ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡が6月の終わりに撮影したのは、知られる限りもっとも遠方にある2つの銀河です。ビッグバンの数億年後には存在していたこれらの銀河は、生まれて間もない宇宙を照らす数少ない光源でした。
ビッグバン直後に形成された2つの銀河
両銀河は、「ちょうこくぐ座」内の、比較的小さな4つの銀河団が集まった巨大銀河団「エイベル2744」の外れにあります。一方の銀河は宇宙の始まりであるビッグバンから4億5000万年後に存在していて、もう一方はわずか3億5000万年後に形成されていました。
遠方にある天体は赤みがかって見える
これら銀河の赤方偏移は、およそ10.5と12.5です。
赤方偏移とは、遠方にある天体の放つ光の色が赤みがかる現象で、その値と天体までの距離には関係があります。膨張し続けている宇宙を渡る光は、長い距離を伝わるにつれ波長が引き伸ばされて長くなり、色が赤の方向へずれ、これが赤方偏移として観測されます。
そのため、赤方偏移の大きな天体ほど遠くあり、古いものだと判断できるのです。同じ時代の銀河としては、赤方偏移が11.8の、ウェッブ宇宙望遠鏡で撮影されたはるか遠くのメイジー銀河があります。
宇宙で生じたほぼ最初の光源
宇宙が誕生したのは約138億年前で、最初の恒星が生まれたのはその数億年後です。つまり、両銀河は、宇宙で生じたほぼ最初の光源だったといえます(ただし、宇宙誕生から約38万年たったビッグバンの残光である、宇宙マイクロ波背景放射という光は別です)。
「重力レンズ」の効果
地球から銀河団エイベル2744までの距離は約35億光年ですが、最近発見された両銀河はさらにその数十億光年も遠くにあり、年齢も上です。放たれる光は極めてかすかなものの、手前にある銀河団の重力レンズ効果のおかげで強調され、ウェッブ宇宙望遠鏡で捉えられました。
重力レンズは光を曲げて集めるため、遠方の天体を観測しやすくしてくれます。天文学者は、この奇妙な宇宙のレンズを利用して、最古の恒星を探したり、恒星が最期を迎えるときに起こす、短時間しか続かない超新星爆発のような現象を繰り返し観測したりしています。それが可能なのは、観測対象の天体から放たれた光子が、巨大な重力を持つ天体の周囲を異なる複数のルートで飛んできて、それぞれ別のタイミングで地球に届くからです。
パンドラ銀河団
エイベル2744の観測は、2014年にもハッブル宇宙望遠鏡で行なわれています。NASAのフロンティアフィールド計画の一環として実施されたもので、その当時でもっとも遠方にある観測対象でした。より鮮明に撮影できるウェッブ宇宙望遠鏡で改めて観測したところ、さらに遠くの太古の光源を発見できたのです。
宇宙望遠鏡科学研究所(STScI)の発表によると、両銀河は我々の暮らす天の川銀河に比べかなり小さく、数パーセントほどの大きさしかないそうです。ちなみに、天の川銀河の大きさは、差し渡し10万光年ほどあります。
エイベル2744は、その内部にありとあらゆる物を入れていることから、パンドラ銀河団とも呼ばれます。ギリシャ神話で語られたパンドラの箱からは大量の不幸が溢れ出たのに対し、パンドラ銀河団から見つかったものは、今のところ楽しいものばかりです。ウェッブ宇宙望遠鏡で観測すればするほど、新たな知見が得られるでしょう。