赤字が続くペロトン、復調へのテコ入れ策:「会員1億人計画」や「サードパーティ戦略」も

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自宅用フィットネスブランドのペロトン(Peloton)は、損失の増加とコスト増大のなか、メンバーシップを増やし、コストを削減することで生き残りを図っている。

5月10日に行われた会計年度第3四半期(1〜3月)の決算発表によると、ペロトンの収益は前年同期比23%減の9億6400万ドル(約1240億円)だった。これに対して損失は、7億5710万ドル(約977億円)に増加した。同社は2月、新CEOにバリー・マッカーシー氏を採用し、2800人の従業員を解雇した。同氏は、5月10日に行われた初の株主向け決算説明会で、同社の現在限られたキャッシュフローに言及し、「事業再生は、その性質上から驚きに満ちている」と述べた。成長軌道に乗るために、フィットネスアプリの会員数拡大、商品の値下げによる販売促進、サードパーティ小売への参入による安価な顧客獲得に注力する方針だ。

決算説明とともに発表された株主への手紙のなかで、マッカーシー氏は、ペロトンの会員数を1億人に増やす意向を表明した。これは、同ブランドの現在の700万人をはるかに超える数値だ。「これは、全世界にあるグローバルジムの会員数の約半分に相当する」と、同氏は述べる。「当社の現在の位置からははるかに遠い目標だ」。

主力商品の値下げに踏み切る

成長を再活性化するためのペロトンの計画は、基本的には同社のオンラインフィットネス動画と、バイクやトレッドミル製品を分離し、動画によるワークアウト・サービス単体に対してより多くの課金を行うことだ。4月には、米国内ですべてのアクセスが可能なメンバーシップの料金を毎月39ドル(約5030円)から44ドル(約5680円)に値上げした。

マッカーシー氏は次のように述べている。「バイクを今すぐ所有したいメンバーは確実に存在し、当社はそのようなメンバーに喜んで販売する。しかし一方で、初期コストのせいでメンバーになることを躊躇している人々も存在する」。そのような顧客にとって、ペロトンのオンラインフィットネス動画は、ボクシング、ランニング、ヨガ、筋力トレーニングのライブおよびオンデマンドのクラスへのエントリーポイントとなり得る。アプリのメンバーシップ単独の料金は、毎月12.99ドル(約1680円)だ。

しかし、第3四半期で合計メンバーシップは前年同期比で29%増加しているものの、コネクテッド・コンシューマーの月ごとの平均運動量は28%も減少した。グローバルデータ(GlobalData)のマネージングディレクターを務めるネイル・サンダース氏は、会員数は増えているが、成長は鈍化していると指摘している。

サンダース氏はメールで次のように述べている。「会員数の成長の鈍化には、いくつかの理由がある。パンデミックのロックダウンのあとで人々がジムに戻りつつあること、競合プラットフォームが数多く存在すること、サブスクリプション側では人々が支出に消極的なこと、そしてペロトンは獲得しやすい顧客をすでに獲得し尽くしてしまい、新しい顧客を獲得するにはさらに努力が必要なことだ」。

加入への障壁の高さに対処するため同ブランドが使用したもうひとつの手段は、単にその障壁を低くすることだ。同社は4月、バイクとトレッドミルの両方のコストを150ドル(約1万9400円)から350ドル(約4万5200円)引き下げ、1400ドル(約18万1000円)から3000ドル(約38万7000円)の範囲にすることを発表した

マッカーシー氏は次のように述べている。「価格引き下げの結果として、合計収益の明確な増加が見られる。この値下げの結果として、ビジネスがよりうまく働くようになったことは極めて明白だ」。

サードパーティ戦略

米モダンリテールは2019年、ペロトンがラグジュアリーブランドとしての地位で直面している課題について報じた。具体的には、カルト人気の状態を維持する一方で新しい顧客を見つけ、同時にミラー(Mirror)、エシュロン(Echelon)、トーナル(Tonal)などの競合他社を退けることだ。フィットネスブランドとしてのペロトンは、多くの点で今もこれらの同じ問題に直面している。ルルレモン(Lululemon)のミラーエシュロンなど低価格の競合他社は初期費用がそれぞれ1495ドル(約19万3000円)と900ドル(約11万6000円)からで、顧客獲得のための投資を増やしている。

しかし、ペロトンが自社の中核商品の価格を引き下げれば、高級感に乏しい低利益の企業になる恐れもある。ブランドコミュニティおよびコラボレーションコンサルタントのジョノ・ベーコン氏は以前、米モダンリテールに次のように語った。「人々がペロトンに対して持っている認識は、Appleに対しての認識と同じだ。Appleはラグジュアリー商品だ。人々は高級品としての魅力とサービスを求めている」。

ペロトンにとってもうひとつの焦点は、ほかの販売チャネルを成長させることだ。マッカーシー氏は決算説明会で、同社がサードパーティの小売業者をどのように取り込んでいくかについて詳細を明かすことに消極的で、同ブランドを厳密なD2Cと自社ショールームという戦略から移行する意図を再確認するにとどまった。

同氏は次のように述べている。「当社は現在、いくつかの小売パートナー候補と協議中だ。費用対効果に対するトレードオフがどのようなものになるかを明確化するには時期尚早だ。しかし、当社が交渉できた契約が、サードパーティの小売業者を通してハードウェアを販売しているほかの会社と異なると考える理由は特にない」。

ペロトンから株主への手紙において、このサードパーティへの転換は、同社によれば「今後数カ月以内に」開始される一連の取り組みのひとつとして記載されていた。

「事業再生への道は険しい」

iOS14のプライバシー変更によって、デジタルマーケティングのコストが上昇しているなかで、D2C以外の販売手段に移行しようとしているフィットネス企業はペロトンだけではない。たとえばトーナルは、百貨店のノードストローム(Nordstrom)に店舗内ストアを設置するため投資した。一方でルルレモンは、ミラーのワークアウト技術を自社の多くの店舗で展示している

サンダース氏はサードパーティ戦略を称賛しているが、これによってすべての問題が解決するわけでないだろうとも説明している。

サンダース氏は次のように述べている。「事業を再生させる道は存在するが、険しいものだ。ペロトンはコストの削減と、メンバーシップやサブスクリプションの増加の両方を同時に達成する必要がある。この適切なバランスを実現するのは、特に競合サービスが多数存在する状況においては容易なことではない。また同社は既存の顧客も維持する必要がある。こちらも困難な作業で、経費のさらなる増加を招く可能性がある」。

[原文:As losses mount, Peloton lays out a new way to grow memberships]

Maile McCann(翻訳:ジェスコーポレーション、編集:戸田美子)
Image via Peloton

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