「オープンインターネットへの広告投資は、社会的意義がある」 : The Trade Desk 馬嶋慶氏

DIGIDAY

いまこそ広告主は、ウォールドガーデンの外に目を向けるべきなのかもしれない。

現在、デジタル広告市場に投下される広告費の多くが、ウォールドガーデンに流れており、広告主は膨大な消費者リーチを得ている。しかし一方で、ウォールドガーデン内では、広告主が自社の広告キャンペーンの成果の詳細を開示されないことから、現状を問題視する声も少なくない。こうした状況に対し、世界有数の独立系DSP(デマンドサイドプラットフォーム)企業であるThe Trade Desk(以下、TTD)は、ウォールドガーデンへの依存から抜け出し、壁の外に広がる「オープンインターネット」に目を向けることを推奨している。

「ウォールドガーデンと広告主の関係性は、透明性が必ずしも高いとはいえない。また、オープンインターネットへの広告投資は、良質な情報を発信するパブリッシャーへの支援にもつながることから、社会的な意義が大きい。これは、広告の信頼性構築にも寄与するのではないか」。TTDで日本担当ゼネラルマネージャーを務める馬嶋慶氏はこう述べる。

現在、TTDが初期開発を進めた共通IDソリューション、Unified ID 2.0(以下、UID 2.0)や、7月にローンチされた同社広告配信プラットフォームの最新版、Solimar(ソリマー)は、広告主が持つファーストパーティデータを、安全かつ透明性を担保した形で活用し、複数のデジタルチャネルを横断した広告キャンペーンをより総合的に管理することを可能にするためのソリューションだ。なお、Solimarへのアップデートは、これまでのTTDの歴史において最大規模のものであり、同社CEOであるジェフ・グリーン氏の肝煎りではじまったプロジェクトだという。

コロナ禍やサードパーティCookie規制などの影響により、デジタル広告の世界が大きく変化しようとするいま、TTDはどのような思想でもって広告主を支援していくのか、馬嶋氏に訊いた。

◆  ◆  ◆

――コロナ禍、およびサードパーティCookie規制は、デジタル広告業界にどう影響を及ぼしていると捉えていますか?

コロナ禍への対応で、人々の消費行動が変化した点が挙げられます。いわずもがな、eコマースの需要はここ数年で大きく高まりました。加えて、UGC(User generated content)だけでなく、プレミアムコンテンツのニーズが高まっている点にも着目すべきでしょう。実際、国内大手のOTT(Over the top)サービスでは、ユーザー数の増加や動画視聴時間が伸長しています。

日々強まるサードパーティCookieの規制も、やはり多くの広告主やエージェンシーのマーケティング活動に影響をおよぼしています。しかし国内に関していえば、企業の多くはいまだ情報収集レベルに留まっている。ただ、Cookieレスの時代に向けて、マーケターはほかのIDソリューションを取り入れていく必要があることが明確になっています。

――そうしたなか、広告主やエージェンシーにどのような価値を提供していこうと考えていますか?

TTDは独立系DSP企業として、バイサイドに特化し、広告主やエージェンシーを支援しています。そんな我々が提供できる価値は大きく2つです。

1つは、Transparency(透明性)です。我々はウォールドガーデンとは異なり、どのメディアのどの枠が、いくらで購入されているかといった、広告キャンペーンのパフォーマンスの粒度の細かい情報を、広告主やエージェンシーに開示しています。

2つ目が、Objectivity(中立性)です。TTDが提携しているサードパーティのデータサプライヤーは220社以上あります。たとえば、ビューアビリティをKPIにした指標の場合、オラクル(Oracle)のような調査企業が持つデータを利用して、広告を配信することが可能です。

また、ウォールドガーデンは、データ収集と活用についての詳細なロジックを明かしていませんが、TTDはその内容を細かく開示し、そもそもオープンになっている情報を活用するので透明性/中立性のスコアが高い。こうした透明性へのこだわりは、TTDの設立以来、我々が非常に大切にしている提供価値のひとつです。

馬嶋 慶(まじま けい)/The Trade Desk 日本担当 ゼネラル・マネージャー
The Trade Deskの日本担当ゼネラル・マネージャーとして、日本における事業を統括。これまで、デジタルメディア業界や広告代理店において、営業統括からマネジメントまで20年以上の幅広い経験を有する。直近では、米国発のテクノロジースタートアップ企業であるUiPathでマーケティング部門を牽引。さらに、Taboolaのカントリーマネージャーや、Facebook日本支社の立ち上げのメンバーとして、プレミアムメディアや新興デジタルメディアと仕事をしてきた豊富な経験も有している。それ以前には、博報堂で数々のシニアセールス職として従事。また、次世代のスタートアップ企業を率いる若者を育成するインキュベーションプログラムにも携わっている。

――なるほど。Cookie規制の対応については、具体的にどのような取り組みを?

ファーストパーティデータの活用支援は、一層力を入れていきたいことのひとつです。先ほど述べた2つの提供価値に基づいて、広告主やエージェンシーをしっかりサポートしていきたいと考えています。

現在我々は、広告エコシステムの業界リーダーから大きな支持を得ている、UID 2.0という共通IDソリューションをサポートしています。これを用いれば、広告主は自社のファーストパーティデータをもとに(主にメールアドレス)、匿名性と安全性を担保したうえで、サードパーティCookieに代わる、独自のIDを生成することができます。広告主は、そこで生成されたIDを用いて、オープンインターネット上での広告配信に活用できるのです。

――ここでいう「オープンインターネット」とは、どのようなものを指しますか?

