、サイトを訪れるたびに新しい発見があることは重要だ」とオリア氏は指摘する。

ニューヨークタイムズでもパーソナライズ化は優先課題となっている。スコーグ氏によると、サイトのホームページに掲載されるコンテンツは刻々と変わるため、読者が重要な記事を見落としてしまう可能性は十分にある。パーソナライズ化に必要な情報として、同社では購読者のなかで週に1度サイトにアクセスする人々と1日に10回アクセスする人々を、特定のアルゴリズムを用いて識別できる(具体的な方法は非開示)。担当の新設チームは、「購読者がいつサイトを訪れても、そのときその人にとって重要と我々が考えるコンテンツを確実に読んでもらえるよう力を尽くしている」とスコーグ氏は語る。「それこそ、我々が長いあいだ、実現したいと願ってきたことだ」。

パブリッシャーと読者の双方にメリット

コンテンツレコメンデーションプラットフォームのタブーラ(Taboola)創業者兼CEOのアダム・シンゴルダ氏によれば、パーソナライズ化は、パブリッシャーと読者の双方にメリットをもたらすという。パブリッシャー側は、Amazon、Twitterなどテック大手やソーシャルメディアプラットフォーム大手が有するアルゴリズムへの対抗手段を確保できる。そして読者側は、既読・未読の履歴データをもとにパブリッシャーが適切なコンテンツをサイトに配信してくれるため、より質の高いユーザー体験が得られる。

タブーラは2022年1月、「Homepage for You」と称する新商品を発表した。これはパブリッシャーのサイトにAI機能を実装し、読者の興味・関心に合わせてパーソナライズ化した関連性の高いコンテンツを配信できる、購読者数増とエンゲージメント向上を狙ったソリューションだ。すでにマクラッチー(McClatchy)やインディペンデント(The Independent)といったパブリッシャーがベータ版を使用しており、ホームページを対象としたベータテストの結果、タブーラの技術でパーソナライズ化されたセクションのクリック率(CTR)が30%~50%改善したという。

「TwitterやFacebookなど、企業がメディア予算をつぎこんでいるプラットフォームの大半はすでに、完全にパーソナライズ化されている」と指摘するのは、マルチチャネル収益化/エンゲージメント・プラットフォームのジーング(Jeeng:旧パワーインボックス[PowerInbox])のCEO、ジェフ・クピエツキー氏だ。ジーングは、ウェブサイト訪問者の閲覧履歴データを収集し、訪問者個々人の興味・関心に即したおすすめコンテンツを抽出できるソリューションをパブリッシャーに提供している。SNSの場合、個人のホーム画面上のタイムラインとニュースフィードにパーソナライズ化されたコンテンツが表示されるが、それを実現するアルゴリズムのようなソリューションがパブリッシャーにも必要だと、クピエツキー氏は主張する。

ニューヨークタイムズのスコーグ氏はこう述べている。「当社が公開する記事の1本1本に、かならず読者がいるはずだ。我々はその読者たちを見つけようとしている」。

[原文:How publishers are experimenting with more homepage personalization sections

Sara Guaglione(翻訳:SI Japan、編集:黒田千聖)

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