オープンインターネットは、コネクテッドTV、モバイル、オーディオやデジタル・アウト・オブ・ホーム(DOOH)などウォールドガーデンが牛耳っているプラットフォームの外を意味します。

ウォールドガーデンでは、データを壁の外に持ち出したり、彼らの広告在庫以外で使うことはできません。これは、ウォールドガーデンに広告主が持つデータの取り扱いの主導権を握られてしまうという点で、不均衡な関係といえるでしょう。こうした状況を是正するためにも、オープンインターネットの活用は重要なのです。

また、オープンインターネットへの広告投資は、社会的な意義があると考えています。というのも、オープンインターネットで良質な情報を提供するWebメディアの多くが、昨今のサードパーティCookie規制により、広告在庫のマネタイズに課題を抱えています。インターネットにおいて共通通貨となるUID 2.0を活用することで、こうしたWebメディアを運営するパブリッシャーを、後押しすることができる。これは非常に意義があることです。

ただ現在、広告費の多くはウォールドガーデンに流れてしまっている。実はインターネット上のトラフィック全体で見れば、オープンインターネットの方がウォールドガーデンよりも利用時間比率が高いにも関わらずです。実際、米国のオープンエックス(OpenX)の調査では、その比率はオープンインターネットが66%、ウォールドガーデンが34%だと報告されています。広告主のみなさんには、広告手法の見直しが求められるいまこそ、オープンインターネットの可能性に目を向けて欲しいですね。

――先日ローンチされたSolimarにも、まさにそうした思いが込められていると

はい。我々は7月上旬に既存のTTDの広告配信プラットフォームをアップデートした「Solimar」を新たにローンチしました。今回のプロダクトアップデートは、2009年の創業以来、最大規模となります。

ちなみにSolimarという名前は、スペイン語の「Sol y Mar(太陽と海)」に由来しています。この言葉には「太陽と海が面する瞬間に生み出される光が、すべてをクリアにする」というニュアンスもあるそうで、我々のこの新しい技術が、オープンインターネット、ひいてはプログラマティックの世界を「新たに切り開いていくのだ」という思いが込められています。

――Solimarの特徴を教えてください

Solimarの特徴は3つあります。

1つ目は、ファーストパーティデータを、より簡単かつ安全な形で活用できる機能です。ファーストパーティデータを活用するには、これまで非常に煩雑な手続きが必要でした。しかしSolimarでは、質を落とさずにその工程を簡素化しています。これにより、広告主はファーストパーティデータを安全にオンボードすることができます。

2つ目は、これまでよりもさらに透明性が高い形で、キャンペーンを管理できることです。ファーストパーティデータを、ウォールドガーデンにインテグレーションしてキャンペーンを実施した際、ウォールドガーデン側はログレベルデータや、インプレッションレベルでのユーザー行動を、広告主側には返しません。しかしSolimarは、詳細なデータを広告主に返すので、こうした情報の非均等性を解消できる。この点も、Solimarの大きな強みのひとつです。

3つ目は、直感的なUIです。これにより、広告キャンペーンの設定時間を簡素化させ、業務を効率化できます。我々は、広告主に大きな価値を提供するために、運用スタッフをスーパースターに仕立て上げることをミッションのひとつに掲げています。これを実現するためには、UIが非常に重要だと考えています。

また、これらの特徴以外でいうと、前回のアップデート時に搭載された「Koa™」と呼ばれるアルゴリズムのAIをさらにアップデートさせ、この度マルチKPI運用が可能にしました。たとえば、オンターゲット率とビューアビリティを両立させて、配信量を最大化させたり、動画広告の視聴完了率とリーチを両立させながら、キャンペーンを成功に導くことができるようになりました。


Solimarのインターフェイスの一部

――広告主やエージェンシーからの反響はいかがですか?

とても好評です。特に運用を担当する現場の方々から、とりわけ高い評価を頂いています。

まだプラットフォームをリリースしたばかりなので、国内事例についてはあまりお話しできる状態ではないのですが、海外では、地上波でリーチできないユーザーをCTV(Connected TV)でリーチしていくという発想で使われているケースが目立ちます。

昨今アメリカでは、地上波のキャンペーンをCTVで補完し、新たな視聴者にリーチする広告主が増えています。その際、CTVで広告配信したとき、インクリメンタルリーチや平均フリークエンシー、平均リーチ単価がどれくらいになるのか、Solimar上でシミュレーションを行うことができます。地上波とCTVを比較して、より効率的な広告投資が実現できるというわけです。デジタルマーケティングにおけるアメリカと日本のタイムラグを考えると、遅くても5~6年後には、日本でも同じような需要が出てくるのではとみています。

――それはすごい! これからが楽しみですね

オープンインターネットで質の高い媒体に投資することは、良いエコシステムを作っていく公共性のある取り組みだと考えています。そうした姿勢は、いわずもがなブランディングにも貢献するはず。その点は、TTDからのメッセージとして、今後も強く打ち出したしていきたいと考えています。

信頼性が高いパブリッシャー/報道機関の収益化をサポートしていくこと。ブランドセーフなインターネットトラフィックを守っていくこと。また、ファーストパーティデータを、適切な形で活用していけるような世界を実現すること。こうした思想でもって、より強固で透明性の高いオープンインターネットを構築し続けるために、広告主、そしてエージェンシーの支援を行っていきたいと思います。

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Written by DIGIDAY Brand STUDIO(内藤貴志)
Photo by The Trade Desk

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